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小説投稿サイトの、AI自動画像作成イベント

 勘違いしている人もいるかもしれないが、著作権法の立法目的は“創作を行った権利者の保護”ではなく、“豊かな文化を醸成する事”にある。創作者達を安易な模倣に走らせず、オリジナリティの高い創作物の制作を促すために、著作権法というものは存在している。

 

 ――ただし、この著作権法に反発をしている人達もいる。「むしろ、著作権法が創作活動を縛っている」と。

 

 この主張は正しいのだろうか?

 

 ……もし仮に、彼らが近年の日本の小説投稿サイトの現状を目にしたら、果たしてなんと言うのだろう?

 

 AIが遂に文字で書かれた物語から、自動的に映像作品を作成できるようになった。AIに文章を読み込ませると、そこから3Dモデルによる動画を作成してくれるのだ。

 そのAIを手掛けた企業は、その機能のお披露目として、小説投稿サイトに投稿されている小説の映像化イベントを企画した。まだ映像化されていない小説投稿サイトで人気の作品を読み込ませて動画を作成するのだ。その作品は投票によって選ばれた。

 小説投稿サイト側の人間達は、AIの自動動画作成機能に多少の不安を持っていた。ハイクオリティの動画はまず期待できないとそう考えていたのである。すると案の定、AI企業側から問題発生の連絡が入った。

 

 「すいません。実は問題が起こってしまいまして」

 

 リモート会議。AI企業側の担当者がそう彼らに謝って来る。それに小説投稿サイト側の担当者は笑って返す。

 「いえいえ、こういう先進技術は、初期は失敗するのが当たり前ですから」

 ところがそれを聞くとAI企業側は困ったような声を上げるのだった。

 「いえ、実は問題があるのは、うちで開発したAIの方ではなくて…… ですね」

 その予想外の言葉に小説投稿サイト側は不思議に思う。「AIに問題がないのなら、何が問題なのです?」と尋ねた。

 「それを説明するより、実際にAIが生成した動画を観ていただいた方が早いかもしれません」

 AI企業側は画面を切り替えた。

 それから直ぐに画面にそれなりにクオリティの高い動画が流れ始めた。ファンタジーな小説の登場人物が違和感なく動いている。特に問題らしい問題はないように思えた。

 が、ある時まで来たところで、妙な事が起こってしまったのだった。

 

 「あれ? 主人公が別人になっていませんか?」

 

 そう。同じ登場人物であるはずのキャラクターが、何故か別キャラクターとして登場してしまったのだ。

 そこで動画はストップする。

 「はい。AIが小説の登場人物を別のキャラクターと解釈してしまったのです」

 そのAI企業側の説明に小説投稿サイト側は首を傾げる。

 「何故です? あ、もしかして、小説に誤字があって別の名前で出ていたとか?」

 AI企業側は首を横に振る。

 「違います。AIは小説を全て読み込んでから登場キャラクターなどの解析を行ってオブジェクト化した後で3Dモデルを構築するのですが、その際に“違う人物”と認識してしまったのです。原因はキャラクターの言動に矛盾があった事です。

 初期には無感動で無慈悲なキャラとして出て来ているのに、女性キャラとの絡みでそれが変わるじゃないですか? それで別キャラとAIは判断してしまったみたいで……」

 その説明に小説投稿サイト側の社員達は顔を見合わせる。

 「……でも、その程度なら修正できるでしょう?」

 「できますが。それは人手で行わなければいけないので工数がかなりかかります。更にまだ問題がありまして。

 ……実は、これ、既にかなり人手でキャラクターの造形を弄っているのです」

 再びその説明に小説投稿サイト側の社員達は顔を見合わせる。

 「なんでまた?」

 「それも見てもらった方が早いです。修正する前の、AIが作成したキャラクターの造形を映します」

 それから現れた映像に、小説投稿サイト側の社員達は目を丸くした。

 「これって……」

 そこには既にアニメ化されている、その小説投稿サイト作品のキャラクターが映し出されていたからだ。

 AI企業側の社員が口を開いた。

 「あまりに話の内容が、既にアニメ化されている作品と似通っていたものですから、AIがその作品と同じものだと勘違いしてしまったようなのですよ……」

 その言葉にまたまた小説投稿サイト側の社員達は顔を見合わせた。AI企業側の社員が続ける。

 「あの……、できれば、もっとオリジナリティの高い、整合性の取れた話を題材にしたいのですが、もう一度、作品を選び直してもらう訳にはいかないでしょうか?」

 

 勘違いしている人もいるかもしれないが、著作権法の立法目的は“創作を行った権利者の保護”ではなく、“豊かな文化を醸成する事”にある。創作者達を安易な模倣に走らせず、オリジナリティの高い創作物の制作を促すために、著作権法というものは存在している。

 

 ――ただし、この著作権法に反発をしている人達もいる。「むしろ、著作権法が創作活動を縛っている」と。

 

 この主張は正しいのだろうか?

 

 ……もし仮に、彼らが近年の日本の小説投稿サイトの現状を目にしたら、果たしてなんと言うのだろう?

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