第12話 いいところは褒めてあげよう
一張羅に身を包み、三姉妹に引きずられるがまま連れてこられたのは、市内最大規模を誇るショッピングモールだった。
「……お金持ちもショッピングモールとか来るんだ」
「私たちをなんだと思っているのよ」
「天才でお金持ちな三姉妹」
「間違ってはいないけれど、なんだか言い方が気に食わないわね」
「酷い!」
生理的に無理みたいな否定のされ方だった。彼女はもう少し他人への気遣いというものを学ぶべきだと思う。学校でいつも見せている聖母のような振る舞いはいったいどこへ行ってしまったのやら。
そんな一夜さんは、スリムなジーンズにトップス、そして上からカーディガンを羽織るというなんとも春らしい服を身にまとっている。一張羅の学ランを後生大事に着ている俺とはおしゃれ度合いが段違いだ。こんなにおしゃれなら、そりゃあ俺に新しい服を買えと言うよなあ。
「な、なによあなた。そんなに私の服を見て……な、なにかついてる?」
やべ。ついじろじろと見てしまった。なにか言い訳をしておかねば。
「いや、すっげえおしゃれだなあって思って。あんまり服とか詳しくないんですけど、超似合ってます!」
「っ!? そ、そう? ま、まあ、これでもスタイルには自信があるし? どんな服を着ても似合うに決まってるし? あ、あー、なんだか暑くなってきたわね!?」
「(見て二姉。あれが乙女の顔だよ)」
「(一姉は素直じゃない。それに、理来から褒められて羨ましい)」
「はいそこ! 全部聞こえてますからね!?」
顔を寄せ合ってひそひそ話をしていた次女と三女を怒鳴りつける長女。仲がいいのか悪いのか、相変わらず分かりにくい姉妹である。
三姉妹の戯れを生暖かい目で見守っていると、二葉がすすす……っとこちらに音もなく近づいてきた。忍者かよ。
「理来。私の服はどう?」
二葉が身に着けているのは、オーバーサイズなシャツの上にこれまたオーバーサイズのジージャン。最後にボトムという、全体的にだぼっとした印象のコーデ。大きめな服が小柄な二葉の可愛さをより際立てる、見事な組み合わせである。
「すごい似合ってるよ」
「かわいい?」
「え?」
「似合ってるよりかわいいの方がいい」
ずいっ、と上目遣いのまま距離を詰めてくる二葉。照れ臭いが、これは俺が言うまで絶対に退かない目だ。短い付き合いながら、なんとかく察することができた。
「か、かわいいよ」
「えへへ……嬉しい……」
「センパイセンパイセンパイ! あたしはどうですか!? あたしもかわいいですよね!?」
横から(何故か)必死な形相で服の感想を求めてくる彩三。トップスに前の開いたパーカー、デニム生地のショートパンツにスニーカーという、シンプルながらにスポーティな印象を感じさせるコーデ。陸上で鍛えられた美脚ががっつり見えてしまっているので、地味に目のやり場に困る服装だ。
可愛いというより、若干エロいが……そんなことを面と向かって言ったら普通にアウトなので、ここは言葉を選ぶことにする。
「あ、ああ。彩三の服も可愛いと思うよ」
「ん? 二姉の時と比べるとなんだか歯切れが悪いですね?」
こいつ、なんでこんなに鋭いんだ……!?
「べ、別に、気のせいだろ」
「ふぅん……? あ、もしかしてぇ……あたしの美脚ちゃんが、直視できない感じですかー?」
「うぐ」
図星を突かれたせいで、思わず呻き声を上げてしまった。
そんな隙を見せてしまったらどうなるのか、なんて考える必要もない。
「もう、センパイったらエッチですねー。そんなにあたしの脚が見たいんですかー?」
「だ、誰もそんなこと言ってないだろ」
「裾をちょっとだけめくってみたり……」
「っ!?」
「おやおやぁ? どうしてこっちを見たんですかぁ?」
「ぐっ……」
俺は……弱い……!
自分はどれだけ性欲に弱いのかを目の当たりにさせられた俺はその場に膝をついてしまう。目から零れた涙が頬を濡らし、そしてそのまま地面にシミを作っていく。
「よしよし。彩三にいじめられてかわいそう。私は理来の味方だから」
「ちょっ……そのポイント稼ぎはずるいよ二姉!」
「……あなたたち。人目もあるんだから、いい加減にその茶番やめなさいよね」
傍にしゃがんで俺の頭を撫でる二葉、それを見てぷんすか怒る彩三、そして更にそれを見て呆れる一夜さんという、三者三様の三姉妹。
そんなこんなで俺と三姉妹によるショッピングが開始されるのであった。
【あとがき】
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