第9話 みんなで一緒に朝ごはん
「これでよし、と」
仕事をやり切った自分を褒めてあげるように、小さくガッツポーズをする。
彩三に夜食を作ってあげた後、俺はソファでそれはもう完全なる爆睡をかました。朝飯を作るために7時には起きたので、睡眠時間自体はそんなに長くはなかったものの、目覚めは最高。やっぱりお金持ちのソファは寝心地が違うね。
「つい四人分作っちまったけど、みんな食べてくれるかな……」
今日は土曜日。学校もない。そのせいか、朝の八時を回っても誰一人起きてこない。夜遅くまで自主トレやら何やらやってたみたいだし、起きられないのも無理はないだろう。
「このままじゃ冷めちまうし、先に食うか」
椅子に座り、朝ごはんを見つめながら両手を合わせ――
「ちょっと。なに一人で先に食べようとしてるのよ」
――ようとしたところで、部屋着姿の一夜さんが現れた。
「あ、おはようございます、一夜さん」
「はいはい、おはよう……って、なによこれ。作りすぎでしょ」
「あはは。寝てる間に冷蔵庫がいっぱいになってたんで、たくさん使っちゃいました」
「彩三のせいね……また朝のランニングついでに好きなもの買ってきたんだわ」
え、朝のランニング? あの時間に寝たのに? 健康志向なのかそうじゃないのかいまいち分からないなあの子。
一夜さんはぶつぶつ文句を言いながら、俺の隣の椅子に座る。
「これ、目玉焼き……」
「一夜さんが食べたいって言ってたんで、ちゃんと用意しておきました」
「っ。そ、そう? ちゃんと覚えてたのね。……ありがとう(ボソッ)」
「いえいえ」
「っ!? い、今のは聞き流すところよ!」
そんな理不尽な。
「あ、一夜姉がもう起きてるなんてめずらしー」
一夜さんから理由不明のクレームを叩きつけられていると、さっき話に出ていた彩三がリビングに現れた。シャワーでも浴びてきたのか、首からタオルを下げており、おまけに髪は半濡れの状態になっていた。
「おはようございますセンパイ。ほんとに朝食作ってくれたんですねー」
「当たり前だ――と、その前に……」
俺は椅子から立ち上がると、彩三の前まで移動し、彼女の首からタオルをひったくった。
「ちょっ、なにするんで――わぷっ」
「髪はちゃんと拭いておかないとダメだろ。風邪引いたらどうするんだ」
「あ、後で乾かすつもりだったからいいんですー」
「後だと髪が傷むかもしれないだろ。ほら、大人しくしてろ。俺がやってやるから」
嫌がる彼女の髪をタオルで優しく拭いてやる。ドライヤーがないので完璧にとはいかないが、さっきよりは湿気を取ることに成功した。
「こんなもんか。せっかく綺麗な髪してるんだから、大事にしないと」
「……あ、ありがとうございます」
罰が悪そうに目を逸らす彩三。どこか顔が赤いように見えるが、きっと気のせいだろう。
「……彩三が乙女の顔してる」
「っ!? い、言いがかりはやめてくれないかな一夜姉!? というか、そういう一夜姉だって、さっき乙女の顔してたじゃん!」
「っ……き、気のせいじゃないかしら?」
朝からなんとも騒がしい。やっぱり姉妹って仲いいんだな。
「ほらほら、喋ってないでご飯食べてくださいよ。冷めちゃいますから」
「「くっ……誰のせいだと……」」
何故か二人そろって俺を睨んでくる件について。
天才特有の奇行だろうと判断し、無視して朝ごはんを食べ始める俺。うん、我ながら上出来だ。やっぱり朝飯は和風に限るな。洋食も悪くないが、俺は和風派だ。
「……何で一姉だけ洋食なんですか?」
「目玉焼きを食べたいって言ってたから。それに合わせて用意しただけだ」
「要望に合わせて別に朝ごはん作るセンパイの気遣い、流石にキモイですね……」
「そんな理不尽な貶され方ある!?」
立場が違うとはいえ、一応は客人なんだからもっと大切に扱ってほしい。
「ん~、センパイの料理はやっぱり美味しいです。夜に食べた春雨ともやしの料理も美味しかったですし」
「え、なにそれ。私知らないんだけど」
「あたしとセンパイ、二人だけの秘密ですよ。ね、センパイ?」
「何で君はそうやって無駄に誤解を招くようなことを言うの……?」
よそ様の家とは思えないほどに賑やかな食卓。
一人暮らしだったから、こういう賑やかさは久しぶりだ。
あとは、俺をここに連れてきた張本人である二葉さえ現れれば完璧なんだけど……
「……おあよぉ」
とか考えてたら、件の少女が現れた。
「いいにおい……あさごはん……」
「二葉の分もあるからな。ほら、そこに座って」
「ねむい……」
「大丈夫か? ちゃんと食べられるか?」
「んー……」
低血圧なのだろうか。それとも夜遅くまでゲームしてた? とにかく、寝ぐせ塗れの二葉は瞼すらまともに開けられずにいた。
「仕方ないな……食べさせてやるから、椅子に座って口だけ開けてくれ」
「いただきましゅ……」
「ほら、あーん」
「あー……あむっ。……おいしい」
「そりゃよかった」
「……ん、起きた。理来のご飯のおかげ」
「俺の飯にそんな効果はないよ」
まあとにもかくにも起きてくれて助かった。流石にずっとご飯を食べさせるのは疲れるし、かなり恥ずかしいからな。
二葉はサケの切り身を箸で解しながら、自分の姉妹の方へと視線を向けると――
「二人とも、何でそんなに羨ましそうな顔してるの?」
「「してない!!」」
真っ赤な顔で叫ぶ姉妹に、二葉は可愛らしく首を傾げるのだった。
【あとがき】
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