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黄昏のアルケミスト  作者: ハルサメ
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第1話

読んでくださりありがとうございます。群像劇として、何人かの人物にスポットライトを当てながら書きました。よろしく願いします。

リア王国の王都であるキスカには王族が逃げるための秘密の地下道が存在している。大陸が戦争の真っ只中であった百年前の名残なのだが、実のところその存在は現在の王族関係者の中でも数えられるほどしか知らない。それはリア王国がいわば戦勝国であり、実際に使われた記録が存在しなかったためだ。


 王城から国中の地下に張り巡らされている地下道はそのような経歴から、建造されて以降一切人の手が加えられておらず、ここぞとばかりに繁殖した菌やコケが地面や壁に付着しておりとても衛生的であるとは言えない。


 しかし半月を寝かせた形の地下道は百年の歳月が経ってもなお朽ち果てる気配は無い。元々リア王国は小国ながら大陸一の鉱山、クロニエル鉱山を有し大量の資源に恵まれていた。そのクロニエル鉱山から取れる鉱物資源は普通の鉱山にはない、特殊なものが多くその扱いは非常に困難を極めていた。


 だからこそクロニエル鉱山から取れる鉱物は、リア王国の伝統的な加工技術でしか扱うことは出来なかった。そしてリア王国はその加工技術を公に広めることは無く、逆にそれを自国を守る切り札として提示した。


 故に小国でありながらリア王国は数多の国から襲撃を受けることは無く、その資源は広く扱われ、死の武器商国と揶揄されることもあった。事実リア王国はどのような結果であろうとも戦勝国側に属する権利を有していた。


 地下道は百年前の技術とは考えられないほどの頑丈な作りとなっており、戦時中のリア王国の技術の高さを思わせるには十分だった。


 そんな地下道をレイト・マクスブルクはボロ切れのようなマントを羽織り、颯爽と駆け抜けていた。背丈は小さく十歳前後、本当にまだ子供のレイトは息を荒くしながら地下道を駆ける。


 地面を蹴る度に目の前の地面から僅かな光源が生まれる。クロニエル鉱山から取れる洸石という特殊な石だ。洸石は振動を与えることで幻想的なライムグリーンの光を発するため、暗闇を照らすための明かりとして使われることが多い。


 加工すれば常時光を発し続ける道具になるが、この地下道にある原石は振動を受けた数秒間しか発光しない。そのためレイトが進むのと平行して地下道の光も移動している。


 駆けていたレイトはやがて世話しなく動かしていた足の勢いを緩めた。地面を伝わる振動が弱くなり、レイトを照らしていた洸石の光も弱まっていく。


足を止め荒い息を整えながら自分が進んできた方向、王城の方を見る。しかし視界に広がるのは永遠を思わせる闇。濃くなった暗闇は洸石の光が無ければ自分の手も見れないほどになった。


 レイトはそのまま倒れるように壁に背中を預け、座り込んだ。


「ここまで来れば、大丈夫かな」


 まだ声変わりもしていない幼い声で呟く。


「えっと左から来たんだから、右に進めばいいんだよね。ハハッ、真っ暗だからわけわかんなくなっちゃうよ」


 しかしこの口調と態度は同年の少年とは比べ、しっかりとしていた。大人びていると言ってもいい。暗闇でたった一人という状況にも関わらず、レイトは冷静すぎた。


「今頃城では僕がいなくなったことに気が付いてるのかな」


 状況に似合わず、独り言はとてもあっさりとしたものだった。そしてうずくまる様に膝を抱えた。


 分かっていた。例え自分がいなくなったとしても、何も悪いことなど無いと。逆に自分が存在するだけで、周囲の人々に不幸を振りまいてしまうことを。


 故に城を飛び出した。自分はここにいてはならない。そう理解していた。


 生まれた瞬間から不幸の呪いをその身に受けた。本来ならばその時に殺されなければならない運命を背負っていた。逆に十歳になるまで生かされたことに感謝しなければならないのだ。


 自分を生かしてくれた人々に不幸を招かないために、自分はここを去るしかない。まだ十歳になったばかりであるが、そう感じていた。


 その時レイトは自分の頬に何かが伝ったのを感じた。拭うと指先にひんやりとした液体が付着した。視界がまったく無い状況で気付かなかったが、涙を流していた。思わず地面を殴りつけてしまう自分に驚いた。ライムグリーンの淡い光は一瞬だけ体を明るく照らす。


 やはりまだ城に未練がある。例え殺されることが確定した運命だとしても、十年を過ごした城を捨て、たった一人で生きて行かなければならない恐怖はレイトの身を震わせた。


 しばらく沈黙した後、ゆっくりと腰を上げる。これ以上ここに留まっていると、心が流され今にも城に向かって走ってしまいそうだった。


「レイナ、後は任せたよ」


 そして暗闇の向こうを見ながら、最愛にしてレイトが城を出なければならない一端を背負っている妹の名を呟く。


「そしてさよならリア王国」


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