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第十一話 告白の結果

しばらくして、パパさんが重い口を開いた。


「望月君」


「はい。なんでしょうか、パパさん」


「君にパパさんと呼ばれる筋合いは……まだない。私のことは啓介さんと呼びなさい」


「失礼しました。啓介さん」


 見た目の割に名前は純日本人なのか。意外だな。


「君たちが互いを想う気持ちは、さっきから何度も確認させてもらっている。……だからしつこいかもしれないが、これだけは聞かせて欲しい。君は、娘を――乙羽をどう思っている? 知っていると思うが、不特定多数に愛想を振りまく、あまり人様に言えないような仕事もしている娘だ。君の本心を、聞かせて欲しい」


 ――この答えに、全てが懸かっている。


 俺は直感でそれを理解した。

 何故かは分からないが、急に風向きが変わった。パパさんは天ヶ原がうちに住むことに対して前向きな姿勢を示している。


 ――ここさえ間違えなければ、全てうまくいく。


 しかし難しい。パパさんは配信のことにまで触れてきた。今までのように上辺だけの回答では突破できないだろう。パパさんの目は真っすぐ俺に向けられている。天ヶ原の援護にも期待は出来ないだろう。

 で、あるならば……、


「表面上は優秀に見えるけど、実は裏で必死に努力していて、欠点をどうにかして補っている。乙羽さんは、そんな誰よりも一生懸命な尊敬できる女の子です。

 もちろん、仕事のことも理解しています。啓介さんはどこか悪いことをしているかのように言いましたが、別に、彼女は愛想を振りまいているわけではありませんよ。人数が多いからそう見えるかもしれないですが、彼女の目には笑顔を届けたい人たちがしっかりと見えています。その一人一人を心から大切に思っています。そして、彼女のそういう部分に多くの人が惹かれている。日々元気をもらって、救われている。……俺は、そういうの全部ひっくるめて乙羽さんが好きなんです」


 俺が心の奥詰まった、ヨゾラへの想い。この告白に、その全部を込めた。

 想いが強すぎて、途中から啓介さんの説得は二の次になってしまっていた。それよりもただ、隣に座る現実のヨゾラに俺の気持ちを知って欲しかった。


(ほんとうに、星の子失格だな……)


 俺だけヨゾラと話す機会が得られて、想いを伝えられて、ファンとして一線を守っている他の星の子たちに申し訳が立たない。

 けど、仕方ないじゃないか。ただひたすらに、俺が世界の誰よりもヨゾラが好きだと声高に叫びたくなってしまったのだから。

 そして、告白の結果は……、


「そう、そうなんだよ! いや、分かってるじゃないか望月君! この子は昔から負けず嫌いでね。私たちがそんなに自分を追い込まなくてもいいと言っても、一度決めた目標は絶対に無理をして貫き通すんだ。尤もそんな姿もまた愛おしいんだけどね」


 これまでの極道親分もかくやといった厳格な雰囲気はどこへやら。そこにいたのは、ただ娘を溺愛する一人の父親だった。

 それから、どこまでも果てしなく、啓介さんは天ヶ原のいいところを語り続けた。

 その中の大半は普段のヨゾラにも通じていて、俺もつい嬉しくなって話に乗っかり、二人して興奮気味にトークに花を咲かせた。

 ……それが天ヶ原本人の前であると思い出したのは、話を始めてか二十分以上経った後だった。


「もう、いいでしょ。お願いだから、やめて……」


 恥ずかしさで死にそうになりながら、天ヶ原が俺と啓介さんの間に割って入る。


「すまないな乙羽。つい楽しくて、話し込んでしまった。……しかし、これで確信できた。望月君になら、乙羽を安心して任せられそうだ」


「えっ、じゃあ!」


「ああ。彼と一緒に住むのなら、日本に残ってもいい。……ただし、お付き合いは高校生として逸脱しない範囲にしなさい。望月君、信用するからね?」


 最後の最後、啓介さんは再び殺意をその身に宿し俺を見据える。

 しかし、それが杞憂であると、啓介さんは知らないのだ。だって、俺たちは恋人なんかじゃない。互いに利害の一致した契約関係なのだ。だから、


「もちろんです。一切間違いは起こさないと、断言します」


 俺は満面の笑顔でそう言ってのけた。


 それからしばらく、俺たちは和やかな雰囲気で夕食を楽しんだ。

 すっかり冷めてしまっていたので、一度温め直して。

 そして、食事も終わり、時間も遅く、帰り際。


「望月君。君も色々大変だろう。日本にいる間は、よかったらまた遊びに来てくれ。もっと、君の話も聞きたいからね」


「ありがとうございます。ご近所ですし、いいお付き合いをさせてください」


 俺は心からの笑顔で礼を述べ、啓介さんとがっちりと握手を交わす。 

 なんだか、心がぽかぽかと暖かい。

 そういえば、家庭の暖かさに触れるのはどのくらいぶりだろうか。

 けど、俺と天ヶ原はあくまで仮初めの恋人。利害の関係。だからこそ、はっきりと来訪を約束できないことに、胸が痛む。


「それじゃ、あたしもちょっと出てくる」


「ああ。望月君をしっかり見送ってきなさい」


 そして俺たちは連れ立って、暖かな天ヶ原家を後にした。


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