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黄昏のアルケミスト  作者: ハルサメ
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第11話

「錬金術とは魔力を使わないで、魔術を行使しようと考えて編み出された学問の一つだよ」


 実演しよう、そう言ってロキシートはエリーに何かを指示した後、クラティナと共に庭に出た。小屋は森の中で少々開けた場所に立っており、森との間に少しばかり距離が存在した。庭という、いくらか広い空間に案内されたクラティナは黙ってロキシートの挙動を見つめていた。


 そんな視線にいやな顔を少しもすることもなく、ロキシートは地面に何かを描き始めた。幾何学的な丸い紋様に、文字のような記号がその円の内側を一周するように書かれている。クラティナには何がなんだか理解ができない。


 するとエリーが何かを抱えて小屋から姿を現した。ロキシートはエリーが持ってきたものを受け取り、その紋様の上に次々と置き始める。いくつかの石ころ大の鉱物を置き、その上に液体を目分量で垂らす。


 そこでロキシートは少し離れるようにクラティナに指示を出した。そしてクラティナが十分離れたのを確認すると、仕上げとばかりに光る宝石のようなものを紋様の中心に投下する。それが地面に接した瞬間、一気に紋様が輝き始め、その場が光に包まれた。


「これ……は?」


 光が収まった後、目を開けたクラティナは思わず驚きの声を漏らす。先ほど紋様が描かれていた場所、そこには置いたはずの鉱物などとは別に、掌大の箱が置かれていた。硬そうな光沢を持った四角い物体、それが突然出現した。


 ロキシートはその箱を拾い上げ、クラティナに差し出す。それは一辺が薄くなっているマッチ箱のような形状で、非常に堅い金属で覆われていた。しかし何か開ける取っ手のようなものは付属していない。本当にただの四角い物体だ。


「これが錬金術で作り出した魔術の元だよ。ためしにそこに叩きつけてみて。あぁ一応気をつけるようにね」


 5メートル先の地面を指差したロキシートに、何も考えず指示された場所より近い場所に軽く叩きつけるように投げる。


 途端、クラティナの視界に閃光が、聴覚に爆音が飛び込んでくる。驚いたクラティナは反射的にその場を飛び退った。光や音の規模はそこまで大きくはなかったが、突然のことだったので心臓が激しく脈打った。何が起こった、爆発か、と思考が混乱するが、発信源であるところには先ほど投げた四角い物体が転がっているだけだった。


「忠告したんだからもう少し慎重に扱ってくれない?」


 呆れた口調のロキシートだが、それどころではなかった。


「なんなんだあれは!?」


「あれは錬金術の調合で作ったもので、閃光弾って名前さ」


「閃光弾?」


「その名の通り閃光や、爆発音を発して目くらましをする道具だよ。殺傷能力はまったく無いけど、君みたいに感覚が鋭い人には効果覿面。今のは規模が小さく設定したけど、本当なら眩暈や耳鳴りとかのパニック症状を引き起こすんだ」


 確かにクラティナの視界にはまだ光の残像が残っていた。これで威力が抑えられていたと言うのなら、対象者の動きを阻害するには十分な代物だ。


「だがそれをあの四角いのが引き起こしたというのか?にわかには信じられんぞ」


「そういったものを調合するのが錬金術って学問なんだよ。閃光弾の調合工程に関しては現代科学より魔法の理論が重要になるんだけど、構成要素は現代科学でも実現可能だよ」


「言っている意味が良く分からんぞ」


「あの物質を作り出すのに必要な物は洸石百グラム、液化燃料五十ミリリットル、火薬四グラムに水百ミリリットルに、音石五十グラム。揃えるだけなら子供でも出来る。でもいざ作るとなるとそれらをただ組み合わせるだけでは絶対にできない。さっき僕が地面に何か描いていたのを覚えてる?」


「よく分からん紋様と文字だったな」


「あれは調合品の属性と性質を記したいわゆる設計図みたいなものなんだ。その上に調合の材料を乗せて、最後に中心を刺激してあげると調合開始。この練成法は魔法にも通じるところがあって、錬金術は地面に書いた練成陣と具体的な物質資源、この魔法と科学の組み合わせで成り立っているんだよ」


 教師が生徒に教えるような口調だったためか、詳しくは理解しないまでも概要は掴む事はできた。魔法使いではないから、魔法が使えない。だからといって既存の科学技術では説明できない現象を引き起こす。それが錬金術だ。


「やはりまだ信じられないことではあるが、こうして実演されたのならば、認めざるを得ない現象ではあるな」


 率直な感想だった。信じられないことが目の前で起きているが、目の前で起きている以上信じるに値するものではあると結論付ける。


「だろうね。錬金術の基本はこの世界の理を飛び越えることだ。だから常識外れが常識。常識を破壊する学問だ。さて、ここまで説明したけれど、どうだろう?」


 そこまでにこやかに笑っていたロキシートが急に言葉の途中で声のトーンを僅かに下げた。その微細な変化をクラティナの感覚は見逃さなかった。


「どう、とは何だ?」


「ファフニールが滅亡した要因である錬金術を、ファフニールの人間である君はどう考えるのかってこと」


「……気付いていたのか?」


 クラティナは自然と身構えた。身構えざるを得なかった。


「ランベルク家と言えばファフニール建国三傑の一つだ。それに君が着ていた服、とてもじゃないが一般人では手が出ない高級な生地で編まれていた。それにブーツの内部にはランベルクの家紋が彫られている。加えてランベルク家は代々赤茶色の髪だったと記憶しているし、総合的な観点から見て、君はランベルク家の息女じゃないのかな」


「慧眼だな」


「いやいやブーツに家紋がなければ気付かなかったよ。それに君が本名を名乗ったことは逆に深読みしてしまったほどだし、ご令嬢である君が敬語を嫌がったから間違いかなと思ってしまったよ」


 ロキシートの言うとおり、クラティナはファフニール建国三傑の一つと呼ばれるランベルク家の人間だった。共和国であるファフニールだが、それでも政治家という職業は存在し、ランベルク家はファフニール建国の立役者として、他の三傑の家と共に建国から今までの歴史を支えてきた。


 しかし帝国の侵略に敗北したことによってその三傑は極刑を課せられることになった。反逆の象徴としてファフニールの民が反乱を起こさないように、帝国は三傑の血を絶やそうとしたのだ。


 その粛清からクラティナは命からがら逃げ出した。父や母、それにランベルクに仕える者全員がクラティナを逃がすために犠牲となった。そこからクラティナは何とか生き延びた。

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