夏の前
遠い夏の記憶を
呼び覚ますような、
日の暮れる頃の、
烏のひと鳴き。
ふと見た窓の外
紫陽花の黄緑が
夏を近づけている。
花芽を覗かせる。
生きてゆくもの、
生かされてゆくもの。
湿り気のある日が
時には必要だね。
居心地がいいなら、
優しくなれるなら、
今年もこのまま、
何にも変えずに。
いつしか時はゆく、
人間の暮らしぶり。
夏を遠ざけたがる、
快適を求めて。
生きてゆくもの、
生かされてゆくもの。
我儘を言う日も
やっぱりあるよね。
でも考えている。
何をどう変えるか。
一人でいることも
そうかな、夏の前。
麦わら帽子を被り、
虫取り網を持って
走る子供だった。
あの日も一人だった。
生きてゆくもの、
生かされてゆくもの。
孤独に戻る日に
ひとつ、越えてゆく。