初めましての自由
2009年 7月
「何故、髪を勝手に切ったの。私に許可なく髪を切るなんて……」
母親は幼い私を檻に閉じ込めた。友達を家に呼ぶな、服を自由に着るな、勝手に一人で出かけるな。元々心配症の母が父親の浮気と家族関係が原因で余計に私を拘束するようになった。
だから私は何処にも行けないのだ。
ある日、見兼ねた祖母が私に切符と住所をくれた。「ばーちゃんこの人とお友達なんよ。ずーっと南の県の海の綺麗な街に住んでるって。サヨちゃんも気晴らしに行って来るんだ。」
勿論、母親は猛反対したが、祖母との嫁姑の仲も良くないためろくに話し合いもせずに半強制的に祖母が私を連れ出してくれた。
「サヨちゃん。ここからはサヨちゃんひとりだすけな。大丈夫か。」
「うん。」
私は元気に頷いて改札をくぐった。遠目だったが祖母の顔は悲しそうだった。
「ばーちゃんありがとう。」
私は祖母に元気になって欲しくて精一杯手を振った。でも、本当に嬉しかった。
車で一時間かけて新幹線の駅へ向かい、約三時間かけて東京へ向かう。
「すみません。この住所の所に行きたいんですけど。」
「あー、その場所はね。東海道新幹線に乗り換えて、新神戸駅っていう所で降りてバスに乗ったらこの町に着くよ。」
駅員さんは丁寧にメモを書いてくれた。
人の多さと目まぐるしく変わる景色を眺めながらあっという間に時間が過ぎた。
不思議な感覚だ。今日は初めてのことばかり経験しているのに、ちっとも怖くない。
新幹線の窓から私の身長の何倍も大きいビルが次々と入れ替わる様に目に映る。
私はこの時、心から自由だと幼いながらに感じた。