第十五話 来訪者は傲慢不遜
「あ、天ヶ原……?」
まだ帰宅して間もないというのに、唐突に訪れた天ヶ原。
しかもその背後にはむやみとがたいのいい男が二人、控えている。
「いいから突っ立ってないで入れてよ。時間無いのはあんただって分かってるでしょ?」
苛立ちを隠そうともしない天ヶ原。
いや、確かに夜ヨゾラの配信があるのは知ってるけども。
この状況に対応できない俺は悪くないと思う。
「はぁ……、すみませんが、勝手にやっちゃって大丈夫ですので」
驚き固まる俺を横目に天ヶ原は後ろの二人を伴ってずんずんと家の中に入っていく。
もはや強盗か何かだ。
先頭を歩いているのが美少女じゃなかったら速攻でドア閉めて警察呼んでるよほんと。
「ちょ、ちょっと! 一体どういう事だよこれ」
それはさておき。
近々住む予定の天ヶ原はともかく、ごつい男二人を家に招く趣味はない。
俺はずんずん進んで行く三人の前に体をねじ込み躍り出る。
「時間無いって言ってるのに……工事よ、工事。分かったらどいて」
「は? 工事? いったい何の? ていうかそんなの俺に断りもなく――」
「別に、あんたにとっても悪い話じゃないわ。ヨゾラの為よ。こっちに引っ越したらすぐに活動できるように回線を新調してるの。あんただって速い回線の方が何かと便利でしょ? 安心して、工事費も通信費もあたし持ちだから」
天ヶ原はそう言うとずんずんとリビングの方へ進んで行く。
俺の家と天ヶ原の家は同じ団地の建売住宅だから、構造は殆ど変わらない。
故に行動に迷いがないのもうなずける。かくいう俺も昨日彼女の家に御呼ばれしたときはそこまで他人の家という感じがしなかった。
まあ、それにしたって豪胆な態度だとは思うが。
「何というか、想像通りの惨状ね……」
リビングは俺の脱ぎ散らかした服や読みかけの本やらが散乱し、とてもじゃないが人を呼べる状態ではなかった。
「男の一人暮らしなんてこんなもんだよ、昨日の今日で片付ける時間もなかったしな」
しかし、昨日ヨゾラの祭壇まで見られてしまっている俺からするとこの程度恥ずかしくもなんともない。
というか許可もなく入ったのは天ヶ原なのだ。文句を言われる筋合いはないはずだ。
「まあいいわ。私が引っ越してくるまでにはちゃんとしといてよね。共有スペースなんだし」
どかっとソファーに座り込み、適当に辺りを見回し彼女は言う。
「……ああ」
勝手に転がり込んで来る癖に態度がでかい。
そう釈然としないものを感じつつも、俺は一応了承した。
やはり、俺自身負い目があるのだろう。
どれだけ望んでも手に入るはずがないヨゾラの『トクベツ』。
偶然だけでそれが手に入った僥倖に比べれば、横柄な態度の女の子が一人住み着く程度安いものだ、と。
回線工事は三十分程度で終わった。
元々外でするべき作業は終わらせていた為、それほど時間がかからなかったらしい。
ていうかほんと家主に許可なく外の工事進めるってどういうことなの。
「さて、無事に見届けた事だしあたしは早く帰って配信の準備しないと」
来るも帰るも突然。まるで夕立のようにこちらの都合などお構いなく天ヶ原は動く。
「そうそう、今日の配信は絶対見てよね。凄い発表あるから」
帰り際。玄関で得意げに笑い去って行く天ヶ原の背を見送る。
――しかしその時、彼女のスマホから一件の通知が鳴り響いた。
それは平穏の終わりを告げるかのように、軒先に嫌に大きく響く。
「嘘、やば……」
画面を見た途端、天ヶ原は固まった。
何か操作をする訳でもなく、ただそのまま微動だにしない。
「お、おい、一体どうしたんだ?」
流石に心配になり声を掛けると、天ヶ原がゆっくりとこちらを振り返った。
「ど、どうしよう。かなりまずいことになっちゃった」
その表情は酷く青ざめていて、聞きなれた大好きな声はか細く震えていた。
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