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声が出ない少年と盲目の少女  作者: 黒川まえ
1/1

全ては失った理由を思い出し、失ったものを取り戻すために。

第1章

1

「ロット、入ってもいいか?」


扉のノックが2回なった後、扉越しに聞こえた声は父の声だ。

薄暗い部屋のベットの上に力なく倒れていたロットは、重い体を起こし、机の上に置いてある紙とペンを持って扉を開けた。


暗く沈んだ父の顔。

以前よりも隈が濃くなっている気がした。

辛いのはロットも変わりないが、それ以上に父のほうが辛そうだったのはその表情から読み取れた。


ロットはそんな父の姿を見て紙にペンを走らせる。

『お父さん、大丈夫?』

話の内容を聞くよりも先に父の体を心配した。

父は目の前に出された紙を見るなり不機嫌そうに眉を寄せる。


その表情は何よりもロットに重くのしかかるような表情だった。

紙を丸め、近くのゴミ箱に捨てた。

こうやってゴミ箱には丸められた紙が溜まっていく。

そこまで父と会話をした覚えはないのに、いつの間にか紙はゴミ箱の半分を埋め尽くしていた。


ロットは口がきけない。

いや、きけなくなった、が正しいだろう。

3年前のある日、ロットの声は失われた。

何が原因で声が出なくなったのかは未だにわからない。

ロットは声が出なくなってから、筆談で話すようになった、友達との会話の輪に入ることも難しく、言いたいことをいちいち紙に書いていては会話の邪魔になるのだと思い、誰にも迷惑をかけないように学校には行かなくなった。

それを父が心配したが、父は次第に自分のせいだと思い込み、ロットが紙で会話をするのを見ると、さらに罪悪感に襲われるようだ。


父の機嫌を取るわけでは無いが、父がそうなってからは殆ど会話をしてこなかった。


「大丈夫だ」

ロットの表情で察したのか、父は慌てたようにそういった。


ロットは父が言おうとしたことが何だったのかを聞こうと紙にペンを置くが、さっきの表情がやはり脳裏に離れずにいたため、ペンを進めようとする手をおろした。


すると父が一枚の紙を取り出し、ロットにそれを見せる。

地図だったが、ロットには見覚えのない地形の地図だった。


「お前には、明日ここに行ってもらう。

きっと、お前のことをわかってくれる人がいるから、カウンセリングみたいなものだ。だから、少しの間…少しの間だけ、ここに行っていてくれ。父さんが送っていくから。」


気づけば、父は今にも泣き出しそうな表情だった。

自分は、一生この家に戻ることは無いのだと、なんとなく、そう思った。


父一人ではロットをどうすることも出来ないのだ。

もし、母親がいたら少しは変わったのか。


だが、どうすることが出来ないにしても、何故声が出いからというだけで、ここから出ていかなくてはならないのかわからなかった。

カウンセリングなら、何度も回った。

それでも、原因はわからなかった。


しかし、考えても無駄だろう、そう思ったからこそ

『わかった』

と、そう答えるしか出来なかった。


2

次の日の朝。

着替えなど、軽く荷物をまとめ父の車に乗った。

父の車には何度も乗ったことがあった。

小さい時にはよく遠出をして、父と会話をした。

でも、今はあの時とは違った。

ロットの声が出なくなってから、車の中では会話が出来ない。

見ている暇がないからと父は言うが、ロットは車酔いが激しいため車の中では紙に書くという行為が出来ないのだ。

だから、車の中は昔と違い、とても静かだった。


小さい時に見慣れた街の景色が、全く知らないものに変わる。

自分は父にとっていらないものになってしまったんだと。

色々な不安が車酔いに重なってさらに気分が悪くなり、外を眺めていた顔を肩から下げていたカバンに埋めた。


「ついたぞ」


体が限界を迎えようとしていた時、父の声が頭上から聞こえた。

車の扉を開けて待ってくれている。


一歩、車から外に出たとき立ちくらみがしてその場に倒れそうになった。

「大丈夫か?」

父が急いで体を支え、肩を貸してくれた。

少し照れくさい気分にはなったが、やはり車酔いの苦しが上回り大人しく父の肩を借りて歩きだす。


目の前には、見たことがないほどに大きな屋敷が立っていた。

父と共に歩きながらゆっくりと屋敷の玄関に向う。


玄関には、黒いスーツに身を包んだ男性が立っていた。


「お待ちしておりました。」

そのロボットのように、淡々とした声にロットは驚いた。

これほどまでに感情の籠もっていない声を聞いたのは初めてだった。


父はロットを肩から離し、スーツの男の前に出す。

肩を少しポンッと叩かれた。

シャキッとしなさい、父が昔ロットにやった仕草だった。

父はなにも言わなかったが、ロットは自然と背筋を伸ばしお辞儀をする。


「今は、気分が悪いようです。でも、元気な息子ですので、どうか…よろしくお願いします。」


父が何かを言おうとしたことがわかった。

でも、それが何なのかを考えようとは思わなかった。


「わかりました。それでは、行きましょう。」

そう言ってスーツの男はロットの肩に手を置き扉を指す。


スーツの男は屋敷の重そうな扉を開く。

ロットは案内されるがままにその中に入るが、扉が閉められる時に、父が言った。


「ごめんな…」


その言葉だけが、どうしても頭から離れない。


3

最初に案内されたのは、小さなへやだった。

机が置かれ、椅子が二つ対面に置かれていた。


大きな屋敷だがこんなに小さな部屋があるのだと少し驚いた。

ロットの中ではこのような屋敷は、全部の部屋が大きなイメージだったからだ。


「それでは、これから質問をいたします。こちらにおかけください。」

スーツの男が片方の椅子を引いた。

ロットはその椅子に腰掛けると、スーツの男は反対側の椅子に座り、書類のような紙とペンを取り出した。


「では、お名前を教えてください。」


ロットは肩から下げていたカバンから紙とペンを取り出す。


『ロット・ワードナーです』


「わかりました」


そういうとスーツの男は書類にロットの名前を書き始めた。


「では、年齢は?」


『15歳です』


「家族構成は?」


『僕とお父さんだけです。以前は母がいましたが、3年前に亡くなりました。』


その後は、好きな食べ物や好きなスポーツ。

そんな簡単な内容を聞かれた。


「それでは、何故自分がここに来たかわかりますか?」


『僕が、父にとっていらない子になったからだと思いました。』


その質問に答えようかと一瞬迷ったが、解答を待っているスーツの男姿を見て、正確に答えなければと思い、紙に書いた。

だが、言葉が思いつかない事に気づき書いたことを後悔した。


「わかりました。では、最後の質問です。

声が戻れば、あなたのお父様はあなたといつも通り接してくれると思いますか?」


その瞬間、体が硬直したように思えた。


父は、筆談で会話をするロットをみると、不快な顔をする。

声が出せるようになって、普通に会話をすることが出来たら、父は昔のようになるかもしれないと、ずっとそう思っていた。


でも、今は違った。

スーツの男の今の質問で、ロットには急激に不安が押し寄せてきた。


−声が戻ったところで、僕がいらない子だということは…変わらないのではないだろうか。-


不安と絶望。

どちらも混ざり合ったせいで、ロットは深い海のそこに潜ってしまったような苦しさに襲われた。


急に咳が止まらない、なぜだか涙が止まらない。

怖くて、怖くてしかたがない。


スーツの男が慌ててロットを抑えようとした。

何かを言っているようだが、何も聞こえない。


必死に叫んだ、叫んだところで声は出なかったが、もがき続けた。


そこにあったのは恐怖。

父にとっていらない存在だと思ったために現れた感情。

今まで話してこなかった、大切な人に捨てられる絶望。



どれぐらいたったのだろう。

気づいた時、ロットはベットの上にいた。


4

ベット、というだけで、一瞬この場所は自分の部屋なのかもしれないと思った。


だが、部屋の内装や広さから違うと知ると…また、恐怖が押し寄せる。


やっぱり耐えられない。

そう思い、いそいでベットから飛び起きる。


さっきいた部屋よりも遥に広い部屋だった。

殺風景で何もない部屋ではなく。

机や本、人形など、生活感が溢れた広い部屋だった。


「大丈夫?」

部屋を見渡していると、不意に声をかけられる。

驚いて声のしたほうを向くと、そこには女の子が立っていた。

年は大体同じぐらいだろうか。

装飾もない真っ白な衣服に身を包んだ女の子だ。


壁に手をついてこちらを見ている。

しかし、完全に見ているとは言えなかった。


彼女の目線はあきらかにロットの方を向いていない。


不思議に思ったが、ロットは枕のそばに紙とペンが置いてあることに気が付き、急いで文字を書き彼女に見せる。


『君は誰?』


しかし、彼女からはでた言葉は

「目覚めて良かった、心配したんだよ?」

だった。


予想外の言葉に呆気に取られた。

しかし、そのおかげでロットは理解した。


“彼女は目が見えない。”


目線が合わない目、目の前に出された紙に反応することも出来ない。


彼女に返事をしたくても、声を出せないロットは一体どう接すれば良いのかがわからなかった。

紙以外で彼女と話すことは不可能だ。


「本当に起きているわよね?」


彼女はロットの背中をさする。


「起きているみたいだけど…まぁ、突然初対面と会話をするのは難しいものね、待ってて、使用人を呼んでくるわ。」


そういうと彼女は壁伝いに部屋を出ていった。


どっと汗が流れる。

彼女があのような性格だったことが救いだった気がした。

今まで、目が見えない人にはあったことがない。

ロットは不安になりながら、君は誰?と書かれた紙を眺めてもう一度ベットに倒れ込む。


驚きすぎたのだろう。

不思議と今まであった息苦しさはなくなっていた。

彼女はすぐに帰ってくるだろうと思っていたが、ロットはまた目を閉じた。

どれぐら、と言う程の時間はたっていないだろう。


「使用人さん、こっちよ」と、さっきの女の子の声が聞こえ体を起こした。


扉が開く音と同時に少女と、黒いスーツの女性が入ってきた。


「ね?起きているでしょう?」


「本当ですね、目覚めたようで良かったです。よくお気づきになりましたね。」


少女は嬉しそうにスーツの女性に話している。

隣のスーツの女性は、ロットがあったスーツの男のように素っ気なくロボットのように淡々とした声だった。


スーツの女性ははしゃいでいる女の子を落ち着かせ、ロットの方を向く、どうやらロットが持っていた紙に気がついたようだ。

紙を手に取ると抑えていた女の子から手を離す。


「お嬢様、何も彼に話していないのですか?」


「ん?」


「彼は、紙に君は誰?と書いています。お嬢様のことを聞いていますよ。」


「え、ごめんなさい。紙だなんて、気づかないわよ…

あの、私、ムウって言うの。言ってくれればよかったのに。」


「私の方から紹介しなかったことがいけませんでしたね。お嬢様、彼は声を出すことが出来ないので、紙に言葉を書いて話すのです。」


「それは困るわ。だって、私は目が見えないのよ?紙で書くだなんて、私は字が見えないのよ?じゃあ、私はどうやって彼とお話すればいいの?」


彼女の声は少し怒りが混じっていた。

たまにロットの方を見るようにしながら、スーツの女性に強くあたり続ける。


しかし、どんなに彼女がわめいても、スーツの女性の表情は動いているように見えなかった。


ロットはどうにかしないとと思い、紙にペンを走らせる。


『落ち着いて。』


スーツの女性が気がつく。


「お嬢様、彼が…落ち着いて、と」


ハッとしたようにムウがロットの方を向いた。

あがった息を抑えながらムウはロッドの顔に触れる。


「失礼。私、こうしなくちゃ顔を合わせて人と会話が出来ないの。お母さんに言われたわ、人とは目を合わせて会話をしなさいって。あの、ごめんなさい…取り乱しちゃって。

あのね、やっとできたルームメイトで嬉しかったの、でも、お話が出来ないって知って…私は今まで、声が出ない人なんて会った事ないから、どうすればいいかわからない…でも、仲良くしてくれる?」


ロットは見えていないとわかっていながらも頷いた。


それでも、彼女の手が顔に触れていたおかげで、彼女はロッド頷いたことがわかったようだ。


「良かった…ありがとう。」


「お嬢様、少々よろしいですか?」


そう言ってスーツの女性は、ロットに小さな機械を渡した。

小型で、ロットの肩掛けカバンの中にも収まりそうなサイズだったが、キーボードと、赤いスイッチがついている。


「これに、文字を入力してみてください。」


そう言われて、ロットは何を入力しようかと迷うが、なんとなく、自分の名前を入力した。


「そしたら、ここを押してください。」


スーツの女性がさしたのは、赤いボタン。

言われた通りにボタンを押した。


『ロットです。』


驚いたことに、機械から、入力した言葉が機械音声となって出てきたのだ。


「何?今の、ロットってあなたの名前?」


『そうだよ』


「凄いわ!こんな機械があるのね、声は少し変だけど…でも、これで会話が出来るのね!」


ムウは嬉しそうに飛び跳ねていた。


「それでは、私は仕事がありますので、また何かありましたらお呼びください。」


そして、スーツの女性は部屋を出ていった。


5

その日、ムウはロットに話続けた。

さっきスーツの男に質問されたようなことをムウは質問し、ロットも機会を使いそれに答えた。


気づけば外は暗くなっていた。

それほど話していたのだとロットは驚いたが、彼女と話すのは苦ではなかった。


ムウは15歳。

ロットと同い年だったが、彼女はまるで小さな子どものようだった。

話すときは常に楽しそうに、共通の話題が見つかると跳ねるように。

そんな彼女でも、ロットを驚かすような行動を取るのだ。

それは、彼女は目が見えないといことに関係する。

彼女はまるで見えているかのように過ごすのだ。

水を取りに行くのも、見せたい本を取りに行くのも、彼女は全部自分で行っていた。

目が見えなくても生活は出来るのだと初めて知った。


そんな驚くことばかりの一日を、ピタリと終えようにゴーンと大きな鐘の音が鳴った。


「あ、あのねロット、ここはこの鐘の音がなったら寝なくちゃいけないの。起きていようと思っていても、見回りが来て、起きてると別室に連れて行かれて怒られちゃうんだって。だから、もうお休み。また明日も、いっぱい話そうね!楽しかったよロット。」


そう言ってムウは反対側にある自分のベットへ向った。


寝る時間…ロットはそういえばと思い辺りを見渡す。

やっぱり、この部屋には、時計もカレンダーもない。

部屋を出るコトは、使用人を呼ぶこと以外は禁止されているらしく、ムウもこの部屋以外の場所は全く形がわからないという。


使用人は常にどこかにいるらしいが、ムウはあまり部屋から出ないので、使用人を探すために館内を歩くことは無いらしい。


この部屋は生活に必要な大体なものは揃っていた。

だから、細かいことは気にしていなかったが、考えてみれば色々と、不便ではないか?


ロットが感じたものは、違和感。

ムウは言っていた、この屋敷には他にも子供がいるらしい。

ムウのように目が見えない子や、耳が聴こえない子、手や足がない子、心がない子。


沢山いるが皆に会ったことは殆ど無いらしい。

ムウは一度他の子供に会ったことがあるらしいが、その子は耳が聴こえなかったらしいが、ムウとあったその時には耳が聞こえるようになり、その日のうちに家に帰っていったと言う。


そう思うと、父が少しの間だけ、と言っていたが本当に少しの間だけでありロットは声が戻るのではないかと考えた。


この屋敷はどのような場所なのか。


ロットは考えたまま目をつぶり、次に開けた時、既に外は朝だった。


6

目を開けて最初に見えたのはムウの顔だった。

驚いて起きたため頭をぶつけてしまった。


ムウはロットよりも先に起きていて、ロットのベットの隣に座っていた。

こんな朝早くから話したくて仕方がなかったのかと思ったが、それは違った。

「ロット、話したいことがあるの」


ロットは機械を取り文字を打ち込む。


『どうしたの?』


「あのね、朝は使用人が来るから、あんまり長くは話せ無いのだけど…私がこの屋敷からでるお手伝いをしてほしいの。」


『屋敷から出る、手伝い?普通にここを出るわけじゃないの?』


「うん、目が見えるようになれば、普通にでられるのだけど、私、もう長いことここにいるけど一向に治らない…そのうち、捨てられちゃう。

だから、捨てられる前にここを出る。」


捨てられる、という言葉が少し引っかかる。

目が見えない等は治れば直ぐにここを出ることが出来るとはムウとの会話で知っていたが、捨てられるとはどういうことなのだろうか。


『捨てられるって?』


「そっか、教えてなかった。

あのね、私達が、視力や聴力を失ったのは、病気とかではなく、ちゃんとした理由があるの。それでね、この場所は私達が忘れた“理由”を思い出さして、失ったものを取り戻す場所。ロットも考えてみて…あなたが声を失った理由は何?」


失った理由。

考えたことが無いわけでは無かった、ある日突然声が無くなって、カウンセリングを回って、色々話を聞いてもらった。それでも、何がきっかけで自分は声が出なくなったのか全くわからない。

わからない、というよりも思い出せない、という感覚に近かった。音


「ロットも、思い出せないのかな?

それでね、この病気は理由さえ思い出せば治すことが出来る。だから、家で看病されるのが大体なんだけど、ここにいる子達は皆…“いらない子なの”。この病気は普通と違って、周りの人を不幸にする。だから、普通の人じゃ私達の看病が出来ない。だから、いらない子として、捨てられた子がここに来る。病気が治るのは絶対じゃないから、長いこと治らなかった子は、殺されるって…私、聞いちゃったんだ」


やはり自分は、父にとって不要な存在だったようだ。

父を不幸にしたのは自分のせいだったのだと、改めて実感した。

(やっぱり、声が戻ったところで、帰る場所は存在しないんだな…)

最初に恐れていたことは、本当だったんだと。

そう思うとまた、あのときのような息苦しさがまたこみ上げて来た。

苦しくても声がでない。

自分も殺されて捨てられるのではないのだろうか。


「ロット、大丈夫?」


ムウが背中を擦る。

すると不思議と苦しさが消え、安心した気分になった。

落ち着いてきたところで、ロットは機械に言葉を打ちこむ。


『ここを出たところで、行く宛はあるの?』


「ないよ、だって、家族にはもう捨てられているもの。」


『じゃあ、今じゃなくったいいんじゃないの?』


「言ったでしょう?私にはもう、時間が無いかも知れないの。行く場所がなくたって、こんな場所で死ぬわけにはいかないの。どうせ、治って出れても、行く場所がないのは一緒。しかも、治る人なんて少ないのよ。」


治る人が少ないだなんて、ここに入った時点で死んだようなものだ。

彼女が出たがる理由もよくわかった気がした。


「私は目が見えない。だから、協力してほしいの。」


ガチャ


扉が開く音。

使用人が入ってきたのだ。

昨日と同じスーツの女性。


「ムウ様、ロット様。よく眠れましたか?」


「えぇ、おはよう。」


「ロット様のお側で何を?」


「ロットが起きた音がしたから、お話しをしようと思っていたの。機械でも、ロットとの会話は楽しいのよ。」


「そうですか、それは良かったです。…お嬢様。明日なのですが、朝起きましたら、一階の食堂へ案内いたします。今日はロット様とお話して過ごすと良いでしょう。それでは、私は仕事へ戻りますので…朝食は入口前に置いてあります。食べましたら戻して置いてください。」


そういってスーツの女性は部屋を出ていく、それと同時にムウも部屋を出て、朝食を持って再び戻ってきた。

ロットとムウは机の上で朝食を取る。


「朝ごはんは、初めて一緒に食べるね。私、ここのパンが好きなの。もちもちしてるから。」


ムウは変わらず嬉しそうに話していた。


「こんな朝には、クラシック?でも聞いたらステキなんだろうね。私、ここを出たらオーケストラを聞きに行きたいの。」


静かになる。


昨日ムウと会話をして感じた印象は、ムウはよく喋る子。

という印象だった。

寝る時間になるまで彼女の声を聞かなかった時間は無かった、と思えるほど彼女はよく喋っていたが、今は違う。

彼女は突然静かになった。


『ムウ、大丈夫?』


「えぇ…ねえロット。ここを出るのは、今日にするわ。」


突然な話。

もちろんロットは驚かなかったわけではない。

確かに彼女は今日、今すぐにでも出たいと言うように話してはいたが、何故突然。


「使用人が言っていたでしょう?明日、一階の食堂に案内するって。あれ、私が明日捨てられるっていう合図よ。」

第一章を読んでくださりありがとうございます。

僕は最初と最後、真ん中の中途半端な設定を考えて物語を作るので、いざ物語を書くぞ!ってなると、真ん中のストーリーがたりず物凄く苦労することがよくあります。

今回も、後半のストーリーは自分でもよくわからなくなってしまいましたが、ここまで読んでくれたことに感謝しています。

続きはちゃんと書いて、完結を目指していきますので、ぜひ、これを読んだ方は続きも楽しみにして待っていて欲しいです。

初投稿の作品ですが、これからもよろしくお願いします。

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