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第13話 その着せ替え人形は困惑する

この度、本作の書籍化が決定いたしました

レーベルの詳細につきましては後日改めて発表させていただければと存じます。


初の書籍化にたどり着けたのは応援してくださった読者の皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。


引き続き、本作のことをよろしくお願いいたします。

「いらっしゃいませ、一夜様。本日は貸し切りとさせていただいております」

「突然電話したのにごめんなさいね」

「いえ、一夜様からの頼みとあれば、たとえ日本が沈没してようとも貸し切りにさせていただく所存でございます」


 三姉妹とともにやってきたショッピングモール。

 その一角にあるやけにでかい服飾店で、俺は意味不明な会話を聞かされていた。

 店員さんと親しげに話す一夜さんを遠目に眺めながら、俺は隣でソシャゲをプレイしている二葉に話しかける。


「あの、話が見えないんだけど……貸し切りって何?」

「文字通り。今日は私たちでこの店を貸し切り」

「なにをどうしたらそんなはちゃめちゃ展開が起きるんだ……!?」

「このお店はママの会社のグループ会社ですからねー」

「え、女優じゃなかったっけ?」

「社長業もやってるんですよ」


 さも当たり前のように重要情報を開示してくる彩三。

 親も子もレベルが違う人達ばかりだ。……そんな家の三姉妹がなんで俺と同じ学校に通っているんだろうか。世界には不思議がいっぱいである。

 次女と三女から信じがたい情報を聞かされていると、店員さんとのやり取りを終えたのであろう一夜さんがこちらに戻ってきた。


「好きな服を選んでいいって。お金もいらないらしいわ」

「今日は俺の胆力を試すドッキリデーだったりします?」

「なに言ってるのあなた」


 それはこっちのセリフである。


「お金がいらないって、そんなことあり得ないでしょ! 俺、火事で全部焼けたんで、下手すりゃ三十点ぐらい選びますよ!?」

「三十点でいいの? もっと選べばいいのに」

「よーっし分かった。これはどれだけ抗議しても意味がないやつだな!?」


 金銭感覚の違いがもろに出ている。今この場において、庶民の俺こそがイレギュラーなのだ。

 ならば、今は自分の心に嘘を吐いてでも、この状況を堪能するべきだろう。

 それに――


「もしかして趣味に合わなかった? それなら、別のお店でもいいけど……」


 ――きっとこれは彼女たちなりの厚意だ。

 俺のためにわざわざ店を貸し切りにしてくれたんだから、ここでそれを無碍にするのは流石に男が廃る。

 どうせ服は必要なんだ。あとで美味しい料理でも作ってお返しをすれば、この胸の中のもやもやもきっと消えてくれるだろう。


「いえ、ここで大丈夫です。それじゃあ、ぱぱっと服を選んできますね」

「なにを言ってるの? あなたの服は私たちが選ぶのよ?」

「はい?」


 言っている意味が分からない。俺の服を何だって?


「今日このお店を貸し切りにしたのは、あなたを着せ替え人形にするためだもの」

「あれ冗談とかじゃなくて本当だったのかよ!」

「冗談なはずないじゃない。大人しく諦めて受け入れなさいな」

「嫌ですよ!」

「はぁ……じゃあ言い方を変えましょうか」


 一夜さんはそう言って俺の肩に手を置くと、耳元でボソッと囁いた。


「……一文無しのあなたに服を買ってあげるから大人しく着せ替え人形になりなさい」


 ずるいよ一夜さん。

 そんな言い方をされてしまったら、断れるはずがないじゃないか。




    ★★★




「じゃあまずはあたしが用意した服を着てもらいますね!」


 場所は変わってフィッティングルーム。

 貧しい胸を自信満々に張りながら、彩三は俺に衣服を手渡してきた。


「……マジで上から下までの一式揃えてんのかよ」

「当たり前じゃないですか。センパイを着せ替えられるこの貴重な機会、絶対に無駄にするわけにはいきません!」

「出会ってまだ一日二日ぐらいなのになんでこんなに気に入られてんだ俺は」

「それはもちろん――センパイのリアクションが毎回最高だからですね!」

「そんなこったろうと思ったよ!」


 いじり甲斐がある先輩だと思われているのは誠に遺憾である。


「はぁ……とりあえず着替えてくるわ」

「はいはーい。いってらっしゃーい」


 カーテンを閉め、制服を脱いでいく。


(後で下着も選ばないとなぁ)


 マジで全部燃えたからね。パンツに靴下にシャツに部屋着に……揃えないといけないものはたくさんある。

 彩三が選んだ服に袖を通し、着替え終わったところでカーテンを開く。


「着たぞ」

「お! センパイがどれだけ滑稽になってるのか、あたしが見てあげ、ま……す……」


 意気揚々と俺をいじろうとした彩三だったが、何故か言葉が尻すぼみになっていた。おまけに頬も赤くなっている。忙しいやつだなほんと。

 俺を何故か凝視して固まっている彩三の顔の前で手をひらひらと動かしてみる。


「おーい、なに固まってんだ?」

「――ハッ! え、いや……えぅ……せ、センパイって、そういう服も、似合うんですね……」

「そうか? 自分じゃよく分からないけど……」


 女子から褒められると悪い気はしないな。


「二葉と一夜さんはどうですか? この服、似合ってます?」

「え、ええ。まあ、及第点なんじゃないかしら?」

「なんで目ェ逸らしてんですか。こっち見ないと分からないでしょ」

「ぴ、ピアニストは音だけでどんな服を着ているのか分かるものなのよ!」

「いや絶対嘘だろ」


 どんな超能力だよ。

 なんか見てくれないのが地味に癪に障るので、俺は一夜さんの顔を両手で掴み、自分の方を見るように強引に動かした。


「ほら、どうですか?」

「……に、似合ってるんじゃ、ないかしら……」

「本当にそう思ってます?」

「お、思ってる、思ってるわよ!」

「それはよかったです」

「っ……!」


 ぼんっ、と一夜さんの顔が一瞬で赤くなった。一夜さんってよく赤面するけど、赤面症でも患っているんだろうか?

 一夜さんは俺の手を振りほどくと、服の上から胸元を押さえながら、彩三とひそひそ会話を始める。


「(ちょっと。理来がいきなりあんなにイケメンになるなんて聞いてないんだけど!)」

「(まさかセンパイがおめかしすると化けるタイプだったとは……よくよく考えてみれば、センパイって素材は普通にいいもんね……)」

「(盲点だったわ。家事も掃除も無茶苦茶にできるし……全然凡人じゃないじゃないあの子)」


 なにを言っているのか全然聞こえない。悪口じゃないことを祈るばかりである。


「そういえば、さっきから二葉が静かだけど……二葉?」


 一緒に俺の着せ替え会に参加しているはずの二葉の方を見てみる。


「(パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!)」


 無言でスマホを構えながらカメラのシャッターを連打していた。


「ふ、二葉?」

「ふぅ……いいものを見せてもらった。ぐっじょぶ、彩三」

「二葉。その写真、後で送ってくれる?」

「あたしにもお願い!」


 あの写真は後で絶対に削除させよう。

 身を寄せ合って一台のスマホを見つめてキャーキャー言ってる三姉妹を見つめながら、俺はそう決意するのだった。


【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


もし「話が面白い!」「ヒロイン可愛い!」と思っていただけましたら

作品のフォロー、評価などしていただけるととても嬉しいです。


モチベーションが爆上がりになります!


まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!

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