表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

3. 厳島の秘密と斎との出会い 〜島を救った高校生の話〜


世界遺産、厳島の対岸に、高校生の少女が住んでいた。

少女は神秘に満ちた、不思議な体験をする事になるのだった。

人間が自然を壊し、そして人々に天災となり襲いかかる。

果たして、少女は神秘に満ちた島を守る事ができるのだろうか?




深夜2時が近づく頃、家族は皆眠りに落ちていた。先程まで騒がしかった館内の賑わいも、嘘のように消え、静まり返っていた。


そんな静けさの中、彩花が目を覚ました。また、昨日と同じ夢を見たのだ。水面に、炎のような形をした光が、昨日よりたくさん集まってきている。恐怖と同時に、好奇心が湧き出てくるのを感じた。


彩花は、皆を起こさないように上着を羽織り、マフラーを巻くと、そっと外へ出た。

さすが元旦の朝だ。こんな真夜中だというのに、厳島神社周辺には、すでにたくさんの列が出来ていて、皆参拝の順番を待っていた。他にも、弥山の初日の出を目指して来た人や、カメラを構えて場所取りをしている人もいた。


彩花は、適当な格好をして出てきてしまった事を後悔しながら、コートのボタンを上まできっちり止めた。


「もう、戻ろうかな……」


そんな事を思っていると、人混みの隙間から海面に漂っている、炎が見えた気がした。


「誰かの、カメラのフラッシュの光かもしれない」


そう思いはしたが、確かめずにはいられなくなった。背の低い彩花は、歩きながら時折しゃがみ込み、行き交う人々の足の隙間から炎を探した。

すると、いくつもの炎の光が大鳥居の辺りに漂い、そこから海岸へと一列に並んでいるように見える。


彩花は急に走り出し、炎の行き着く場所を突き止めた。


「火が歩いてる……」


そこには、若い男性がしゃがんでいて、海から炎を両手ですくうと、ゆっくり島に降ろすという事を繰り返していた。下ろした炎は、列になり、島の奥へと入っていく。吸い込まれているというよりは、炎は自ら歩いているように見えた。


誰も変に思わないのかと、キョロキョロと周りの人達を見回したが、どうやら他の人には誰にも見えていないようだった。


「あの! 何してるんですか? 」


想像していたより、大きな声が出てしまったと、彩花は思った。


「え? 見えてるの? 」


「はい……」


彩花は、炎に触れる事のできる距離へと近づいた。男性は、一瞬驚いた表情を見せたが、忙しそうにまた作業に戻った。



「手伝いましょうか? 」


彩花は言うと、両手を海につけ光る炎をすくい上げ、まじまじと眺めた。不思議だった。夢では、あれほど怖かったものを、こうして自分の手にとっている。そしてそれは、恐怖というよりは、寂しさや悲しさを感じさせた。炎のような形はしているが、少しも熱くはなかった。熱いというよりは、むしろひんやりと感じられるほどだった。男性は下を向いたまま、作業の手を止めない。


「黒い色をしたものは、絶対に触らないで下さい」


そして、


「君はもしかして、あの時の……」


と、そこまで言ってやめた。


「私達、どこかで会ってますか? 」


「いや、なんでもない。手伝ってくれてありがとう」


そう言うと、男性は、この炎の形をしたものについて話し始めた。


「これはね、龍燈(りゅうとう)とうと呼ばれるものの一種だよ。日本では、怪火かいかと呼ぶ人もいるね。元旦からの数日間、夜明けに海に漂うと言われているけど、本当は一年中あってね、1日中その先に見える大鳥居をくぐって、厳島神社を通り抜け、ある場所へと向かうんだ」



「ある場所? 」


彩花は聞いたが、男性は話を続けた。


「普段なら何もしなくても、この子達は、自分で行くべき場所へと向かうんだけど、2日前に大きな地震があったでしょ? 」


確かに2日前、福岡の沖合いで震度6強の強い地震が発生していた。震源は海底深かったため、被害はそれほど酷くなかったが、それでも数人の怪我人がでていた。


「九州のですよね? それが何か関係あるんですか? 」


「流れがね、この子達の流れが変わって、上手く入ってこれなくなってしまったんだよ。」


「どうすれば、戻るんですか? 」


「そう、それが私にも分からなくてね。夜更けからすくい始めても、夜明け近くなると、この子達は上手くすくえなくなるんだ。だから、夜中の間に、私がこうするしかないんだけど……」


「どんどん増えていてね。早く対策をとらないと……」


「対策をとらないと? 」


「わからない。今までこんな事にはなった事がないし、今までの大地震の時だって、これほど流れが変わった事もなかったんだ」


「そうなんですか……。私何もできないですけど、また手伝いに来ます! 」


「いや、いいんだ。今手伝ってくれてるだけて、すごく助かってるよ。これは私の使命だからね。それに、君はあまり深入りしない方がいい」


「あの、私、前野彩花っていいます! お名前、教えて頂いてもいいですか? 」


「これはこれは、名乗りもせず、失礼しました。私の名前は、(さい)と申します」


斎は着物を着ていて、スラっと背は高く、容姿からも気品が漂っていた。


「で、この龍燈(りゅうとう)って、どんなものなんですか? 悪いものですか? 」


「君には、どんな風に見える? 」


「私には、よく分からないけど、寂しいとか悲しいのがほとんどで、たまに怒ってる感じもする……というか……」


「そう。この子達は、〈思い〉なんだ」


「人の? 」


「人間の〈思い〉もあれば、自然や物、何にでも〈思い〉は存在するからね 」


斎は、そっとその中の1つをすくい上げた。それは青緑色で、他のと比べると小さい形のものだった。


「例えば、この子」


「なんか、悲しい感じがする」


「そう、この子は海に捨てられたゴミだったみたいだね。海に捨てられた事より、海を汚してしまう事の方が辛くて、悲しいんだね」


「次に赤褐色のこの子、この子も同じゴミとして捨てられたけれど、怒りの感情が強いみたいだね」


「この、少し大きいのは? 」


「この子は、海で亡くなった人間の〈思い〉だね。人間や動物、生き物の〈思い〉は、他より少し大きい事が多い。この人にも、死を悲しんでくれる相手がいれば、海になんて普通流れてこないんだよ。行き場のない〈思い〉だけが、こうやって流れてくるんだ」


「さっき、触るなって言った、黒いのは? 」


「あの子は、強い憎しみだよ。憎しみは、他の子も取り込んで、大きく膨れ上がる事があるから、絶対に直接触れてはいけないんだ」


彩花は、沈んだ声で応える。


「つまり、人間が、この〈思い〉達を作り出してて、しかもそれに気付いてもいないって事なんだよね……」


2人は明け方まで、〈思い〉をすくい上げ続けた。そしてそれは列になり、歩くように島の奥へと進んで行くのだった。


「今日は、ありがとう。彩花さんのおかげで、たくさんの子を助ける事ができたよ」


「彩花で、いいよ」


「……。彩花は本当に、昔から不思議な子だね」


「ん? 」


「いや、人間には見えないはずなんだ。だから、だれも気付かない。〈思い〉達が目の前を通っても、触れる事はできないし、たとえ自分と同じ場所に重なっても、気付く事さえないはずなんだよ」


「でも不思議。私、霊能力とか超能力とか、そんな特別な力感じた事ない」


「そうだね。そういった類の力とは違うからね。彩花はこの子達にとって、きっと特別なんだね」


「う〜ん、でもそっか、斎の力になれたんなら良かったって事だよね」


「それでは、気をつけて、ご家族のもとに戻って下さいね」


そう言い会釈すると、斎は島の奥、龍燈と呼ばれる〈思い〉達の向かって行った方へと消えて行った。


彩花は、急に現実に連れ戻され、急いで旅館へ戻った。


少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?

よろしければ、ページ下★★★★★

クリック評価、ブックマーク追加で応援頂ければ、大変励みになります!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ