ストレイドアの夜
「お、おい・・・ストレイドアの夜が、やってくるんだとよ・・・」
「えぇっ!?ス、ストレイドアの夜が・・・!?」
「な、なにー!?それは大変だ!ガルソルドのみんなに知らせないと!」
「な、なんだって!?お、俺は・・・どうすればいいんだ!」
「ええ!?ストレイドアの夜が!やったわ!こんなに素敵なことはないわ!」
わいわいがやがや・・・
ストレイドアの夜がやってくることを聞いたバルスティア村の人々は、一様に驚いている。
ある者は呆然とし、ある者はストレイドアの夜がやってくることを他の者に伝えるために地を駆ける。
ある者は戦慄して地に膝を付け、ある者は喜びに身を震わす。
ストレイドアの夜・・・それは世界の神秘。
幾億の年月が流れても解明できない謎の現象。
世界の始まり、神話の時代から続く伝説。
ある者はそれを口にするのも恐ろしいような恐怖の象徴だと語り、ある者はそれをこの世では経験できないような天上の楽園だと口にする。
ある者はそれを化け物が見せる幻だと言い張り、ある者はそれを創造主である神が与えた試練だと主張する。
そして、ある者は・・・信じられないことだが、ストレイドアの夜を知らなかった。
「なぁなぁ、ストレイドアの夜ってなんだよ?」
パンチョは村の皆が話し合っている”ストレイドアの夜”というものが何かわからなかった。
だから、偶然道で話をしていた近所の住人を見つけて、これ幸いと話かけたのだった。
「なに!?お前はそんなことも知らないのか!」
「えぇ!?あなたはストレイドアの夜を経験したことがないの?」
話しかけられた住人・木こりのゴルドーラと裁縫職人のアルステイディアは、驚きの声を上げた。
彼らにとって、ストレイドアの夜を知らないと言う、目の前の男・パンチョの存在は信じられないものだった。
なぜなら、彼らの周りの人間で、ストレイドアの夜を知らないものは誰一人としていなかったからだ。
ボンデルス爺さんだって知っているし、グランハム婆さんも知っている。
ドンドラノおじさんだって、ヴァンダサンティアおばさんだって知ってる。
もちろん、ブリュワーノ先生、アンダラベンツ神父だって知ってる。
あの幼いボンチッチやクロスソイルド、ヴェリルハマンザだって知っているのだ。
なぜ、この男は知らないのか、と2人は思った。
「ああ、知らねぇよ。そんなの俺が前に住んでた町では聞いたことないぜ」
「なんだって!?君が以前住んでいた町ではストレイドアの夜を誰一人知らないというのか!?信じられない・・・」
「ええ、あれほどのことを皆が知らないなんて、本当になんて言ったらいいのかわからないけど、信じられないことよ・・・」
なんと、パンチョが以前住んでいた町ではストレイドアの夜は誰一人知らないのだという。
目の前の男・パンチョが嘘をついているのではないかと一瞬思ったが、彼はそんな人間ではない。
素直で、純朴な好青年だ。とても嘘を付けるような人間ではない。
確か、彼が以前に住んでいた町はヴァルダイス山脈を越えたグストース地方の南端。
ベルゴンスが盛んで有名なゲリダンバッチのいるバルバババ町だったはずだ。
あそこからはデンデルデルデル商会の商人達も行商でよくこの村に立ち寄るのだ。
まさか、彼らも知らないとでもいうのだろうか・・・?
そのように考えた2人は、頭が真っ白になりそうな状況だ。
「そ、そんなことがあっていいのか・・・」
「ええ、これはとんでもないことよ・・・」
「なぁなぁ、結局、ストレイドアの夜ってなんなんだよ?」
まったく答えが返ってこないことに少々苛立ったパンチョは再度同じことを2人に尋ねた。
「ああ、ストレイドアの夜ってのはな・・・とんでもなく、恐ろしいものなんだよ・・・」
「なにを言ってるのよ。ストレイドアの夜は、この世のものとは思えないほど素晴らしいことなのよ!」
2人とも真逆のことを言っている。
「なんだと!お前頭おかしいんじゃないのか!素晴らしいことな訳ないだろ!」
「あなたこそどうかしてるわよ!?あんなに素晴らしいことを恐ろしいことだなんて・・・神様の罰があたるわよ!」
ついには言い争いを始めてしまう2人。
「なんだとバカ女!」
「なによこの、クソボケ男!」
「まぁまぁ、そう言い争うなよ。はぁ、結局ストレイドアの夜がなんなのか、ちっともわからないぜ・・・」
知らないことを聞いただけなのに、なぜこの2人は喧嘩し始めるのだろう。
そして、なぜ自分は仲裁をしないといけないのだろう。
そんなことを思っていた時だった。
「あ!あああああ・・・・ス、ストレイドアの夜が・・・やってきちまった・・・」
「まぁ!ストレイドアの夜よ!ストレイドアの夜がやってきたわ!」
2人は自分の後ろの方向を指差し、口々にそう言った。
パンチョは後ろを振り返った。
「!!!! こ、これが・・・ストレイドアの夜・・・・!」
ストレイドアの夜が、やってきた。
私のところにはまだ来てません。