4.阿久乃城奪回作戦
阿久乃城とは、野上マリン殿のお父上、つまり先代の魔王が築城したお城でございます。モダンな言い方をすれば、魔王城というところでしょうか。
要害堅固にて、天下第一を誇っておりましたが、かの信玄公も人は石垣と申しましたように、最も信を置いていた重臣の箕田ウルスに裏切られてはひとたまりもなく、落城いたしました。
現在は、魔王討伐の行賞として、野上マリン殿の仇である勇者、徳山ヨシキの居城となっております。
空太郎、この現状をマリンから聞き。「ああ、それはよいことを聞いた。阿久乃城に乗り込んで、勇者の首をはねれば、仇も討てるし、旧領回復にもなる。これは一石二鳥。まさに勇士と智者のなせる業よ」と、大威張り。
ためらうマリンの手を引いて、魔王城の方角へ、ズンズンと進んでいきます。
そのうち、日も暮れまして、森の中で手頃な場所を見つけた二人は、今夜はここで野営をすることにいたしました。
「ねえ、なにも直線距離でアクノ城に向かわないでもいいじゃない。この森は、これ以上深い場所では恐ろしいモンスターが出るのよ」
空太郎は、森を横断するつもりでしたが、マリンは、森を迂回して安全な街道を通って進むルートを提案します。
「バカッ、一人の男児が、ケモノごときを恐れて、その行く道を変えられるか。断じて行えば鬼神もこれを避く!」
マリンは、短い付き合いですが、こうなった空太郎を説得するのは、大海に真水を注ぐごとき行為なので、諦めます。
せめて、自分の身を守ろうと、マチェットを腰に差して、弓矢を枕元に置きます。いつ魔物に襲われても構わないようにです。
「それにしても腹が減った。ぐうぐう、と腹時計も鐘を鳴らしている。そろそろ食事にするか」
「はい、今日の夕食よ。少ないかもしれないけど、我慢してね」
マリンが、ドライフルーツや干し肉を空太郎に渡すと、空太郎は不満顔です。
「そんな乾物ばかりで、俺の胃の臓腑が満足すると思うか。途中で捉えたケモノの肉があろう。それで鍋をするぞ」
「それは止めてよ。モンスターの巣窟である森で、そんな料理をすれば、匂いにつられてモンスターが集まってくるわ」
「結構だ。食材が自ら雁首ならべてやってくる。かもねぎとは、昔の人も良い言葉を残したものだ」
マリンの制止にも関わらず、空太郎は薪を拾い集めると、器用にかまどをつくり、乾燥した葉っぱも、どしどし放り込んで、強火で鍋を煮ます。
ぐつぐつと沸き立つ鍋に、マリンからもらった乾燥野菜や、食べられそうな野草を入れます。
灰汁を取ると、今度は、今日仕留めた魔物の肉を入れます。
牛でも豚でも、鳥でも無いが、食べられるだろうかと、空太郎はふと、不安に思いますが、肉は肉だと思い直して、これもまた豪気にまるまる一頭分の肉を放り込みました。
あたりには、良い匂いが、ぷううんと充満いたします。
そろそろ良い頃合いだと、空太郎が鍋を食べていると、羽のついたトカゲが一匹、二匹、三匹。
「ひっ、わっワイバーン!Aランクの危険モンスターよっ!魔王軍の強者でも、一人では倒せない。それが3匹も、死んだわ、私」
マリンは、鍋を食いすぎて眠くなったのか、ばたりと横になりました。
一方の、空太郎は目を輝かせています。
「まいった。寝ちまったか。マリンにこのトカゲがうまいかどうか、どんな料理方がうまいのか聞きそびれちまったなあ。でも、鳥が食べられるのだから、同じように空を飛んでいるトカゲたちも食べられるだろ」
空太郎は、小石を拾うと、ひゅっと投げます。
怪力の空太郎が投げた石ですから、そこらの火縄の数十倍の威力はあります。
まず1匹、脳天を貫かれて、地面にどさり。
えい、もう1匹。
それ、最後だ。
最後の1匹に関しては、殺されてなるものかと、ジグザグ飛行で逃げましたが、空太郎は、幼い頃に通信教育でホーミング投術の勉強をしていたものですから、投げた小石はトカゲを追尾して、見事、3匹撃墜の戦果と相成りました。
空太郎が、トカゲ鍋に舌鼓を打っていますと、草陰がゴソゴソと動いています。
「また、ケモノが鍋の匂いに引かれてやって来た。どれどれ、こんどは牛が良い」
ところが姿を現したのは、空太郎の倍の背丈はある三つ首の大イヌです。
空太郎の身長は180サンチはありますから、三つ首の大イヌは、3米半はあります。二階から見下ろされているやうな気分です。
「こりゃ参った。イヌは食えんぞ。なんてったて、俺は小さい時分にイヌを飼っていたからな」
記憶にあるかつての愛犬は空太郎の膝に届くか届かまいかの大きさでしたが、異世界のイヌは、品種改良が進んでいるのか、それとも随分と良いものを食べているのか、えらく肥えています。
「口からよだれを垂らして。腹が減っているのか。ほら、食え」
空太郎が、三つのトカゲの死骸のうち一つを、尻尾をつかんでポイと投げ、イヌにやる。
「くうーん」
イヌは尻尾を盛大に振り散らして、トカゲにかぶりついた。
「オオっ、やっぱり、先刻までの俺と同じで腹をすかせていたか。よし食え、よし食え」
三つの顔が、器用に動いて、みるみるうちにトカゲは、骨だけになります。
「その食いっぷり、気に入った。今日から、お前はみつ子だ。お前が良いなら、俺についてくるといい。後悔はさせん」
「わん!」
<ケロベロスが、空太郎の眷属になりました>
<ケロベロスは「みつ子」になります>
<デビルワイバーンを食したことにより、経験値48000が、ケロベロスに加算されました>
<ケロベロスのレベルが上限に達しました>
「頭に、機械音声が響きやがる。食いすぎて、頭に血が行き過ぎたか?もう寝るか」
空太郎は、みつ子を引く寄せる。みつ子を布団代わりにして、空太郎は、ガア、ガアといびきをかいて、眠った。
「うーん、私は助かった?生きてるわ!」
空太郎が夢の世界に旅立ったのと入れ替わって、マリンが目を覚ます。
「空太郎はどこ?もしかして、ワイバーンに……いや、彼は強いんだもの、そんなことはないわ」
マリンは空太郎の身が心配になり、周囲を見回す。
すると、そこには、空太郎がいた。いたけれど、腹にケロベロスが食いついているではないか。
「今度こそ、終わった……」
マリンは、また意識が遠くなる。