第17話 一緒にお風呂
なんとかしてこの状況から早く脱さなければならない。
大浴場にて、三人の美少女に密着されて退路を断たれるという一生に一度あるかないかの状況に陥ってしまっている俺。多方向からの女体の柔らかさに今にも意識を失ってしまうそうだが、いつまでもこんな天国に身を埋めている場合じゃあない。
……いや、よくよく考えたら天獄なんかじゃない。むしろ地獄と言ってもいい。
何故なら、俺は今まさに社会的な死を迎えようとしているのだから。
「理来。お風呂、気持ちいい?」
「あ、ああ。湯加減もちょうどよくて気持ちいいよ」
顔を覗き込みながら、俺に風呂の感想を求めてくる二葉。些細な行動ではあるが、彼女が体を動かすたびに柔らかな双丘がその柔らかさを俺に教えてくるせいで、もう一人の俺が完全に臨戦態勢に入ろうとしてしまっている。こんな状態で風呂の外に出ようものなら、ケダモノ呼ばわりされて警察を呼ばれるに違いない。
耐えろ、耐えるんだ加賀谷理来。俺はまだ、こんなところで逮捕されるわけにはいかない……!
「そういえばさっき二人と話してたんですけど、センパイって意外と引き締まった体してますよね」
「そうか? 普通ぐらいだと思うが」
「無駄な脂肪があんまりないじゃないですかー。何か運動とかしてたりするんですか?」
「風呂に入る前に少し筋トレするぐらいだよ」
「ふぅん……?」
彩三は納得しているような、そうでもないような反応を見せながら――何故か俺の胸板をそっと触ってきた。
「ひゃぅん!? な、何すんだ!?」
「あはは、何ですか今の。声カワイイ~」
「いきなり触られたからびっくりしたんだよ!」
「いやぁ、いい筋肉してるなーって思って。運動部の血が騒いだんですよー」
「そう言いながら継続すんな! こらっ、ふふっ、くすぐったいだろ!」
「やーん。助けて二姉。センパイが怒ったー」
彩三を遠ざけるために飛ばした水を彼女は素早く回避し、そのまま二葉を盾にするかのように背中の方へと隠れてしまう。くっ、これでは水をかけられない……!
「今のは彩三が悪いよ」
「えー? リアクションが良すぎるセンパイが悪いでしょー?」
「私だって、理来の筋肉触りたいのに」
「え、そっち? 触りたいなら触ればいいじゃん」
「せめて俺に許可を取るように誘導しろやコラ」
「こんなに可愛い女の子に触ってもらえるのに?」
「…………それとこれとは話が別だ!」
「今めちゃくちゃ悩んでましたよね」
そのような事実は確認されていません。
ったく……生意気な後輩はこれだから手に負えない。俺に怒られないギリギリのラインを踏むのが上手すぎるんだ。きっと、末っ子として姉二人に甘えてきた経験が生かされているんだろう。その立ち回りの上手さは地味に羨ましい。
そんな甘え上手の三女のことを考えていると、突然、胸元に柔らかな感触が走った。この感触は、誰かの指が俺の胸元に押し付けられているような……。
「こ、これが、男の人の大胸筋なのね……」
「……何やってんすか一夜さん」
俺の胸元を人差し指でちょんちょんと遠慮がちに触る長女の姿があった。
バレていないとでも思っていたのか、俺に名前を呼ばれた一夜さんは瞬時に顔を真っ赤に染めると、手を激しく振りながら弁明を始める。
「ち、ちがっ、違うのよ! ピアニストとしてね? 筋肉の触り心地を確かめてたというか、ちょっと興味があったというか……!」
「とりあえず全世界のピアニストに土下座しましょうか」
「許してあげてセンパイ。一姉はね……ムッツリスケベなの」
「こっちに来なさい彩三。今からあなたをシバくわ」
「年がら年中部屋にこもってピアノ弾いてるスーパーインドア派にこのハイスペアウトドア系美少女の彩三ちゃんが負けるとでmがががぼがぼがぼぼぼ!?」
長女と三女が子供みたいな喧嘩をしていた。学園で最も有名な天才美人三姉妹の内の二人が実は小学生みたいな喧嘩をすると知ったら、学校の連中はどれぐらいガッカリするんだろうか。
「っ……」
っと、やばい。ずっとお湯につかってるから流石にのぼせてきた。そろそろ上がらないと茹ってしまう。
「あの、すいません。俺、先に上がらせてもらいますね」
「待って。まだ私が触ってない」
「俺のことアトラクションか何かだと思ってる?」
まさかの順番待ちされていた。しかもめちゃくちゃ目を輝かせている。表情の詠めないミステリアスな天才美少女ゲーマーはいったいどこへ行ってしまったというのか。
……まぁ、他の二人にはもう触られているし、今さら断る理由もないか。
俺はお湯につかったまま彼女の方を振り返り、両手を開いて受け入れの体勢をとる。
「……お好きにどうぞ」
「ん。それじゃあ遠慮なく……」
二葉は無防備な俺との距離を詰めると、そのまま力強く抱き着いてきた。
胸を触られると思っていたので、その予想外過ぎる行動を前に、俺は頭の中が真っ白になる。
「おぉ……がっしりしてる……背筋も固い……ゲームセンターの射撃ゲームをやったら、エイムが凄く安定しそう」
ペシペシさわさわむにむにと俺の筋肉を好き勝手に触り散らかす二葉。その度に、俺の身体に彼女の豊満なおっぱいが押し付けられてッてちょっと待て。
「ふ、二葉さん!? ちょっ……っと離れようか!?」
「あっ」
理性の消失を避けるため、彼女を遠ざけようとするが、二人そろってバランスが崩壊。俺に覆いかぶさっていた二葉に押し倒されるかのように、俺はそのままお湯の中で転倒してしまった。
「いててて……二葉、大丈夫か……うん?」
何故か視界が真っ暗で何も見えない。目はしっかりと開けてるはずなんだけど……俺の顔を覆う、この柔らかな感触はいったい……。
「っ……理来。おっぱいにそんなに顔を押し付けられると、流石に恥ずかしい」
「え? おっぱ……って……っ!?」
状況を理解した、次の瞬間。
体中の血液が沸騰し、体温が急上昇。
その結果、俺は彼女の胸に押しつぶされたまま、意識を失ってしまうのだった。
【あとがき】
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まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!