12,
地球同盟はイーンスラとか仰々しい名前をラベル付けした。けれど、もっぱらコロニーとしか呼ばれない。僕は窓の外を眺めた。ノア級とは比べ物にならないほどの小さな艦船の群れが見える。銀色の味気のない外装がキラキラ光って水槽を回る魚のようだった。
会議室は狭い。黒い樹脂で出来た化粧板の机と、あとは4人分の椅子がぎりぎり入る程度の空間だった。”ほぼ社員との面談のために使っていますね”と彼は言った。宇宙船ではそのようなスペースを作ることも難しい、と僕は言っておいた。
ただ、天窓は大きい。どこのメーカーのものかも分からないがそれは評価できる。指をガラスに触れさせるとIVバッグが僅かに震えた。
「もう大丈夫なのですか?やはり傭兵というのは丈夫ですね」
「傭兵じゃない。非正規だけどちゃんと雇われている。それと大丈夫じゃない」
手足を一本づつ失って大丈夫な人間なんて居ない。今だって輸血と点滴でどうにか意識を保っているだけに過ぎないのだ。今すぐにでも安静にしておくべきなのだが、僕以外が交渉を行うとすれば責任をとれやしない。
彼は僕の言葉を真面目に聞いたようだった。コロニーを率いていれば荒事に遭遇するのも少なくないだろう。僕はそれを演技だと受け取っておくことにした。
「それなら、早めに終わらせましょうか。私はニール。コルコンディア保険会社の代表取締役であり、このコロニーの代表のようなものを務めています。苗字は無いのでそのままお呼び下さい」
「ラウンケル社所属、第3試験兵器部隊長のリュラ。このような格好で申し訳ない」
「問題はありませんよ」
黒い肌がたわんで笑顔を作った。肌の色は違うが僕と同じように特徴のぼやけた顔。海馬にはラポールの笑顔が鮮明に焼き付いていて、そのアルカイックな笑みに非論理的な拒否感を感じてしまう。おそらくは、そんなつもりなどない。
ニールと名乗った男性は極めて穏やかな声で続ける。ネリーと同じような道を辿ったはずでも出力された外形は違うものだな。
「早速本題に入りましょう。あなたたちが戦ったエンジェルの暴走体について、お力を借りたいのです」
「なるほど。ここは非公式だったな」
「ええ。良いように言えば法に明言されていない部分ですね」
「悪いように言えば無法地帯と。僕が礼儀を尽くすような義務もないどころか、企業が取引できるような場所ではない。ただ、こうして物理的に命運を握っていると違う」
「そうですね」
曖昧に、それでも彼は肯定した。要は恫喝だ。治療を施されたいなら従う他ないと。仮の義肢は関節をひどく苦しめている。もうとっくのとうに決まっていることだが、もし判断を下すなら早い方がいい。
アルブムは確かに脱法行為を行っていた。ただ、それはあくまで僕たちが捜査したために発見されたから。平時から罪を犯している企業か、その擬きたちとは取引はしないというのが僕たちの立場だ。下手くそな敬語も使う必要がない。使えない、の方がより近いか。
「私たちの置かれている状況を説明しましょう、ここ最近になってから暴走するエンジェルが出て来ました。1回につき30機程度と大規模なものではありませんが、船を焼き払うには十分な数です。このコロニーも攻撃に遭いましたが、デーモン部隊を雇っていたので最低限の防衛は出来ました」
「じゃあ、これ以外の船はやられたと」
「ええ。私共としては復讐をしなければ気が収まらない、というわけです」
絶対にそうは思っていないだろうな、と僕は感じた。彼が眉をひそめて怒ったような表情を作る。ただ、体の動きはまるで強張っていない。怒らなければいけない立場かそのような方針なのだろうけど。
「エンジェルに関しては現在まで散発的に暴走が起こっています。地球同盟軍は補給船を撤去するという消極的な手を打ちましたが効果はなく、ケプラー452b軌道上を防衛するために配備されたエンジェルたちは稼働し続けている状況です」
「超長距離航行を目的として設計されたから当然だ。消耗しなければ数百年は泳いでいられる。積極的な手を打たなかったのは、結局は費用便益分析の範疇だったからか」
軌道エレベーターが稼働していたのもおそらくはそうなのだろう。死ぬ確率が低く、また万が一事が起こっても補填する費用の方が低いから。
「その通りですね。ですので、あなたたちはたまたま軌道エレベーターに近づいたエンジェルが暴走し、それらに襲われたという事になりますね。行動はAIの自己判断ですから、残念ながら運が悪いとしか申せません」
「いつものことだ」
まあ、どうせ人工筋肉を追っているのだから危険な橋を渡らないわけにも行かない。いずれはそうなるだろうことが今起こっただけに過ぎない。負傷だっていつでもしていることだし。
問題は元々の目的である、レメディウムソフトウェアの調査が滞ることだ。端的に言って面倒臭い。僕はこの後の言葉を大体は察している。おそらくは戦力の足しにしたいのだろう。船団が最低限守れた、ということは現在また襲撃されたらさらなる被害は免れない。
そこで僕は思い出す。マイクログリアミサイルによって焼き尽くされようとしているさなかに割り込んできたものを。そして怠惰に流されようとしていた談話は交渉の意味を孕み始める。
「もちろん、地球同盟軍もこのまま黙っているというわけではありません。掃討作戦を開始するとの通達が下されました。我々もこれに従って行動する予定です」
「ここが地球同盟軍と一緒に行動出来るのか。公的な業務だろう」
「仰る通りで耳が痛いですね。実質的にどうにかする予定です」
「……まあいい、分かった。要求を飲もう。治療方法は有るんだな」
「ええ。幹細胞培養法です。偶然にも導入している企業がありましてね」
偶然か。まあそれはそうなのだろう。わざわざそんなことする理由はない。それでも僕たちに言った内容からして、その船にも強制的にここに留まるよう誘導した、というように思えてしまう。
「合意は取れました。あとは作戦についてです……治療の後にしましょうか」
「そちらの方は後で構わない。ただ、ひとつ条件を付け加えさせてくれないか」
僅かに目を沈ませたあと、ニールは再び視線を合わせた。そういえば照明はついていない。天窓から降る光はやや眩しく感じられるほどだ。片側だけに光が当たった顔には緑色の瞳が嵌め込まれていた。
パンくずで擦った顔を見て、どうして彼をほんのり嫌っているのか理解できた。ラポールを思い出すから。僕が考えることを放棄して、そのような表情を作れないから。
「何でしょうか?」
「ここにはソフィア・コワレフスカヤという人間がいるはずだ。彼の協力を得たい」
「……ああ、お世話になっていますよ。燃焼装置と言っていましたか、あれが無ければではここまで持ち堪えることも出来なかった。ええ、問題はありません。元より……」
「いや、彼をここから連れ出したい。勿論これが終わってからの話だが」
もう少し会話が上手な人間なら、前提条件を勿体ぶるのだろうか。僕にはただ意見や条件を突きつけ合う中でどうしたらそのようなものを挟むのか理解しがたい。ただ、どうしようもないからといってそれが与えて来た結果がどんなものであるかは知っている。
ニールはさして表情は変わらなかった。歪みは僅かに正しくなった。水平になった。
どんな人間だって力を持てばこうなってしまうのだろうか。人間をないがしろにすれば当然自分もそうなる。これは道理ではなくてただの感情だとは分かっていて、僕はそう思ってしまう。ただ、ありがたいことにここには最低限度の法も通用しない。その感情が必要だ。
彼は少しの情動を取り繕ってまた仄かな笑みを浮かべる。そしてまたやわらかに、冷たくなった言葉をかける。
「それは困りますね。もし作戦が完璧に完了したとしても、エンジェルの脅威は依然として残ります。防衛のための兵器がここから離れるのは看過しがたい」
「金の問題なら本社と連絡をつけられるが」
「いいえ、それだけではないです。ここには防衛力が必要だ。しかしエンジェルが使い物にならない以上、住民の団結が必須になる。今彼が居なくなればこのコロニーに亀裂が生じてしまう」
「工場船はここへ置いていく、と言っておこう。そうすれば誰かが埋めてくれるさ、AIに近況を話すぐらい孤独な人間だから……知ってるのかも分からないけれど。コワレフスカヤにも僕たちと同じ、緩やかな強制を強いているのか。ここに留めておきたいんだ」
かつて出会った傭兵たちの言葉を思い出す。トラヒコもそうだったかな。概ね”あそこには戻りたくない”という旨の言葉を使う。そのコロニーにおいては貴重な労働能力は、個人にとっては奴隷のようになる。ニールのような、僕のような全体主義者からしたらそうとしか思えない。
基本的には物理的な距離があるために、離れることが困難になっている。あとは婚姻なり経済なりで締め付ければいい。そうして理由もわからずに発展したい。
宇宙のコロニーや植民星の小規模コロニーではしばしばこういうことが起きる。居心地のいい牢獄と言うべきか、個人がそこで満足しているならいい。そう思わない純朴な奴が大半なのだけど。今回に限ってはそういうことは全く関係なくて、純粋に仕事のために必要だ。
「人聞きが悪いですね」
「事実だろう。改めて言っておこうか。ここは無法地帯だ。宇宙空間そのものは誰も所持しようがない。統治AIも存在せず、地球同盟も手を出せない。文字通りに実在するものだけが全て」
「否定する気は無いですよ」
「あんたが拒否するのは、物理的にでもコワレフスカヤを連れ出されたくないから……つまり設計の権利は彼が持っているからか。もし地上に生産を移した場合、権利侵害が経済活動を妨げられたと判断されれば何かしらの罰則は免れない」
僕は当てずっぽうに推測を繋げたが、偶然にもそれは的中していたようだった。彼が自然に笑った。面白いからではなく、きっと驚嘆して。なぜ違うのかと気付けたのは目の周りが大きく動いたからだ。あまり健康にはよろしくない笑いだと思う。
コワレフスカヤもきっと以前のようなことをしていないだろうと思った。僕と同じように多少の成長をしている。
「そこまで理解が進んでいるのなら、あとは簡単でしょう。彼がここから出ると留まっている理由はなくなる。ここは複雑な場所です。あの方に離脱されますとみなさんが困ります」
「それはどうでもいいことだ。僕にとって、彼にとっても。口ぶりからして、あんたはやっぱり強制力を持っているだけだ。正当な契約じゃない」
「……」
「治療には感謝する。戦闘も行う。だがそこからは善意の行動ではなくて、ラウンケル社とC.K.商会の取引だ」
少しの間沈黙が暗い部屋に入り込んだ。損得の計算をしている時の人間は皆同じように、冷たい顔をして目を伏せる。普段の僕も同じような表情をしているだろうと思う。短い間は終わって、彼の顔が上がった。ポーカーフェイスは変わらなく、穏やかに冷淡だ。
僕が言ったことは彼と同じような緩やかな警告に他ならない。妥協しろという。そう、ビジネスチャンスと報復を天秤にかけていればいい。彼が言葉のみであろうと肯定してくれることを望んだ。下らない上っ面だけの会話はいい加減堪え難かった。
沈黙を破ったのはニールだった。ほんの少しだけ笑顔が変わっているような気がするが、気のせいのようにも思う。
「そこまで言われてはしょうがありませんね。痛手ですが、構いませんよ」
「ありがとう。後のことは後でやる。僕に詳細を送ってくれ。他の人間はだめだ」
「理解しています。大変ですね、導く立場というのは」
「あんたのように自らやりたい訳じゃないからな。今は治療に集中させてもらう」
「医療会社はc-419と書かれた船にあります」
そこからは描写しがたいねぎらいか、気遣いの言葉と一緒に部屋から出た。ぎこちなく義肢が軋むたびにIVバッグが揺れた。僕はポケットの中にある時計を落とさないことに注意した。
数日ののち、僕の元に失った手足が届けられた。幹細胞培養治療は幾度となく受けてきたが、培養と接着を違う企業が行うのは初めてだった。肩を切り広げて骨を繋ぎ、神経を縫い合わせる。それを2回。ひどく無口な医者が行ってくれた。
それからは特段急ぎの用事も無かったのでネリーへの報告と事務的な仕事をやっていた。と言ってもベッドの中で終わることで、あとは寝ていただけだ。僕が十全に体を動かせるようになった頃には、アゲナとジョージも治療が終わっていた。これまでは約束を守るだろうことは予想していたが、これからはどうなるかは分からない。
「30分が経過しました。あの浮かれフード人間は置いておきましょうか、マスター」
「……あいつ、遅刻癖もあったのか」
「で、どうすんだよアンタ」
アゲナは脚の付け根を掻きながら言った。同じ人間の細胞でも繋がるときには活性化する、つまりは熱っぽく痒む。僕は何かしらの罰を与えるべきだと思ったけど、面倒くさがった。そのうちに精算しておけば良いだろうと放っておくことにした。
「少し遠回りになるが、ここでの作戦に加わる。終わり次第降下して本来の調査に入る」
「はー。そんなこったろうと思ったぜ。だりいな。そうだろ、おっさん」
「隊長の判断だ、従うしかねえだろ」
「あ、ははは……で、すよね……すみません……」
僕たちの聞かれたくない会話のためにあてがわれた一室は倉庫だった。どかした段ボールには緊急時用の医療キットや水や食料が詰められている。ほぼ人も立ち入らないので埃を吸い込むことは無かったが、独特の臭いがげんなりさせた。僕の部屋に似た臭いだった。
パイプ椅子を集めてきて決め事も無いのに円形に座っている。僕とアゲナ、そしてジョージの身体に欠けた所は無い。負傷は既に治療が終わっている。あとは取り留めのないインシデントから抜け出せれば良いのだが、そういうわけにはいかない。
「状況を整理しよう。僕たちの仕事は人工筋肉の調査だ。しかしながらその途中でエンジェルの暴走に遭遇、攻撃を受けて救助された」
「そんで今は恩を押し売りされたってか」
「概ねはそうだ。もっと直接的に言うとすると僕たちは脅迫されている。治療費用も不要と言われた。つまりセルで解決することができないということだ。実際ここの船団から追放されたらどうしようもないので、従う他はない」
「クソ。しょうもねえな」
「しょうがねえだろ、権力を持った奴に逆らっても……ここはあいつらの部屋と一緒だ。何をするにも許可がいる」
「だが、一応メリットもあった。ソフィア・コワレフスカヤという人物だ」
アゲナは一瞬ぽかんとして、その名前の指し示す人物が誰であるか思い出そうとした。間抜けな顔を見るとピアスが何本か抜けていることに気付いた。待っておくよりも早く口を開いたのはセキスイだった。
「た、確か協力する企業を運営してるっていう人です、よね……?」
「合っている。詳しい説明は出来なかったな。ジルが精神発達の過程に入っているから僕から話そう」
意味があるかはさておいて、説明だけはしておいた方がいい。理解や実務に関わるかどうかではなく不満の解消として。
「彼はジルのようなAIを制作して販売している。NM……何とかというタイプを研究していた。戦争後はそれの新型を開発していた」
「火星戦争に参加していたのか?」
「そうだ。巻き込まれたかたちで、少し交流があった。話を戻すと現在はAIではなくて、なぜか兵器の販売をしている。このコロニー内の宇宙船で」
「お金が必要だったからではないですか?だから、稼げることを始めた」
「お、そうだな。研究と仕事は別だろ?」
「数時間で結果を出せるぐらいの天才だったら、そうだな。僕は余暇を使って副業程度のことしか出来ない。彼も同じだった。だから少し、かなり夢見がちなことをしていた……今だって金を稼ぐのは副次的な要素のはず」
「じゃあ、嫌々であれを作ったって訳か?何回か見たことがある」
「……才能が必ずしも望んだ方向に伸びる訳じゃない。ジョージが言った通りに金の問題じゃない。ということは僕たちと同じような状態にあるんじゃないか」
「つまり、仲間にできるってことか?」
僕は首是した。アゲナは得意げな顔をして隣に突っかかった。セキスイは俯いて黙っていた。深刻そうな雰囲気、とでも形容すればいいだろうか。理解できないことはそのままにしておこう。
そこでようやく足音が聞こえてきた。約束の時間から30分、それから話したから10何分か経っているだろう。何となく過剰なまでに遅刻を嫌う人間の気分がわかったような気がする。結局はただの一過性の気分の問題でしかないことも。
「いやあ、すまないね。釘を刺されたものだから。おや、随分部下がいるんだね君。5年経っても社交的には見えないが」
「それはそうだ。コワレフスカヤ。あと部下じゃない。便宜的にはそうだが」
「まさか修士2回半程度で変わるとも思っていなかったけどさ。ああ、皆さんよろしく。私がソフィア・コワレフスカヤ、君達の協力者だ」
彼は5年前と同様にフードを目深に被っている。顔は見えないが、代わりに浮き上がったナノマシンが顔のような図形を作った。ネオンに似た光は鋭く、すえた空気に混ざった。
そして、どこからか持ってきたパイプ椅子に座って人の輪に混ざる。”さ、早く続きといこう”と我が物顔で言う。コワレフスカヤのことを知らない人間からしたら尊大にも写るだろう。実際に僕としても同じだが、直りはしなかったのでどうしようもない。
「プランはあるのかい?私のAIは優秀だが、ここだとインストールもできない。つまるところ星に降りなければ手も足も出しようがないけど」
「その話だ。まずは前段階としてエンジェルの掃討作戦に加わる」
「使いっ走りってことだよ」
先ほど話したことをジョージが説明した。彼はコワレフスカヤを取り込もうとしていることを言うべきか迷っていたが、僕はそれを黙っておく意味は無いように思った。どうせ口ぶりで仄めかすぐらいなら、そのまま言っておいた方が早い。
彼は僕の指示に従った。自分自身に従うことがどれだけ大変か、周りの氾濫した植物プランクトンたちから逃れるのがどれだけ疲れるかは知っている。
「ふうん、つまりは私を連れて行くために戦うってことか。ありがたいね。困っていた所だった」
「その程度の話じゃないだろ」
「まあね。ここは面倒臭い。君たち、コンテナを借りるのにどれぐらいの費用がかかると思う?」
「え、えーと。えー……」
「月100セルだろ」ジョージはぶっきらぼうに答える。
「それぐらいだ。企業だともう少し安くなるかな。大した額じゃないんだが、左舷横3隻先にいるシュミッツという男、右舷横2隻と縦5隻のミツハラという女に話を通さないと借りれない。よしんばおべっかで切り抜けたとしてもその他の勢力と取引が出来なくなる。面倒臭い場所だよ」
「ストリートと同じか。ま、どこでもあることだな」
「みんな複雑なところに居るな」
「金が有るなら抜け出せると思って色々やっていたら、結局はもっと巻き込まれたんだ。ここから出れるなら喜んで手を貸すね」
相変わらず開けひろげに話す人間だな、と思った。ただ、今はその思慮のない言動が心地いい。あれと話した後だから。
想像通りに彼は協力を受け入れてくれ、無駄な時間も無く掃討作戦についての議論に入ることができた。グリア粒子を吹き付けるミサイル、”燃焼式防衛投射物”という商品名で販売しているものを使用する。やる気のない名前だ。 ニールから伝えられた内容によると、全二段階の作戦だった。第一段階はエンジェルの追い込み。通常の個体にはビーコンから偽装情報を発信してスクランブルを行わせる。暴走した個体は実力行使だ。長距離砲巡洋艦による砲撃で対処する。これには僕たちは加わらない。
第二段階は集まったエンジェルへの攻撃。地球同盟艦隊とデーモン部隊によって正常なものも異常なものもまとめて排除する。長距離砲や巡航ミサイルで終わればいいがそう上手く行かないだろう。成功と失敗は置いておいて、どんな作戦も予定通りに進むとは思わない。
デーモンをかき集めているあたり、地球同盟側もそう考えたらしい。僕たちアウトローはそれに加わる。当然のこと、”偶然居合わせた協力者”という体で。おそらくは水面下で談合したのだろう。それぐらいのことしか書いていなかった。
後はコワレフスカヤの商品を使って機動戦に持ち込む。パワー級エンジェルは対デーモン兵器をマイクログリアミサイル以外に持ち合わせていない。そうすれば比較的優位に戦いを進められるだろう。
「じゃあ、そこへ持ち込むまではどうするんだ?あんたの兵器は優秀だが限界は有るんだろ。俺たちの武装じゃ射程距離不足になる。前と同じオチだぜ」
「お、専門家らしいことが出来そうだ。もしエンジェルを追い込んで膠着すれば、AIが打開策を考え始めるだろうね。攻撃から突破へ思考を変えて、その行動が伝播して群れの動きになる。つまりいくつかの地点から無理にでも突破を図るだろう」
「なるほど、そこを狙うなら届くか」
「そういえばよ、隊長。これって臨時ボーナスとかは」
「出ないな」
「ちくしょう……」
幾らかの話し合いが終わって、僕たちは各々気になったことを質問しあった。コワレフスカヤは僕が想像していたよりも逞しく、まるで堪えたような感じもない。火星では他にどうしようも無かった状況だったが、今はそうではない。比較的自由だ。羨ましいほどの太々しさだと思った。
逆に心配になっていくのはセキスイのことだった。手持ち無沙汰で黙っている。これまでやってきたことと違う分野を無理矢理やらされているのだから、それはそうかもしれない。ただ僕のさもしい共感でもそれとは違う何かを感じ取ってしまう。
それが何であるか知らなくてはいけないのだろう。これまでと同じなら、悪い結果が訪れるはず。
彼女の居心地の悪そうな顔、目を見開いたそれを見ると罪悪感が湧く。洗い忘れた食器を見つけたような気分だ。そしてため息をついて一歩分の覚悟を決める。僕がやらなくてはいけないことなのだから。




