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【最終話】8. 家族のもとへ 〜島を救った高校生の話〜

最終話になります!


世界遺産、厳島の対岸に、高校生の少女は住んでいた。

少女は神秘に満ちた、不思議な体験をする事になるのだった。

人間が自然を壊し、そして人々に天災となり襲いかかる。

果たして、少女は神秘に満ちた島を守る事ができるのだろうか?




「フェリー乗り場まて、送ろうか? 」


斎が、彩花に優しく微笑んだ。


「斎、いいよ、大丈夫! 私、1人で帰れるから。1人でここに来たんだもん、ちゃんと1人で帰らなきゃ! 」


彩花は疲れ切った体で、しっかりと地面を踏みしめ立っていた。

自らの手で神秘に触れ、自らが望み、この宮島という神の島の秘密を知ったのだ。そこからは、自分の力で立ち去らなければならない。そんな気がしていた。


「彩花は、強い子だね」


斎はそう言いながら、彩花の頭をポンポンと撫でた。


「あっ! 」


彩花は、思い出したように小さな声でそうもらすと、斎の手をギュッと両手で握り、下を向いた。もう彩花の目からは、耐えきれなくなった涙の粒がこぼれ落ちていた。


「私の事、昔助けてくれたよね? 私、小学生の時、背の高い男の人に助けてもらって、こうやって、頭、ポンポンしてもらった」


斎の目が、もっと優しく彩花を見つめる。


「10年ほど前、〈思い〉が歩く道を、君が一緒になって歩いて来てね。 この子、もしかして見えてるのかなって……。そしたら、憎しみの黒い〈思い〉を触ろうとしたから、止めた事があるんだ。あの時、君にあの子達に触れる力があったかは、分からないけど……」


「ううん、ありがとう。 私、あの時、もし触れてたら、うちに帰れなかったかも知れない。憎しみに、取り込まれてたかもしれない。そんな気がする」


彩花は、首を振りながら答えた。


「彩花は、不思議な子だ……」


斎はそう言うと、彩花をギュッと抱きしめた後、すぐに両手で彩花の肩を軽く押した。


「ありがとう。 本当にありがとう。 でも、もう振り向いちゃいけないよ。 まっすぐ、まっすぐうちに帰りなさい」


彩花は、


「はい!! 」


と、最後に涙でいっぱいの笑顔を向けると、振り返り、フェリー乗り場へと向かって歩いた。


気が付くと、辺りには大勢の人が歩いていたが、皆疲れきっており、彩花の事を気にする者は誰もいなかった。


帰りのフェリーは、予想通り大混雑で、彩花が乗船する事ができたのは、運転再開から1時間後の事だった。彩花はぎゅうぎゅう詰めの船内に立ちなから、だんだんと離れていく宮島を見つめていた。


フェリー乗り場の出口周辺は、迎えの人で溢れかえっていた。


「電車で1駅。だった1駅で家に帰れる……」


このたった1駅が、途方もなく遠くまで行かなければいけないと、彩花には感じられた。疲れきった身体で、なんとか足を前に進めていると、


「彩花!! 」


遠くから、父の声が耳に飛び込んできた。


「お父さん……? 」


あたりを見回す。背の低い彩花は、なかなか父を見つけることができない。すると次の瞬間、


「彩花! 良かった! 」


父が、彩花の手をとりギュッと抱きしめた。


「疲れたろ? 大丈夫じゃったか? 」


疲れきった彩花の小さな体は、父の冷えきった大きな体に、すっぽりと埋まっていた。

何時にフェリーに乗れるかも分からないのに、父は1時間以上も外で娘の帰りを待っていたのだ。何度か到着したであろう先着のフェリーから、人々が次々に降りてくるたびに、人混みの中、必死で娘の姿を探し、心配ていたに違いない。そんな父親の姿が想像できて、彩花の目からは涙がポロポロと溢れた。


「疲れたぁ〜。ほんと大変だったんじゃけぇ〜」


彩花は、父の胸でぐりぐりと涙を拭き、疲れた顔でくしゃっと笑った。



家に帰ると、母が朝からグラタンを作って待っていた。


「朝からグラタン? 」


「ダメだった? たらこパスタの方がいい? 」


「いや、ムッチャお腹すいた! 両方食べる! 」


グラタンは、母の手料理の中で、1番の大好物だ。心配で寝れていない、疲れきった顔と、目に滲む涙。娘に心配をかけまいと、妙に明るく何事も無かったかのように振る舞う母の姿に、余計に涙が出そうだった。


「ねぇ、やっぱり霧ヤバかった? 真っ白? 何も見えんのん? 」


「波は? 怖かった? 」


妹達は、容赦なく彩花を質問攻めにした。彩花は、コートの内ポケットからお守りを5つ取り出すと、妹達へと渡した。


「可愛い〜、鹿が書いてあるお守りだぁ〜 」


「厄除けだって! ちゃんと家族みんな分あるけんね! 効果は立証済みじゃし! 」


彩花は、このお守りを家族みんなに渡す事ができて良かったと、心の底からそう思った。



昨日の宮島は、すっぽりと深い霧に包まれ、こちらからは、島の姿が全く見えなかったそうだ。対岸にある家の近くも、波がかなり高く、高潮で交通規制がかかっていたらしい。

ただ不思議だったのは、霧が宮島だけをすっぽりと隠していた事と、その霧が、明け方に一瞬にして無くなった事だと家族は言った。


「色ね、いろんな色があるんよ」


部屋に戻る前に、彩花がつぶやいた。家族は意味が分からなかったが、寝不足で寝ぼけているんだと思い、気には止めなかった。

部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ彩花は、すぐに起き上がってカーテンを開けた。


「宮島だ! すごく綺麗……」


首に下げてあった勾玉のネックレスを手に取り、薄紅色の勾玉と宮島を重ね合わせる。太陽の光で、キラキラと照らされ、静かな海に浮かんだ宮島。そう、これこそが神秘の島だった。彩花は、鞄から課題の原稿用紙を取り出すと、夢中でペンをはしらせた。



春になり、地元の広報誌が出来上がった。地元の生徒数人の作文が選ばれ、ページ中ほどに掲載された。


 

「神秘の島は存在した


 人知れず、人々を支え


 人知れず、天と我々をつなぐ……」


                前野彩花




最終話までお付き合い頂き、ありがとうございます^ ^

少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?

よろしければ、ページ下★★★★★

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