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第10話 シェアハウス先はすぐそこに

「一日だけだけど、お世話になりました」


 朝食を終え、使った食器を洗った後、俺は玄関で三姉妹に向かって深々と頭を下げていた。


「もう部屋は見つかったの?」

「今日中に親父から連絡が来ることになってます」


 起きた時にスマホに届いていたメッセージによると、午前中には新居の住所が親父から送られてくるらしい。家が全焼してから二日ぐらいしか経っていないのにもう家を見つけてくれるとは。本当、俺と違って優秀な男だな、親父は。


「あー、センパイのご飯がもう食べられないなんて残念ですー」

「そんな大した味じゃないから気にするなって」

「そういうことじゃないんですけど……」


 今、俺の前には三姉妹が横並びで立っている。三人一緒に俺の見送りをしてくれているのだ。別にそこまでしてもらわなくてもいいので最初は断ったんだけど、何故かやらせろと押し切られてしまった。主に長女と三女から。


「ま、別にあなたが来たいなら、また来るといいわ。あたしのピアノを気に入ったみたいだしね」

「一姉のピアノのことは知りませんけど、右に同じでーす。また料理作りに来てくださいね、センパイ♪」

「……二人とも、いつのまに理来とそんなに仲良くなったの?」

「「べ、別に仲良くなってない!」」


 俺のことを受け入れてくれてるのかくれていないのかよく分からん姉妹だな。天才の考えることはやっぱり分からん。

 そんなことを考えていると、ポケットに入れていたスマホが小刻みに震え始めた。画面を見ると、そこには親父からのメッセージが。


『古い知り合いが特別に家を用意してくれた。そこに今日から住むといい。シェアハウスの形になるから、失礼のないようにな』


 シェアハウス……確かに、新しい家を契約するには流石に時間が足りないし、妥当なところではあるか。


「えっと、なんか新しい家の住所が届いたみたいなんで、俺はもう行きますね」

「理来、また来てくれる?」

「一夜さんと彩三さんが来ていいって言ってくれたし、また今度遊びに来るよ」

「……いつの間に二人のことを名前呼びするようになったの?」

「二人がそう呼んでくれって言ったんだよ」

「ふぅん……最初はあんなに理来のことを拒絶してたのに……?」

「ふ、二葉? 何でそんなに怖い顔で私たちの方を見るの……?」

「こ、怖いよ双姉。殺気が怖い!」


 やっぱり仲いいなあ、この三姉妹は。


「それじゃあ、お世話になりました」

「……それなりに楽しかったわよ」

「ご飯楽しみにしてますねー」

「理来。また学校で」


 三姉妹に見送られながら、俺は家の外へと移動する。この広い庭を見るのも一日ぶりだな。まだ一日しか経っていないのに、なんだか久しぶりな気がする。


「っと、その前にナビを開かなくちゃな」


 流石に一度も行ったことがない家までナビもなしに辿り着ける自信はない。

 親父から送られてきた住所を地図アプリに打ち込み、ナビを開始する。


《目的地に到着しました》

「…………はい?」


 あはは、見間違いかな。地図アプリに表示された目的地を示すピンが、天王洲三姉妹の住む豪邸の上に立っているように見えるんだけど……。

 きっと何かの間違いだと思い、もう一度住所を打ち込み直してみる。


《目的地に到着しました》

「…………」


 これは、もう、目を逸らせない。

 俺は空を見上げ、数秒ほど沈黙する。


「…………」


 そして黙ったまま踵を返し、玄関の扉を勢いよく開いた。


「え? 理来? 何か忘れものでもした?」

「もしかしてあたしに会いたくなっちゃったんですかー?」

「理来……?」


 まだ玄関に残っていた三姉妹が、三者三様の反応を見せてくる。

 そんな彼女たちに向かって、俺はそれはもう気まずそうな感じになっているであろう顔を向けながら……


「これからよろしくお願いします!」

「「「……え?」」」




    ★★★




「えーっと、状況を整理しましょうか」


 天王洲家の豪邸はリビングにて。

 先ほど朝食を一緒に食べていたダイニングテーブルで、天王洲三姉妹と俺は緊急会議を開始していた。


「理来のお父様は、古い友人に自分の息子をシェアハウスさせるように働きかけた」

「それで、センパイはいざ新しい家に向かおうとしましたけど……」

「そこが私達の家だった」

「はい……簡単にまとめるとそんな感じです……」


 マジで意味が分からない。そもそも、親父が天王洲三姉妹の親と知り合いだったなんて初耳すぎるんだけど!

 一夜さんは長い指でスマホを弄びながら、


「私の方でもお父様に確認したわ。理来の話は本当みたい」

「つまり、理来はこれから私たちと暮らすということ?」

「そのようね」


 そこで一旦言葉を止め、そして一夜さんは続きを紡いだ。


「……そして、お父様は私たちがまともな生活を送っていないことを何故か把握していたわ」

「え。マジ?」

「大マジよ。掃除も料理も洗濯も……家事の全てが壊滅的だと、お父様にはバレていたわ」

「恐ろしい……驚異の情報力」


 最初から娘に生活力なんて存在しないと思ってただけなんじゃないだろうか……という余計な言葉を我慢した俺を誰か褒めてほしい。


「古い友人からの頼みも理由の一つらしいけど……私たちにまともな生活を送らせるための抑止力として理来を選んだ、というのが一番の理由みたいね」

「ま、もう決まっちゃってるならしょうがないだろうけど……一姉はいいの? センパイが家に入るの嫌がってたじゃん」

「そ、それは昔の話でしょう?」


 彩三に痛いところを突かれたのか、一夜さんは頬を仄かに朱に染めると、


「べ、別に……理来と一緒に住むことになるのは……嫌じゃ、ないし……」

「…………」

「…………」

「って、二葉、彩三、なによその顔!」

「一姉が乙女の顔をしてる……」

「て、天変地異だ……今日は台風が来るんだー!」

「なにが天変地異よ! 失礼ね!?」


 やいのやいのと騒ぐ三姉妹。どうでもいいけど俺との同居は受け入れられたと判断していいんだろうか。


 掴みかかろうとする一夜さんを手で牽制しながら、二葉はどこか嬉しそうな顔で言う。


「一姉はともかく」

「ともかくって何よ!」

「私は、理来と一緒に暮らせるのは、嬉しい。理来の料理は美味しいし……理来から話しかけてもらえるのも、嫌いじゃないから」

「話しかけても無視されてたけどな」

「そ、それは……か、返し方が分からなかったから。今度からは、ちゃんと返す。むん」

「あはは。ありがとう」

「えへへ……」


 へにゃり、と柔らかく笑う二葉。本当に笑うと可愛いなあ二葉は。元々美少女なのもあるけど、それ以上に普段の無表情とのギャップが半端ない。


「……二葉が、笑っている、ですって……!?」

「もしかして今日地球滅ぶ!?」


 そして姉妹がわけの分からない驚き方をしていた。さっきから何なんだそのテンションは。


「ふっ……二人とも、センパイに骨抜きにされすぎだよ」

「ねえさっきからマジで何なのそのノリ」

「あたしもセンパイと同居することには賛成だよ? でも……それはあくまでも、あたしのからかい対象として。センパイを四六時中いじるためですから!」

「まぁ、住まわせてもらう側だから別にいいけどよ……それに、彩三と話すの、俺も嫌いじゃないし」

「ひょっ……へ、へぇ、そうなんですか。嫌いじゃない……えへ、えへへ……」


 両手で頬を押さえながら、気持ち悪い笑い声を漏らす彩三。もしかして寝不足か?


「……一番ちょろいのこいつでしょ」

「異論なし」

「は、はーっ!? はーっ!? 誰がちょろいって!?」


 ぎゃいぎゃいと喧嘩を始める三姉妹。本当に仲いいなこの人たち。

 これから、この三人と一緒にこの家で暮らすのか。……不安だなぁ。不安過ぎるけど、それはそれとして言っておかないといけないことがある。


「あの、ちょっといいですか?」

「「「?」」」


 俺の言葉に、三人の言い争いが止まる。

 ちょうど視線が集まってくれたので、俺は絶対に言わなければならない言葉を口にした。


「改めて……これからよろしくお願いします」


「「「……こ、こちらこそ」」」


 そういえば、言い忘れていたことがある。

 これは、俺と天才三姉妹が一つ屋根の下でそれなりに楽しく暮らす物語。

 天才たちと凡人が何気ない日常を謳歌する――そんな賑やかな物語だ。


【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


もし「話が面白い!」「ヒロイン可愛い!」と思っていただけましたら

作品のフォロー、評価などしていただけるととても嬉しいです。


モチベーションが爆上がりになります!


まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!

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