第十四話 終戦、その後。
「と、いうわけで、男子の文化祭実行委員は望月に決定な。おめでとう、今度一緒に競馬行こうな」
唐突に始まった天ヶ原争奪くじ引き大会。運が良いのか悪いのか、俺はその勝者となった。
……いや間違いなく運悪いだろどうなってんだよ。俺立候補すらしてなかったんだが。ていうか高校生競馬に誘ってんじゃねえよやくざ教師。
「ほれ、そんじゃ二人とも委員就任の挨拶」
ニヤニヤした笑みを浮かべた教師に急かされる俺たち。
今まで挨拶なんてさせてなかったってのに、完全に面白がってやがる。
「ったく、いい迷惑だよな。てかおい、天ヶ原も多少の講義くらいしても――」
ため息をつきつつ、俺は壇上に着くなり天ヶ原に声をかけた。かけてしまった。
「……《《はじめまして》》、だよね? 望月クン?」
浮かべられた柔和な笑みとは裏腹に感じる圧。
……やばい。担任のせいで他人だって念押しされたのを完全に忘れてた。
「え、えーっと、初めまして、天ヶ原サン」
少々ぎこちなく、慌てて初見を装う。
それがデレデレしているようにでも見えたのだろう。男子どもからの殺意が一層濃くなったのを感じた。
***
さて、挨拶自体は元々必要ないという事もあって一言だけで終わった。
しかし、本当の問題はその後だった。
係決めが終わり、俺たちのクラスが教科書をもらいに行く順番になって――
「康太、教科書取りに――」
「……」
昼休み、学食に行こうとして――
「康太、昼持ってきてないなら学食で――」
「……」
どう声を掛けても康太が応じない。代わりに他の男子と合流し、途端に俺の方に強烈な殺意が向く。
結局その日一日康太は口を聞いてくれなかった。
というか男子全員口を聞いてくれなかった。けど男子の仲はめっちゃ深まってた。解せん。
いくら元々関わる気がなかったとはいえ、くじ引き一つで学校生活が破滅するのはきつい。
鬱々とした気分で荷物をまとめ、一人寂しく帰路に就く。
朝は目を疑うほど鮮やかだった景色は鳴りを潜めて、すっかり白く曇った空の下、世界は息苦しく重くなっている。
歩きなれた通学路なのに、深い樹海の中にいるかのような錯覚がした。
こういう時はヨゾラに癒してもらうに限る。
どれだけ現実が辛くとも、仮想を生きるヨゾラを見ていれば全てを忘れられる。
昨日の分の切り抜きを作っていなかったし、まずはそこからだな。何とか今日の配信が始まるまでに間に合わせないと。
帰り道はそんな事ばかり考えて、帰宅するなり気合を入れて、パソコンの前に座ったのだが、
ピンポーン……
不意に、チャイムが間抜けな音を鳴らす。
なんだよ、人がやる気になってるときに……
「はいはい、どちら様ですかね」
不機嫌さを紛らわすかのように少し乱暴に玄関のドアを開けると、そこには――、
「悪いけどあんまり時間ないの。入れてくれる?」
俺を落ち込ませる原因を作り、俺をやる気にさせた奇異な存在、天ヶ原乙羽が毅然とした表情で立っていた。
……背後にガタイのいい大人の男を二人引き連れて。