17,
『俺は嬢ちゃんの所に向かう。隊長は?』
「ここからだと間に合わない。飛んだ後は装甲車はポイントフォックスに置いてくれ。後で君たちを拾いに行く」
『了解』
過大な重力波が遠くで放たれた。エンジェルの駆動、おそらくはガルガリン級以上の大型が4機か。光点を見る限りだと積極的に動いているのは1機だけで、残りは警備位置をシフトしただけ。その単騎でおおよその犯罪者は鎮圧できるだろう。けちな犯罪者ひとりにするだけの事なのかはともかく、現実に起きていることだ。
巨大なコンピューターはクーラントを飲み込むのを緩めて、少し黙りかけた。ジルが出て行ってもプシュケーが残っている。壁の一部が裏返った拍子に何かの部品がこぼれ落ちてきた。どういう機能なのだろうか。
『どうするよ』
「とにかく上に戻る。さっさとしまえ、コワレフスカヤ」
『ええ……別に良いじゃないか、こういう機会ってのはなかなかないぜ』
『私もそう思いまーす。第一、逃げるだけならあちらの人だけで足りるんじゃないんですか』
「そういう話じゃない。切るぞ」
『あ!』
パソコンを閉じて、彼を無理やりに立たせた。セキスイを助けなければ不和が広がる。そうすればおおよそ、それを無視するよりも問題が増えてくる。これが最近自分がやっている方向に引っ張られているせいなのか、ふと頭をよぎった。判断をする事自体を求められているので、考えるだけ無駄な事だと思った。進むことだけしかない。
踵を返して地上へと急ぐ。屈んだり跳ねたりしてコンクリートを進んだ。エンジェルは停止状態になっていたために最短ルートを選ぶ事ができた。結構あれのさじ加減じゃないのか。6分と29秒を刻んで僕たちは鉛色のガラスの下に這い出た。サイレンの音が聞こえた。遠くで黒煙があがっている。僕は通信を繋ぐ。
「戦闘は避けてくれ。どうしようもないなら僕たちに押し付けろ」
『ありゃ別のやつだ。説明してる暇がねえ。ジルに聞いてくれ』
冷たい空を吸い込んでデーモンが飛んでいく。アフターバーナーが点きっぱなしの最高速状態だ。レーダー上の光点は忙しなく動き続けている。明らかにコロニーの警備よりも数が多い。彼以外にも戦っているものがいる。装甲車が停められている地点へと向かう途中で彼女に状況を聞いた。
「……ただ今戻りました。状況は芳しくないですね」
「どうなってる。レメディウムは……」
「単純に時系列順に纏めます。1,プロキシサーバーが傭兵部隊の攻撃余波によって破壊。2,セキスイ氏の作業が看破されて警備が駆けつけました。3,警備部隊が全滅。警戒度が上昇してエンジェルが対処に動きました」
『何がどうなってんだよ……』
『た、隊長!すみません、大丈夫ですか!?その、遅れて申し訳ないのですが警備の人たちが来て……その、撃ったら壁が剥がれて皆さん』
「死んだのか。それが保険会社の判断を早まらせたと。一体誰がやった」
『その、最初は私が……わかりません。すみません』
「装備からして企業の雇われです。参照は送りました。目的はサーバーデータの奪取、私たちと同じです」
「そりゃ他の企業も考えるか。人工筋肉抜きにしても有用な情報になる」
情報は誰もが欲しがっている。企業どうしの繋がりと比べたら、人工筋肉の故障はちょっとしたことに過ぎない。誰と誰が繋がっているかを知れたらどれだけ有利に動けるのか分かりもしないが、企業の水面下の行動に大きな影響を与えるのは間違いではないだろう。
そしてそれを手に入れたいなら資本主義らしいやり方に拘らずともいい。僕がわざわざ避けた手段は、最も簡単なものだった。デーモンの傭兵部隊たちも宇宙に出てから最も使われるようになったそれを遂行しているのだろう。
『じゃあ、さっさと逃げようぜ。データは1つだけってわけねえし、あいつらと戦う意味なんて無いだろ』
『……追いかけてきてるんだが』
『なんでですか!!ぎゃっ』
『口を閉じてろ」
僅かな間に戦闘音が聞こえて、消えた。セキスイのマイクだけが性能が悪く環境音を拾う。僕は遅れている1人を置いて、さらに足の回転数を上げる。身体が軋まないのは良いけど、なぜか急いでいる気がしない。
やがて路肩に停車した装甲車が目に入った。周りに人や車は居ない。やや鈍い破裂音が断続的に聞こえてくる。明らかな銃声が聞こえたから避難したのだろう。よくあることだ。
車体後部へと乗り込んで人工筋肉の鞘に自分を埋めた。ファフロッキーズの筋繊維が分たれてフライトユニットを背中に運ぶ。視界の外で一部の装甲が外されてケーブルが接続、燃料が供給された。スクランブルのために振動はひどかった。損傷の確認のためにまとわりつくのも相まって捕食されたようだ。
光点は4、現状の装備から変更することが出来るのはライフルだけ。相手の仮想敵はエンジェルだ。重武装に対抗はできない、追い払うことが出来ればいいが。
『ビルの中に居る。あいつらはエンジェルと戦ってる』
『なんで追ってくるんです……?』
「ダウンロードは終了しましたか?」
『あ、そ、そうです!目的は達成できました。成功ですよ!』
セキスイは自慢げに言った。死の恐怖から来るドーパミンの放出でハイになっているせいだと思った。
振動が止まって、そしてさらに大きいものが来た。ファフロッキーズが砲塔から発射されて、僕は空中に舞い出た。ピンク色しか存在しなかった視界は除かれて、曇天と陰気なビルの群れが映った。空中から見ると整然としていて見るに値するもののように思えた。
早く雑音が消えてほしいと願ったのは、戦いを求めているからではなくて。さまざまに枝分かれていく現実と人間の呼吸がうざったくなったからだ。白銀色にのっぺりと照らされた倍強度ガラスに黒いデーモンの姿が映った。
「でしたら、それが原因です。傭兵の目的はサーバーの破壊、データを欲しているのではありません」
『じゃあどうして私を』
『ダウンロードしてたからだろ』
「君のことを本当の業者だと思ったんだ。それほど金を積まれているのか」
『そんなことあります?!……え、うわ』
叫び声やくぐもった声にいちいち反応している余裕は無かった。ビルの隙間というのは案外狭い。最大速度を出している間はHUDによって彩られた景色と燃料の残量やらを忙しなく見なければならない。リアクションに乏しい人間でいると共感も湧いてこない。
10秒、レメディウムソフトウェアのオフィスにたどり着いた。映像で見たような鼠色のコンクリートで出来た平凡なビルディングの、剥き出しになった廊下に長い薬莢が転がる。廊下の壁には赤黒い染みが塗られて、その上から塵が被さっていた。曳火爆発によって引き裂かれた人体は瓦礫の下にあるのだろう。
僕は廊下の先を見て、フライトユニットをパージした。弾丸の威力からして壁ごと撃ち抜くことも出来るが、それだと被害が出る可能性が有る。予備は無いがセキスイの分を回せば後でどうにかなるはず。
重量物が落下していく音に混じった銃声。サプレッサーを装着していたのは地下に潜る役目の僕とアゲナ。敵か、それともジョージか。重力波は5つ混じった。ハンドルを引いてライフルの状態を戻す。もはや隠れている意味は無いと、強い足音を立てながら階段を駆け降りていく。
「アゲナ、準備は」
『もう終わる!運転変われ!』
『私がやるのかい?!』
おそらくは、相手もとうに救援に気がついているだろう。普通、データの削除であるなら僕たちと同じようにせせこましい手段を用いる。こんなに徹底的にしなくとも問題はない。ただ、現在の敵はそうしなかった。これから別のサーバーを破壊しなければいけないからかも知れないが……いや、破壊対象はサーバーだけと限らないのか。
そうなら、セキスイが追いかけられるのも理解できる。彼らはこの会社そのものを無かったことにしようとしている。
炎は途中から真っ黒な煙に変わった。グリア粒子に何かしらの燃焼剤を混ぜているのだろう。長いノズルから放たれたそれはアウターシールドを溶かして、飴のように地面に垂らす。ジョージは怯みながらも応射して顔を出させないよう牽制する。
机と椅子、それと柱があった。事務所で見たような場所だったはずだ。パソコンと書類が積まれていて、ウォーターサーバーや観葉植物がある。たまにコピー機とか段ボールが置かれていて整理されきっているとは言い難い。ブリーフィングで確認した、ありふれたオフィスの景色だった。
そういう普遍は燃やされていた。パソコンは机ごと溶かされてぐにゃりとした何かになっている。いや、今そうなったからそれと判別できただけだ。床に転がったそれらは、流星物質とデブリがスラスターの熱で混ざったものに似ていた。金属なのかプラスチックか、燃え尽きた煤や脂が付着して混沌としている。
今このフロアで識別できるのは柱とデーモンだけになった。まさに彼らが求めていた消去された図式だ。
僕はホロサイトに映ったデーモンに射撃した。背後を取れたのはその1人だけだった。残りの3人は既に僕を見ていた。即座に壁に身を隠して短く跳んだ。射撃は中断されて、弾丸はアウターシールドに守られた装甲へと触れることはなかった。
都市迷彩のグレースケールに彩られたヴォーソーが4機。一瞬見えた装備はスマートランチャーと火炎放射器、後はライフルか。一般的な装備ではない。やはり企業の雇われだと確信した。練度もある。位置的には挟むような形が作れたが、それも数的優位の前には霞む。
3機、僕に銃口を向ける。柱から柱へと移動して被害を最小限に抑える。デザインセンスの無い構造で助かった。太い柱を使ったほうがより空間の広さを感じられる。今の陣形を崩すのは難しい。迎撃のために動いた3機は僕との距離を保ちながら射撃を続けている。残りの1機はジョージへの追撃を続けた。有利な状況とはいえ無理に近付けば事故を起こす。そして庇わなければいけない人間がいるからして適切な判断だ。
手首を切り裂いたのはどの弾丸だったか。十字砲火の連続によって掩体も意味を成さなくなってくる。交差していく火線のどれもが味方に被さっていない。いくらか期待していたが無駄だったようだ。状況を変えるための一手が必要だが、それが無い。
「アゲナ、今どこにいる」
『空の上だよ、もう着くぜ……』
「来なくていい。武装をありったけ上空で撃て。もう射程圏内だ。ジル」
「位置を共有します」
『早くしてくれよ〜。無免許だぞ私』
どうでもいいことだけが溢れるようで、会話は嫌いだ。嫌いになった。全ての人間も環境も自ら選んだ結果であるからして、何も恨むことはできなかったが。ただ反応的に現れた情緒も消えてくれればいい。
強大な弾丸がビルを貫通して、溶かされた何かに着弾した。ハプティスタ対物ライフルの射撃は砲撃に似ていた。建物そのものの破壊に一役買うかのように、効率的にビルの中を通っていく。アゲナの射撃は下手だけど、今はそれで構わない。灰色のデーモンたちの動きが少しだけ鈍る。
後は僕が耐えればいい。相手も室内空間に対応するためにフライトユニットを外している。空中から援護が有れば分が悪いと考えて一時的にでも撤退するだろう。それでも状況が変わるのは時間が掛かり、そのわずかな間が僕を追い詰める。
応射の間隙、死角から1機がトリガーを下ろしながら突撃してくる。待てなかったのか?判断として完全には間違ってはいないが、それでも連携して行うべきだ。重力を軽減しながら跳ぶテクニックは誰がはじめたのかも分からないが、誰でもやってくる。
肩口の銃床を下ろす、片手は腰へ。その動作の間に銃弾が身体のどこかを通っていった。思考はある。
瞼の近くで降りたシャッターの外で閃光が生まれた。CILWSの表示が消える。オーバークロックしてフラッシュバンのようにしたのか。ジルがやったのだろう。相手の動きが一瞬止まる隙、素早く抜き放った拳銃とライフルを同時に撃つ。写真のような一瞬の間、僕は飛び散ったグリア粒子を見た。たった2つの銃口からの一斉放火は効率的に作用したらしい。
後のことは確かめられない。残りの3機が反応して銃口を向けてくる。咄嗟に脚に力を込めた。跳躍によって穴だらけの柱へ。派手な炎は避けたが、弾丸は避けられなかった。さらなる出血と内臓破裂が残り時間を縮めてくる。爆発がどこかで起きた。
アラートの動きからして敵の方向だ。射撃のときにそれを垣間見た。ビルを破壊したいんじゃないかと疑うほどの精度はだんだんと敵付近へと指向性を帯びている。ピコゾアのスライドは引き切ったままホルスターへと戻した。あと5分動ければ良いほうだ。
重力反応に乱れが生じた。ジョージからの援護射撃が来た。そこで銃撃音が減った。断続的でテンポの遅いものと、テロームの指切りしたもの。僕は今撃っていない。
「射撃を止めろ。もう撤退した」
「正確に言うと一時的にですが」
「そういうのは後で考える。ジョージ、セキスイ、無事か」
黒煙が過ぎ去っていくと、そこにはもうデーモンたちの姿はない。仕留めきれなかった。諦めはしないだろうな。
一旦だが、状況は収束した。力が抜ける感覚が強まる。ただ、まだ危険は完全に取り除かれていない。デーモンは頭の中の波を途切れさせずにいてくれた。まだ現実の中にいるべきだ。
近くの重力反応は1つだけ。IFFは光っていた。搭乗者が死亡しているだけの場合もあるが、多くの場合はマクスウェル機関も損傷を免れない。ハルファスを整備していた時に知ったのだけど、思ったよりもずっと人体の近くにある。現在のデーモンであっても構造は変わっていない。
『生きちゃあいるが、あんまり動けねえな』
彼のヴォーソーの装甲は黒く煤けていた。殆ど、全てと言っていいくらいにタールのような光沢のついた汚れが纏わり付いている。それがより濃くなっていく場所は右脚。やがて絞られたように細くなって、末端はもう存在していなかった。ジョージの負傷も大きいか。
後のことだけ考えていると、少しだけ忘れてしまっていた。死んでいようと問題なかった。無意識下ではそう考えついたのだろう。今考えてもそうか、としかない。後は彼らが悲しむのか想像もすら付かなくなった。
「セキスイは」
「いま、います。生きてます」
全身に砂埃をつけながら彼女は立ち上がった。どのモードに切り替えれば良いのか僕は迷った。デーモンが自動的に選択したのも僕の知らない何かしらだろうと思う。よく考えればデーモンには対人用の装備はあまり無かったな。
「て、て、手がぁ」
『手が?あ、切れてる』
「そのくらいなら問題ない。応急処置する」
セキスイは瓦礫の中に身を潜めていたらしい。辺りに熱源が沢山あったから熱源暗視モードにも引っ掛からなかった。コンクリートの塊に隠れたのか挟まれたのかは分からないが、負傷がその程度で済んで良かった。胸にもう少しだけそれが近づけば終わりになった。
データが入っているとおぼしきストレージは片方の手で握りしめていた。確かめることをしなかったのは珍しい思いやりだった。
彼女の腕を慎重に掴んだ。黒い作業服が震えた。僕も色々あやふやだし、急がなければいけない理由もある。いつまでもここに居たら、エンジェルは標的を僕たちに変えるだろう。さらに僕の方へ傷口を寄せると、彼女はもっと顔をしかめた。潰さないだけ上手だと思って欲しい。
手首が切り落とされていた。赤い断面には埃が付着している。傷口へとナノマシンスプレーを振りかけた。叫び声が聞こえた。キラキラ光る極小の機械は神経を痛めつける。除去作用と消毒作用のために傷口で動き回るから。彼女への処置が終わると、ジョージと自分に同じことをした。デーモンのおかげで痛みは一瞬だった。
赤い血は傷口からだらだら落ちるのを止めた。ナノマシンの結合、出血はこれで止まった。良く見れば腕の端の方でまだ手がくっついている。病院に駆け込めば繋げてくれるだろうか。
『まあ、歩けるだけ……だろ?嬢ちゃん』
「良くないです……」
「良い方だ。コワレフスカヤ、車はどこにある」
『下に着いたよ。駐車中』
「そこで待ってろ。アゲナはそのまま上空で哨戒」
「え、うわああ!!!痛い!!」
握ったままの彼女の手を引いて、肩の上で担ぎ上げた。いわゆるファイアーマンズキャリーの状態で跳躍。窓ガラスは既に無くなっていた。風の音がして、止んだ。4階分、生身の人間なら生存は半々ぐらいになる高度。重力を上方向へと偏らせて緩やかに落下する。人一人分重心が狂っていることも忘れずに。
曇り空が僕たちを囲んだ。鉛色の雲の上を手首が飛んでいくのが見えた。落下していくのは慣れているが、ここまで緩やかなのは初めてだった。
足首から膝へ、そして人工筋肉とフレームに衝撃が移る。関節に甚大なダメージがくるので乱発しない方がいい。肩から下ろした彼女はぐったりとしている。目立つ負傷は手だけだが、他にも存在したのか?何にせよ痛みを止めるべきだ。
「手、がどこ、」
「コワレフスカヤ、後ろのキットを取ってくれ。ジョージはまだ行けるな」
『ああ』
彼は力加減を誤って救急キットを少し潰した。幸いにも中身は無事だった。シリンジを上腕に刺すとオピオイド鎮痛薬が彼女の苦痛を和らげた。
少し緩んだ顔を運転席の中に突っ込んだ。後ろはそもそも人間が入るようなスペースがない。それに、これから戦いは続くだろう。狙われるのは武装を積んだ後部になる。コワレフスカヤにデーモンを脱ぐよう言った。濡れたパーカーを着た人間が道路に放り出された。
「運転は任せた」
「だから免許無いんだって……事故っても知らないよ」
『わたし、やれます』セキスイは車載通信機を掴んだらしい。
「片手じゃシフト操作はできない」
『ナノマシンでくっつきます。動かすだけなら』
「だとしてもできはしない。負傷の程度も分からない人間が運転するとさらに危険になる。ジル」
「ファフロッキーズ関連は私が行います。後のことは彼に」
これが正しい判断だと思った。その筈だがデーモンに均されて、それでも迷いが残っている。いや悔いの方が合っているか。正しさとは痛みを伴うものだった。特に他人とか社会はそれを知っていて受け入れない。
この状況は以前と同じものだと感じた。それだけのことと見過ごすべきか、それとも言われることが嫌になる僕の繊細さなのか。迷いは正しさを踏みつけて脳みその中に居座ってしまった。他人も同じく正誤の問題ではなく、もう現実らしく受け入れることしか出来ないのか。
もういい、やるべき事はいくらでも有るのだから。抜け殻になったデーモンを引き起こして後部座席に押し込んだ。不安になる感触がした。
「データは彼に渡しておけ」
『……はい』
「よし。ジョージは戦闘を継続。僕と一緒に来い」
聞くまでもなく肉の鞘の中に自分を再び埋めていった。ピンク色の視界と防音が少しだけ頭の中を綺麗にした。恐らくは、転がっていくように何かが動いている。どうかそのままでいてくれと願った。きっと、そうはならないのだろうが。
何もかも無意味なのに。望んでいるということはこれまで手に入らなかったから。ここまで得られないのだから、これ以上何かしたって無駄だ。




