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黄昏のアルケミスト  作者: ハルサメ
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第18話

「ちょっとあれはどういうことッ!?」


 扉を力いっぱい開け放ち、ファリナはライカの自室に侵入する。執務机に座り何やら書き物をしていたライカは突然来訪したファリナを見て、愛想笑いに近い笑みを浮かべる。


「絶対に来ると思ってたよ」


「当然でしょ!なんなのよあれは!一体あなたどういうつもり!?」


 先ほどの軍事会議、その場でライカは自らを魔の森という死地に追いやろうとした。しかしそれだけでも驚くべきことなのに、そのライカの行為をまるで防ぐような形でデュークが取って代わったことには最早開いた口が塞がらなかった。


 一体こいつらは何を考えているのか、ファリナには想像もつかなかった。


「まぁまぁ落ち着こうか。うん、何か飲もう。ヘラ、紅茶でも入れてくれるかい?」


「承りました」


 ファリナの後ろに控えていたヘラは慣れた足取りで部屋を歩き、紅茶を淹れ始めた。


 憤慨しているファリナにとって妙に落ち着き払ったライカは余計苛立ちを感じさせた。


 やがて紅茶が運ばれ、ライカは満足そうに匂いを堪能した後、一口含む。


「さて、それじゃあさきほど一体何が起こったのか解説しよう」


「だらだらと話さないで簡潔に頼むわよ」


「分かったよ。じゃあまず僕が何を考えていたのかだけど、とりあえずあの場で言ったのは全部本音だよ」


「それじゃあ魔の森の賢人は嘘じゃないの?」


「もちろんさ。あそこで局長が何も言わなければ、僕は本当に魔の森に行っていたし、そこで賢人にも会っていただろうね。だって僕はその賢人と一応顔見知りだから」


 旨い、といって紅茶を飲むライカに、ファリナは開いた口が塞がらなかった。魔の森に人間が住んでおり、それとライカが知り合いだった。またいつのも冗談か、と思いはするのだがライカの口調からはいつもの胡散臭さが感じられなかった。


「それじゃあなたはその賢人に会って、本当に魔の森を抜ける術を教えてもらうつもりだったの?」


「いや、それは違うよ。僕は別にその賢人に会う気は全くないよ」


「……言ってることが矛盾してるわよ」


「会うという選択があったというだけ、僕の本当の目的はその賢人をこの騒動に巻き込むこと。もっと言うと、局長と彼を会わせることなんだよ」


 彼、というのが賢人のことであるのは理解が出来た。だが、その文脈の意味はファリナには理解しがたいものだった。


「もしかして……あなたはデュークが口出しすると読んでいたの?」


「読んでいたというよりはむしろ分かっていた、だね」


「どうして?」


「それは彼が僕のことを過大評価しているからだよ」


「……は?」


 真面目な話をしている最中に、突拍子も無いことを言われ唖然としてしまう。


「いやいや、別に冗談とかではなく本当のことだよ。だから彼は僕に重苦しく何の権力も持たない肩書きを与え、仕事もさせずに四六時中監視して、自由を奪っているんだよ」


「え、四六時中……監視?」


「そうだよ、多分今この会話も聞かれてるんじゃないかな?錬金術に関しては僕は良く分からないから何とも言えないけれどね。まぁ僕はこれ以上立場が悪くなりようもないから好き勝手やってるけど。ハハハ」


 優雅に紅茶を嗜んでいるライカの精神が信じられなくなってきた。


「それで話を戻すけど、彼は僕を過大評価していて少しの自由も許すつもりも無い。ちょっと目を放した隙に何かあくどい事をされるとでも思っているのかもね。だからこそ、彼は僕が魔の森に行くのに反対したんだよ。自分が行った方が良いという口実を作ってね」


「えっと、つまりあなたを魔の森に行かせると、その賢人と何か企てるんじゃないかと思ったってこと?」


「そういうことだね。それに今の局長が最も歓迎できないのが、局長以外の錬金術師の存在だ。錬金術によって地位を確立した彼にとって、それに対抗できる他の錬金術師は敵に回したくないのが本音だと思うよ」


「でもデューク本人が魔の森に行くことにも危険があるはずよ。だってその賢人とあなたが既に共謀していた場合、彼は罠の中に飛び込むのと同じなのよ?」


「それも当然考えただろうね。でも僕が監視の目を盗んで共謀が成立していたとしても、やっぱり僕を行かせるわけにはいかない。表立って会合の機会を与えても良い事は無いからね。どちらにしろ、さっきも言ったとおり局長にとって賢人は目の上のたんこぶになった。だからこそ、危険を冒してもその眼で確かめなくちゃいけなくなったんだよ」


 軽快に語るライカに、ファリナは改めてその聡明さに気付かされた。あの一瞬でそこまでの思考を巡らせていたとは夢にも思っていなかった。たった数分の間、僅かな言葉でライカはデュークの行動を制限したのだ。


「なら今回はあなたの読み勝ちといったところかしら」


 デュークはライカの予想通りに動いた。あのむかつく男が掌の上で転がっていることを想像すると、やけにすっきりする。


「いやいや、そうじゃないよ。だって局長も当然僕の意図には気付いているだろうしね」


「え、デュークは気付いていたの?」


「僕自身彼を過大評価しているし、常にこちらの考えを読まれていると思って行動しているよ。僕の挑戦を局長が受けたって感じかな。それに、実を言うとここから先の展開は僕にもちょっと予想ができない感じなんだよ」


「どういうこと?」


「簡単に言うと、こうなってくれたらいいなっていう願望はあるけど、彼が局長をどう招き入れるか見当もつかないんだ。だからここから先、僕は外から見守るだけ。お茶でも読んで故郷のクラウン領にいる恋人に手紙でも書いてるよ」


 机の上の手紙を軽く指でつつき、ライカはいつも通りの厭らしい笑みを浮かべた。


 最後の最後で他人任せのやり方に不安な気分になったが、それでもファリナはあのライカが表立って動きを見せてくれたことに少なからず自分が嬉しくなっていることに気付いた。


 これが、ライカが言った帝国を浄化する術なのだと確信した。


 尤も、最後の言葉は余計だと思ったが。


「さて、ロキシート。君が局長をどう見るか、全てはそこにかかってるよ」

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