4. 勇気の決断 〜島を救った高校生の話〜
世界遺産、厳島の対岸に、高校生の少女は住んでいた。
少女は神秘に満ちた、不思議な体験をする事になるのだった。
人間が自然を壊し、そして人々に天災となり襲いかかる。
果たして、少女は神秘に満ちた島を守る事ができるのだろうか?
「どこ行ってたん? 」
母が、起きたての声で聞いた。
「ちょっと、神社の様子見に! もう、かなり混んでたよ」
悟られないように、悟られないように、必死に平静を装って答えた。
「そうよねぇ〜。ま、早めに行くのはもう無理そうじゃけぇ、諦めて並ぼっかぁ〜」
彩花は安心した。これまでの経験から、なかなか母親の感というのは、鋭いものだと知っていたからだ。もう一度布団に潜り込み、薄れゆきそうな意識の中、目をつぶって思いを巡らせる。
「斎って、いったい何者? 私、どうしてあんな事、できたのかな? そういえば私、家族と来てるって、斎に言ったかな? 」
それから、寝れたのか寝れてないのかわからないまま、家族と朝食を済ませ、厳島神社に参拝に向かった。
今日の境内は満潮のため、しゃがめば水面に触れる事ができそうだった。彩花は、参拝の順番に並びながら、今朝みた龍燈を、もう一度見る事はできないかと何度も水面を確認したが、どうしても見る事はできなかった。
「昼は、牡蠣食べた〜い! 」
「えー、穴子がいい〜! 」
菜乃花と香乃花が、昼ご飯に何を食べるか揉め始めた。彩花も、この揉め事に参戦する。頭の中のモヤモヤした気持ちを、少しでも晴らしたいと思っていたからだ。
「私は絶対、牡蠣カレーパン! 揚げもみじも食べたいしぃ〜。あーいっぱい食べたい、もうお腹すいてきたー」
「彩花、次は取られんよーにせんと〜 」
母と妹達が一緒に笑う。昨年の元旦、あちこちにいる鹿に、カレーパンを横取りされてしまったからだった。
「じゃー、全部! 決定! 」
香乃花が、ねだるように父にまとわりつく。結局、父が大行列を待ちきれず、揚げもみじ片手に、あなごめしをテイクアウト、帰宅の途に着いた。
その日の夜、彩花は部屋で宮島を見つめていた。
「斎は、1人で大丈夫だろうか? 」
「斎を助ける為には、どうしたらよいのだろうか? 」
「こんな、普通の女子高生に、何をしろというのだろう……」
彩花の頭の中は、ざわざわと落ち着かないのだった。行き着いたのは、今の自分には家族に隠れてこんな夜更けに外出する事もできないし、まして、こんな時間には電車も動いていない。何より、家族に心配はかけたくない。そういった思いから、なんの行動もとれないままベッドに入り、いつの間にか、眠りに落ちていた。
「行かなきゃ、行かなきゃ! 」
新年2日目のこの朝も、彩花は早くに目を覚ました。夢を見ていたのか、自分の思い込みなのかは、自分でも分からなかった。ただただ
「行かなきゃいけない」
そんな強い思いから、目が覚めたのだ。
彩花は、リュックに荷物を詰め込み始めた。着替えに充電器、カイロ、絆創膏。1階に降りると、まだ家族は誰も起きておらず、お茶とお菓子を詰め込んだ後、リビングのテーブルで置き手紙を書いた。
「お守りを買い忘れたので、作文のネタ探しも兼ねて、もう一度、宮島に渡ってきます! 彩花より」
彩花は玄関の扉を閉めると、口をグッと食いしばり、上を見上げた。前を向いたままでいると、涙が溢れてしまいそうだったからだ。
危険な目に会うかもしれない。家族に心配をかける事になるかもしれない。家族に黙って出て行った事を、後悔してしまうかもしれない。そんな予感がしていたからだ。
まだ薄暗い空の中、電車でフェリー乗り場へ向かい、日の出頃には厳島神社に到着した。すでに斎の姿はなく、彩花は人の流れに沿って境内を歩き、そしてお守りを買って、コートの内ポケットにそっとしまった。出口を出ると、近くの石垣に腰をかけ、コートの上からお守りに手を当てる。
何もしないまま、できないままの時間が過ぎていく。人混みをかき分けながら、隣を何度も人力車が行き交う。どのくらいの時間がたっただろうか、気が付くと、先程まで眺めていたはずの、大鳥居が霧で見えづらくなっていた。
「やっぱり、行かなきゃ」
彩花は立ち上がると、龍燈の向かっていた先を見つめた。厳島神社の裏手から伸びた一本道は、真っ直ぐ島の内部へと伸びている。
彩花は、深く息を吸い、深呼吸すると、真っ直ぐ前を見つめて歩き始めた。ひとけがなくなると、小さくしゃがみ込み、龍燈を探す。目を細めてみるが、なかなか見えてこない。彩花は、目をつむって〈思い〉が通ったであろう道を思い浮かべる。悲しい〈思い〉、寂しい〈思い〉、悔しい〈思い〉、報われない〈思い〉達……。
恐る恐る目を開けると、うっすらとだが、〈思い〉達が通って行った道が分かる気がした。〈思い〉達の、残り香のようなものが、ボヤけて見えているようだった。彩花は、その列と同じ道を通って行く。10分くらい歩くと、裏通りのある店の前で足を止めた。
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