表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

マイ・フェイバリット!!

 長編を書いて疲れた男が、10秒で思いついた冒頭に、設定を生やして完成しました。

 ご好評をいただければ、似たような話を書くかも。

 ランキングに乗ったら連載版を書きます。今なら日間30pt週間150ptぐらいです。

 読み終わったら是非ブクマ、星評価よろしくお願いします。

 面白かったでも、つまらなかったでも、賛否感想待っています。



マイ・フェイバリット!!


 私の名前は絵心マリ、今日から私は社会人、新しい生活が始まるの。

 ここが今日から私が働く事務所。きっと輝かしい毎日が私を待っているの。


「失礼します」

 

「あん  あ  あ あぅ、あ あん、もっと。ジッタ」


 裸でまぐわう男女の姿がそこにはあった。

 

「きゃーーーーーーーーーーーーー」


 甲高い悲鳴が観葉植物の葉を揺らす。

 そこには悲鳴をあげつつも、目をこれでもかと見開き一点を注視している女の姿があった。

 その女は瞬時に考えを巡らす。何故、どうして、この女の人きれいだな、とってもたくましい男の人だな、けどなんで、ここ目的の事務所だよね、地図を読み間違えたのかな、コレって夢なのだろうか、扉閉めなきゃ。

 最終的に取った行動は、自分が中に入ってから扉を閉めるだった。一拍おいて、何やっているんだと強烈なツッコミを自身におこない、そしてその女は、とてもふしだらな光景を少しラッキーと思ていた。

 私だった。

 

「誰だ、お前。人の部屋に勝手に入るんじゃないよ。常識ねえのかよ」

 

「事務所で女の子と、そのあの、SEXしてるんじゃないよ。常識ないのかよー」


 5秒前の自分への後悔と、少しばかりの申し訳なさが吹き飛んだ。


「そりゃそうだ。ちょっと待ってて」

 

 お母さん。マリは大変な所に就職してしまったかもしれません。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 富、名声、権力。それらは人生を豊かにするにおいて重要なファクターだ。そしてこの都市には、それに加え最も重要な要素がある。それはラブ。ラブは市民全体からの人物評価値。機械仕掛けの神が定めたこの街を使うにふさわしい人物を選定するシステム。

 直接会ったとき、あるいは独自的ソーシャルネットワークによってその人物を評価出来る。

 評価は都市によって与えられたポイントを利用しておこなえ、減点と加点の二種類のみ存在している。

 そして膨大なラブを手に入れた人間は、この都市の王とも言うべき膨大な力を手に入れられるのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「じゃーねー、ジッター」


 さっきまで全裸だったきれいな女性が、何事もなかったかのように帰っていく。私がおかしいのだろうか。

 ジッタさんに黄色い光があふれるのと共に、私の周りに黒い光がまとわりつく。コレが話に聞く()()、なのだろうか。


「あーあ。減点されちゃった。あんな顔して以外と怒ってたのかもね。ほら、何ぼけっとしてるの。君のことだよ」


「あっはい」

 

 何か不味かっただろうか。いや、どう考えても昼間っからパコパコしてるこの人達の方が、絶対悪いよ。


「で、どうしたの。マイナスにでもなっちゃった?」


「いえ、私、ここの求人に応募して。当日から働いてくれって言われて」


「チッ。となるとさっきのか」


 そう、すっかり忘れてしまうところだったけど、私はこの都市にやってきて、今日からここで働く予定だったのだ。

 

「しかし今日からね、そんな話あったっけ?まあいいや。へえ、田舎娘が一人で上京ねえ。なんでうちに来たの」


 良くないが。昼間から、新人のことを忘れて、恋人のことを考えていた変態に遭遇。その変態が上司になる、私の気持ちが良くないが。


「失礼な、俺は恋人以外のことも平等に愛しているし、アレは恋人ではない」


「尚のこと悪いわ」


 ものすごく身の危険を感じるのだけれど、良くないどころか悪いのだけれど。むしろこの男が悪人だったのだけれど。

 

「あの、いえ。どうしても、この仕事で働きたくて。他の所は経験者しか募集していなかったりしたので」


 だいたい、昼間からとんでもない物を見せられた私への謝罪とか、ほら、何かないのだろうか。まあないんだろうなあ。この人、すっごく当然みたいな顔してるし。


「ふーん。OK。それじゃあこの書類にサインして、と言いたいところだけど、まだダメだ。そもそも、ここがどういうところかわかってんの」


「はい、特別審問所ですよね」


「つまり君は特別審問官になりたいわけね」


 そう私は、特別審問官になりたくてこのまちにやってきたのだ。私の夢を叶えるために。


「けどダメだね」


「え」

 

 そんな、なんで。


「君、マリちゃんだっけ。だって今評価マイナスになってるから」


 この町は、全ての人間に点数が存在する。その点数は体のどこか文字として浮かび上がる。私もこの都市に入るときに首から胸に向かってハートマークの後-10と刻まれていた。

 当然、目の前のジッタさんにも腕に刻まれていたが、ハートに続いて、数字の代わりに特別審問官の証そのエンブレムが刻まれている。


「マイナスの人は、特別審問官になれないからね、基本的にバイトでもマイナスの人は雇わないことになってるの。だってイメージ悪いじゃない」


「一番あんたの下半身が評判悪いわ」


「失礼な。好評につきサービス継続、増加予定なんだが」


 一体何のサービスなんだ。


「お願いします。どうしてもここで、働きたいんです。それに」


「それに、私ここに受からないと今日寝る場所が……」


住居が見つかるまで、この事務所に泊まる予定だったのだ。ほとんど一文無しで実家に帰るお金もないのに。一体どうしろというの。

 

「お帰りはこちらです」


「掃除でも何でも良いですから」


「あ、まて。足にしがみつくな、ベルトしてないからズボンが」


「「あ」」

 

「ぎゃーーー」


 とってもおっきかったです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 

「どうも。おはようございます。特別審問官の生井仁太です。私のことは気軽にジッタと呼んでください」


「今日はよろしくジッタさん」


 田中田菜。今回の依頼人だ。声が小さくて、猫背。その上微ハゲだ。帽子かぶるとか、坊主にするとか何かすれば良いのに。そして服装のセンスがないを通り過ぎてなんだか不潔だ。

 今の姿からは想像つかないけれど、少し前までは5桁のラブを持っていた、いわゆる特権者(エクストラ)だったらしい。


「ジッタさん。この人。ものすごっい、さえない感じですよ」


「間違っても、本人に聞こえるように言うなよ」


 一方ジッタさんは別な意味で不浄だけれど、いい服を着ていてシャキッとしている。ついでにイケメンで微妙にむかつく。


「しかし、ジッタさん、それ」


「うん?」

 

「それ、なんでグラサンなんですか。似合ってますけど、凄く胡散臭いです。審問官としての仕事なんですから、スーツぐらい着てきたらどうなんですか」


「良いの、今日は変装だから」


 変装って。あんたは一体何から追われているんだ。

 十中八九おんなだろうなぁ。

 残り一、二で彼氏やろうな。

 

「良いか、マリ。君がやるべきなのは彼に自分の価値を証明することだ。そうしてチップとして、貰えるだけのラブを貰ってこい」


 ラブ。私が特別審問官への第一歩を歩むには、どうしてもそれが必要だった。

 そう、どうやらアルバイトとしては雇って貰えないみたいだけれど。仕事をくれるらしい。この仕事に成功すれば事務所に泊めることも考えてくれるとか。それにラブを十分に集められれば、アルバイトにすることも考えてくれる。お給料は貰えないけれど十分


「この町でマイナスはあらゆるサービスを受けられない。まず交通機関が使えないタクシーもダメだ。そしてほとんどの施設に入ることも出来ない。当然、ホテルもだ」


 そんな、もしかしなくてもこの仕事に失敗したら、私このまま野宿で野垂れ死ぬんじゃ。


「そりゃそうだろう。ラブがマイナスな奴なんて大抵お前みたいにこの町にやってきてすぐに失敗したか、犯罪者だ。それだけ周囲の人間に嫌われているということを自覚しろ」


「マリは何もやってないのですけれど」


「何もやってないからだよ」


 思えばここに来てから、たった12時間何をやっただろう。SEXを見せつけられ、ちんこを顔面に押しつけられ、マイナスになるわと碌な事がない。どうなってんだ。けどたった12時間で何かを成し遂げるのも無理な話だと思います。


「この都市では、エクストラ共、特権階級がかなり強権で階級社会だが、マイナスの扱いは最悪だ。基本的な生活が出来ないだけですんでいるのは俺のおかげだと自覚しろ」


 思わず固唾を飲み込む。軽い気持ちなんかではなかったけれど、どうやらとんでもない場所に私はやってきたんだ。


「うちの事務所の若い子です。少しなれないところがあるかもしれませんが、どうかご容赦を。何かあればこちらに電話をお願いします。別件を片付けてすぐにこちらに参りますので。それでは」


「居なくなっちゃうんですか」


「当然だろ、マリのために用意した仕事だぞ。何よりこれから女との予定が入ってる。それじゃあ頑張って。それとコレを手放すな」


 雑に投げ渡されたのは、高級な腕時計のような物だった。これもしかしてダイヤとかなんじゃ。


「それは君らが言うところのスマホみたいな奴だ。この町の中では、外で使っていた電化製品は軒並み動かないからな。貸してやるから、そのうち買い取ってくれ」


 スイッチを押すと、空中にウィンドウが投影される。

 コレを買い取らなきゃならないのですか。

 大切にしよう。財布が壊れる。

 それと と一言つぶやき、私の耳元でこそこそとジッタさんが話してきた。気持ちが悪いからやめて欲しい。

 

「そのストールを外すなよ。お前がマイナスだってばれると、うちの信用に関わる」


 そう言って、ジッタさんは車を走らせ、本当にどこかへ行ってしまった。いや信頼してくれているのか。無責任なだけか。

 どうしましょう、これ。

 ええいままよ、結果的に憧れの仕事が出来るのだから、それをこなせずになんとする。

 こうして、私の初めての仕事が始まるのだった。


「あのう、それでですね。あなたが依頼を受けていただけるのでしょうか」


「はい。私はマリと言います。今回の件について、出来れば本人からも話を聞いておきたいのですが」


 本人からどころか、今回の仕事についてジッタさんに私は全く話を聞かされていない。とりあえず目の前のさえない彼に、何をするべきなのか聞いてみないことにはどうにもならないのだろう。


「この話はまだ私が立派なビルに住んでいた頃の事なのですが。私はある女性に出会いました。コレがまた素晴らしい女性でした」


 ん?


「彼女との生活は、全てが輝かしく見えて。それ以外が色あせるほどです。彼女の唇から足の指先、髪の一房に至るまで宝石のようでした。彼女の声、瞳、仕草の一つから余すことなく私の心を震わせます。もちろん夜の営みも、おっと失礼」


 男って最低ー。

 もう帰っちゃダメですか、ダメですよね。本当にだめですか?

 いつまでこののろけ話を聞いていなければならないのだろう。

 今すぐ目の前の男を撲殺したかった。

 

「思えば、始めて会ったときから素晴らしかった。今でも鮮明に思い出します。一目惚れとはこんな感じなのでしょうか。ラブ自体は私のように飛び抜けて高いわけではなかったのですが、私のような金でラブを手に入れた小物とは違い、そこにあったのは本物だったのです」


 このダメ男。お金を稼ぐことに関してだけで言えば優秀なのでしょう。それなら失敗を糧にしてもう一回頑張れば良いのに。忘れられなかったのだろう。私は何を聞かされているのだろう。

 本物ね。お金でハートが手に入れられると知らなかったけれど、お金で買ってもラブはラブでしょうに。けれどそれも今となってはか。

 彼の手の平には15という無残な数字が刻まれていた。

 

「そう彼女は本物の悪魔だったのです


「美しい悪魔でした、夜も悪魔でした


「気がつけば私はありとあらゆる物を献上していました。ラブ、お金、建物、株式、事業、私の持っている物全てです」


 この人、やはりただのダメ人間なのでは。


「一応、言っておきますが、特別審問官の職務は大きく分けて二通りです。不正に入手したラブの剥奪。そして不正なラブの使用の取り締まりです。自ら譲渡したのではその範疇ではありません。一応、警察を呼びましょうか」


 ちなみに今の私には本当はそんな権限はないし。ラブを4桁、5桁以上持っているような、いわゆる特権者(エクストラ)と敵対したとき私はあまりに無力だ。いやマイナスである今の私は、目の前の彼にすら従うことを強いられれば、抵抗する術がないのだった。


「いえ、そうではなく。彼女にしたがっているうちは、気分が高揚しまるで幻を見ているかのようだったのです」


「なるほど、精神支配を受けていたという事ですか。それならば一応調べてみますが、あまり良い結果になるとは限りませんよ」


「構いません。私はアレが本当の気持ちだったのか、それとも彼女に作られた物だったのかそれだけが分かれば良いのです」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それで、話を聞いてみてどう思った」


 電話がかかってきた。お馬鹿のマリちゃんからだ。上手くやっているらしい。特別審問官になりたかったというのは本当だったらしい。

 

『どうやら彼は、精神支配を懸念されているみたいですけれど。お金もラブも何もかもあげちゃったとかそんなバカ、私にはただただダメ男がダメダメのゴミカスだったのか、本当に禁止事項がおこなわれていたのか判断がつかないのですけれど。ちなみに私のラブは-9になりましたが貰った人が人なので全然嬉しくありません』


「一応言うと、お金で評価を、ラブを買う行為は別に禁止はされていないよ。まあそういうパターンは、数年いい点数を取れても続かないけどね。カリスマとかそういうのなのかな、純粋な人気で特権者(エクストラ)になった人はやっぱり息が長い。不祥事ぐらいいくらでもかき消せるからねー。老いとか以外で転落したのは俺が審問にかけた奴らぐらいじゃない」


『私、この後どうすれば良いんですか。何にも出来ることないんですけれど』


「うーん。まあ片方の話だけを聞いて審問にかけますでは、横暴が過ぎるからね。相手の女性の話も聞いておいで。俺の名前を出せば、通してくれると思うよ。その後のことは俺がやるよ。俺はこのあと、2回戦があるからね。それじゃ」


『ちょっと』


 時計も使いこなせているようで何より。彼女は無事に達成できるだろうか。

 

「ジッタ、新人ちゃんなんでしょ。そばにいてあげなくて良いの」

 

「うん 面倒くさい」


「あら、ひどい人」


 失礼な。騙された馬鹿者には丁度良い。

 改めてメールを確認したが、俺の特別審問所に対して絵心マリなんて人間からのメッセージは無かった。そもそもうちはバイトも正社員も募集していない。大方うちに対する嫌がらせの一環で、騙されノコノコやってきたのだろう。

 毎日ラブを評価するだけの人間機械、奴隷にされなかっただけ、良心的な悪戯だったから良かったが、なんとリテラシーのない。もう少し自己防衛意識を持ってはどうだろう。

 まあ外の人間はそんなものか。

 面倒を見てあげているだけ温情というものだよ。


「正直、俺が手を出してはいけないよ。彼女が自分で考え、努力して感謝される。それが一番重要だ。私がラブを増やしてあげることも出来るけれど、それじゃあただの介護だ。彼女がこの先、この街で暮らしていくのなら、必要なことだよ」


「それを本人に言ってあげれば良いのに。それとも、今からいい女に育てて、食べちゃうつもりなのかしら」


「まさか。俺は仕事と恋愛は分けて考えるたちなんだ。拗れると大変だからね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あのー、生井仁太の、生井特別審問所からやってきました、絵心マリと申します」


 どうせ一悶着があるのではないかと、思っていたのだけれど。アポイントメントもないというのに、すんなりとこの部屋の前まで通ることは出来た。

 案内の方がノックする。部屋の中から返事は無い。ノブを引くと、音も無く。ゆったりとその扉は開いた。そこに居たのはとてもきれいな女の人だった。


「初めまして。私は日野愛茉と申します。本日はどのような要件でしょうか」


 やけに甘い香りが鼻に付く部屋だった。部屋自体はIT企業のオフィスのようなシンプルな家具とで整えられつつも、ガジェットで少しごちゃついていた。社長室と応接間が一緒になっているような状態で、彼女はテーブルの前で立ち上がり待っていた。


「実は本日は少しお話を聞かせていただきたくて。田中田菜さんの事なのですが」


「ああ、あの男の事ですか」


 とぼけられるかとも思ったけれど、どうやらすんなりと話が出来そうだ。

 

「日野さんの躍進には、田中さんの影響があった事は間違いないと思うのですが。そのあらましを聞かせていただければと」


「そうね。今私がここに居るのは。彼がいたからでしょうね」


 けど何を聞けば良いのだろう。あなたは精神汚染をおこないましたかなんて聞けないし。普通こういうのって先輩とかが教えてくれるものではないのだろうか。ジッタさん助けてください、死ね。

 

「彼が現在多くのものを失ったことについてどう考えますか」


「代償ではないですかね」


 代償。それは一体何の代償なのではなのだろうか。

 これ以上会話をどう続けるべきなのだろうか、気まずい沈黙が続く。


「はあ、あなた以外とつまらないわね」


 稲妻に撃たれたかのようだった。

 

「ジッタさんの所から来たって言うから、どんな凄い子が来るのかと思ったけれど。あなた、本当につまらないわ」


 そう言った日野さんは、失望したどころか、人を殺しそうなほど鋭い目をしていた。

 思わず、うぅ と声が漏れる、逃げるわけにも行かない。

 顔が近い。その表情は氷のようで、まるで悪魔のような美しさだった。


「まあ良いわ着いてきなさい」


 肩を縮めてついて行った。


「あなた、この街に来てすぐなんでしょう。だってあの男の話なんて、この街に暮らしている人なら誰でも知っているもの。あの男はね、幾つもの罪を犯しているわ。生井仁太特別審問官によって、審問にかけられ所有していた全てのハートを失い。財産の全てを私に奪われたの」


 あのさえない男が異端者。


「いい、特権者(エクストラ)はこの都市の最新技術を使用ことが許されている。洗脳技術、最新兵器、ナノマシン、能力開発、そして自身のラブを一定に超えて低い人間に対する拘束件。それが私たち」


日野さんが指を振ると、その指先がなぞったところに光の線が引かれる。きっと空気中に存在する、目視不可能な機械群にアクセスしたのだ。命令にデバイスは必要ない。彼女の体内にあるナノマシンを通じて命令したのだろう。

 そうコレが、ラブシステムによって評価された。この都市の機能を十全に使用することを許可された人間たち、特権者(エクステラ)


「ちなみにこれは、ナノマシン、と言う名の群体微生物なんだって。面白いわよね、私も最近まで小さな機械が浮かんでいるんだと思ってたわ。そして、こういう力を、中には非人道的な行為を行う人も居る。それを機械仕掛けの神の名の下、独自に裁く権限と方法を持っているのが特別審問官」


 知っている。だから私は特別審問官になりたかったのだ。


「あなたソーシャルネットワークを使わなかったでしょう。今度自分を存分にアピールすると良いわ。この都市で一番強力な武器だから」


「はあ」


「分かってないみたいね。例えば私が過去そして今何をやっているのか、それこそ田中田菜の事件に関してすら詳細に情報があるわ。あなたが知りたかったこと全て、それがあなたのその左腕の時計があれば手に入るの」


 いや、けど。あのさえないおっさんがそんな凶悪な犯罪者だって誰が分かるというの。そもそも、ジッタさんが教えてくれれば。いや、ジッタさんは彼を裁いた人、初めから知っていたのか。

 

「私の肩書きはね。世界で一番成功した商売女っていうのよ」


 商売女?


「それって……水商売の」


「そう水商売の。そして、その商売女を奴隷にしようとしたのが田中田菜。彼は私のように気に入った女を、洗脳技術で人格を破壊するサディストだったのだけど、それと同時に違法なラブ生産システムを運営していたわ。詳しくわ自分で調べなさいな、胸くそ悪くなるわよ」

 

 ビルの中を歩き、コツココツコと廊下に響く。たどり着い所は、まるでマンションの一室のような扉だった。陳腐だというわけでは無い。確かに質感も、デザインの高級だと断言できる物だった。だがどこからどう見ても家の扉だった。

 なにがその中にあるのかも分からず、開け放たれたそこは、想像を絶する光景が広がっていた。


 嘘でしょ…………

 

「ああコレかしら。こいつらは元この会社の社員共よ。私がこの会社を奪って最初に何をしたと思う。全部まとめて男娼にしてやったの傑作だったわ」

 

 一面に大量のディスプレイに埋め尽くされ、監視カメラのような映像がそれぞれ浮かべられていた。それは全てでは無いが、その多くが社員の成れの果てが、突いたり疲れたりしているところだった。

 おぞましかった。十分おぞましかった。

 だが、絶句するほどではない

 それでは無い。

 

「いえそちらでは無く」

 

 その部屋に詰められていたのは。ほとんど全裸のイケメンの男だった。

 それぞれがエロい、女の妄想を詰め込んだような服を着せられ、中には縛られていたりともかく特殊なプレイがプレイでプレイガールだった。


「素敵でしょ。全部私の男なの。私の作品にも出演して貰っていたりもするわ」


「トッテモステキデスネー」


 本日一番、色々とおぞましかった。

 

「それでねジッタになんと言われたと思う?客とは寝ない主義よ。分かるかしら。私はそんな魅力の無い人間なのかと思うと雷に撃たれたようだったわ」


 そこから始まったのは自分がいかにジッタさんに助けられ、どれだけかっこいいかという話だ。何しに来たんだっけ。もう帰って良いですか。

 

「だから私は、ジッタを見返したい。そして最後にはジッタと寝たい。出来ることなら下僕をしばきながら、ジッタにしばかれたい」


 日野さんはいろんな意味で凄い人だが、この人と話していては体が保たない。有り体に言って頭がおかしいのではないだろうか。それに目に毒で苦痛だった。


「それでは、私は今日は帰らせていただきます」

 

「ああ、分かっていただけたのなら何より。どうぞ、選別ってやつよ、ほら」


 私の体に光が纏い。こっそりと首元を見ると。丁度、1と刻まれている。


「今度は特別審問官としてあなたと会うことを楽しみにしているわ」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 事務所の一室に置かれたベッドに寝転がり、力尽きた。

 結局現状を変えることは無かった。日野さんに非は無く。田中は虚言こそ吐いていたが、罪は精算されている。結局くたびれるだけくたびれて、部屋とたった少しのラブを手に入れたのだった。

 服をめくると確かに1と刻まれている。随分とラブをくれたらしい。

 複雑だ。


「どうだった。今日一日」


 気がつくと扉の所にジッタさんが立っていた。結局、全てこの人に手の平の上で良いようにやられていた訳だった。

 とはいえ、なんとか彼の策でラブをプラスにして、部屋まで借りては、文句も言いにくい。


「別に実家に帰るぐらいの金なら貸してやっても良いぞ」


 思っても無い言葉だった。確かに今日は大変で、大変な割には何も出来なかった。けれど。

 

「遠慮しておきます」


「そうか」


 きっとこれでいい。何も出来ない私が、0から何かをなす。私らしくてこれでいい。

 

「ようこそ、生井特別審問所へ」

 

 


 

 

 来週辺りに、12万字ぐらいの長編を毎日投稿であげるので、そちらも見ていただければ私が喜びます。

 読み終わったら、是非ブクマ、星評価よろしくお願いします。

 賛否感想待っています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さんの個性が良く出ていて面白いと思います。 [一言] ワタシ シャンフロレビューカラ キマシタ ドウゾヨロシク
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ