表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

2. 始まりの日 〜島を救った高校生の話〜


世界遺産、厳島の対岸に、高校生の少女が住んでいた。

少女は神秘に満ちた、不思議な体験をする事になるのだった。

人間が自然を壊し、そして人々に天災となり襲いかかる。

果たして、少女は神秘に満ちた島を守る事ができるのだろうか?




その年の始まり、どこで何をして過ごすのが正解なのだろうか?


年末から故郷に帰省し、お正月を親族と過ごす者。その年の、無病息災を静かに祈る者。お節料理を食べながら、日頃の疲れを癒す者。自分にとって大切な人と、初詣に出かける者。それぞれに、それぞれの予定や理由があり、過ごし方も違うのが、普通だろう。


前野家のお正月の過ごし方は、ここ5年以上変わっていない。彩花が小学生の頃までは、県外に旅行に行く事が多かったが、段々と家族の予定が合わせにくくなり、今のようになっていった。


大晦日の午後、電車で1駅、そこからフェリーに乗って宮島の宿で1泊し、翌日、厳島神社で初詣を済ませ帰宅する。

高級宿という訳にはいかなかったが、趣のある古宿で、家族は皆この旅館を気に入っていた。いつもは、対岸から遠くながめている宮島の大鳥居も、各部屋から眺める事ができ、贅沢な気分になる事ができた。


大晦日の早朝、彩花は夢にうなされ、ハッと目覚めた。不思議な夢だった。海の上に光が漂い、こちらに向かって集まってくる。炎のような形で、薄い青緑色のものや、深い漆黒のものなど、色や大きさは様々だった。触れてはいないが、おそらく両手ですくえるのではないかという感覚はあった。怖い、すごく怖い。

しかし、ただ単純な恐怖などではなく、足元から崩れ落ちるような、絶望感で全身が覆われるような恐怖だった。


彩花は、スマホを手に取り時間を確認した。まだ朝の5時半だった。寒い朝にもかかわらず、彩花のおでこには汗が滲んでいた。恐る恐るカーテンを掴むと、隙間から海の向こうにある宮島に目をやった。


「えぇ……っ」


宮島の大鳥居の辺りが、青白く光っているように見えるのだ。霧が島全体を覆っている為、ぼやけてハッキリは見えないが、


「夢と同じだっ……」


彩花は、思わずカーテンをギュッと閉じた。

それからの彩花は、みんなが起きてくるまでの時間、スマホを見て時間をやり過ごした。布団に入り目をつぶると、また同じ風景が思い浮かぶ気がして、怖かったからだ。


「まだ、行かんのん? 」


「ねぇ、早く行こうやぁ」


昼過ぎて、菜乃花と香乃花が騒ぎだした。母は、忙しそうに荷物を玄関に並べながら、父に聞く。


「ねぇ、まだ出てないんかね? 」


「まだ……、じゃねぇ〜」


父は、スマホでフェリーの運航情報を調べながら言った。この日は、霧が一段と酷く、朝からフェリーは欠航となっていた。


乗船時間は、10分ほどの短い距離だったが、このように天候によって欠航になる事も稀にある。台風などで、フェリーが欠航になってしまうと、島に渡る術はなく、また、出かけに島民が帰れなくなる事もあるほどだ。


結局、前野家が旅館に到着できたのは夜7時過ぎの事で、フェリーはもちろん、駅から厳島神社、旅館までもがかなりの混雑、疲れ切っての到着になった。


「前野様、ようこそお越し下さいました。この度は大変でございましたねぇ」


「はい、かなり混んでましたね。こんなに霧が続く事もあるんですね……」


父が、台帳に記入しながら言った。


「大抵は、酷くても昼過ぎには霧も晴れていくんですが、今日みたいなのは初めてですね」


女将は言うと、部屋へ案内した。彩花達は、先に食事を済ませると、温泉で疲れを癒す。と、言っても、彩花は昔から温泉が好きではなかった。すぐにのぼせてしまい、長く入って居られないので、自宅のお風呂との差が感じられなかったからだ。


父と母は部屋でワインを開け、子供達はジュースとお菓子で年越しを楽しむ。夜更かしの特権付きなのだから、テンションも上がる。前野家、恒例カードゲーム大会が始まった。


「負けた人は、売店でアイスね」


菜乃花が、高めのテンションで言った。


「じゃあ、香乃花が負けた時だけ、お母さん付いて来てやー」


「え〜ヤダぁ〜。その時は、2番負けが付いて行こ! 」


母は、だだっ子の子供みたいな事も言う。結局、ゲームには菜乃花が負けたのだが、なぜか2番負けの彩花まで、付いて行かされる事になった。


部屋に戻る途中、2人は仲居さん達が話しているのを聞いてしまう。


「なんか、今日の霧おかしくなかった? 」


「確かに……。 大鳥居の辺りだけ、霧が妙に濃い感じだなーとは、思ったぁ〜」


「明日は、問題ないといいけど…」


菜乃花は気にも止めていない様子だが、彩花は違った。何か異常な事が起きているのではないか?そう思わずにはいられなかったからだ。彩花のアイスを持つ両手が、益々冷えていくようだった。



少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?

よろしければ、ページ下★★★★★

クリック評価、ブックマーク追加で応援頂ければ、大変励みになります!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ