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目覚まし時計  作者: nacare
2:覚醒
46/76

7,

 僕は銃の感触を確かめた。ライフルを扱うのは久しぶりだ。それも簡単に人を壊すことのできる大口径のものは。 弾頭をひとつ取り上げてみるとキラキラ緑色に光っているのが分かるだろう。それがアウターシールドに触れると熱によって一体化し、周りのグリア粒子を巻き込みながら侵徹する。その仕組みは誤解を恐れなければ成形炸薬弾に似ている。そうしてさっさと命を奪っていくので、僕たちは迂闊には動けない。

 アウターシールドとコンポジットカーボンの破片が遠くで弾けた。グリア粒子がコーティングされた12.7×99弾頭、11×47mm弾頭を互いに撃ち合う。アンダーバレルから飛び出したグレネードを見てから、僕は遮蔽物を飛び越える。敵が頭を引っ込めた隙に少し先の遮蔽へ。そして陣地へと、じりじり進んでいく。

 黒い影が空中で踊った。デーモンや砲弾では無い。ドローンだ。銃弾を正面のプレートで受け止めながら、炎を噴き上げて飛んでいく。うねうねと野放図に伸ばされたパイプ、即席のバリケードを飛び越えて標的へ。デーモンの直上ですぐさま爆散した。ミサイルよりかは少しだけコントロールが効く。それが戦場では重要になる。

 崩れた陣形を見て、僕とアゲナは跳躍した。攻撃を行うものが少し減って隙が生まれた。やや前で着地して飛び掛かりながら引き金を乱暴に下ろすと、緑色の粒子と鮮血が舞った。素早く反転して他の標的へと向かう。

 テローム対デーモン多目的ライフル。聞いたことのない名前だ。それもそうで、リンネではなく自社開発の銃器らしい。設計思想も”オプションによって多目的に対応する”こと。潤沢な資金があるのはいいが、何かひけらかすようで気に入らない。

 それでもまあ、楽なのは良いことだ。上手に散らされる反動のおかげでSARよりもフルオートで撃ちやすい。そして戦場にはまだ銃が必要で、僕にはまだその技量が残されていた。ドローンを撃ち落として、援護射撃を要求。弾幕がやってくると遮蔽を飛び越えて前に向かう。

 敵の投擲したグリア・グレネードが空中で弾ける。せりあがった背面のレンズから光が放たれたためだ。CIL(Laser)WS、近接防空レーザーシステムの照射。

「17m前方の標的は対処しました。他の敵を」

「他のところは」

「私もサポートしています。主にセキスイ女史のドローン制御とアゲナ氏のサポートですが」

『おい!何だよこのAI、めちゃくちゃうるせえぞ!』

「生きてはいるか」

 ジルが黙って、それからいくらか経ったら戦闘は終わった。被害はほとんど無い。数分程度の交戦時間のために消耗も少ないが、補給は期待出来そうにない。

 あちこちにデーモンの破片と瓦礫、血肉と薬莢が散らばっていた。ジャクソン・ポロックの絵画のように抽象的になった死体は、僕に兵器の進化を悟らせた。グリア粒子の兵器転用が本格的に始まったのは今から3年ほど前だ。もちろん研究はそれ以前から始められていただろうが、一種のブレイクスルーが起きたのがその年になる。

 グリアミサイル。グリア粒子を弾頭の中に詰め込んだそれが、火星軍残党フリゲート艦隊が敷設したアウターシールド網に効果を示した。たった20発のミサイルによって、30分で突破を終わらせた。もし通常兵器でそれを行うのなら、3時間はミサイルを撃たなければいけなかった。

 そこからはデーモンが兵器に転用されていったあらましと同じだ。今、僕たちが放つ銃弾にはグリア粒子がコーティングされている。かつてはただの防弾ジャケットだったものは、人体を貫くだけの運動エネルギーを与えられた。

 デーモンはもう戦場を支配しなくなった。今の宇宙にはマイクログリアミサイルを200発詰め込んだエンジェルがうろついている。僕たちは歩兵だ。ちょっと銃が打てるだけの使い捨てか、十分以上の訓練を積んだ精鋭部隊に二極化している。

『終わったんですか……?』

 背中に柱のようなアンテナを背負ったデーモンが後方から小走りで来た。途中で死体を見て足を跳ねさせた。セキスイの乗っているデーモンには対電子戦パッケージが装備されていた。後方支援には向いているが、それでも銃を使うことはあるだろう。言っても無駄に怯えさせるだけだろうから言わないが。

「セキスイ、車の」

『えっ、その、ああれは今ちょっと使えないです、はい』

「その通りです。地上からもアルブム製薬会社の攻撃が行われ、装甲車は大破しました。我々も寸前で脱出した形です」

『そ、その通りです……』

『上に逃げることも出来ないってことか』

『で、こいつは一体何なんだよ。AIにしちゃ人間くさすぎる。セキスイについてたんだろ』

「ジル。それなりのAIだ。聞きたいなら詳しい説明は後でやる」

「こんにちは。私はリュラのパーソナルアシスタント、ジルです。本来は彼のサポートが役割ですが、このような状況ですので。皆さんよろしくお願いします」

「そういうことだ。状況を整理しよう」

 戦術的な優位性は僕たちにある。新型デーモンのヴォーソー、性能の高いライフル、斥候に役立つドローン。その他便利なガジェット類もある。これから戦闘が行われたとしても優位に立てるのは間違いない。しかしながら戦略的にはもうほぼ敗北しているとしか言えない。何せ補給の見込みも無い、兵站のかけらもないような状況だから。

 頭の中は撤退の判断を下していた。僕が戦争で培った経験は、勝ち目のない戦いはしないことだ。よっぽどやらなければ生き残れない状況を除いて欲をかくことに意味は無い。手足を切り取って売って、残ったのが一体何だったのか。

「車は使えない。ネリーからの通信は入っていたか」

『あ、そう、そうです!攻撃されてきた時に通信しました……その。”探り終えたら帰ってきな”って……』

 僕は何となくその答えを知っていた。彼女の冷淡さからしてそうするだろう。これで間違いなく頭の悪い行動をしなければいけなくなった。このトンネルを脱出し、構造も分からない地下空間を抜けて地上を目指す。途中で人工筋肉のありかとデイヴィッドを探すことも忘れてはいけない。

 目的は人工筋肉の遺伝子の元を辿ること。こんな状況になっても、そうだ。あるいはそれは僕にだけそうかもしれない。他人を納得させないといけないという難しさは、チームを組むことの利益と釣り合うのか。

「そうか。聞いたな?僕たちには退路はない。この施設を探索して任務を達成する。そして上に戻る」

『マジかよ、はあ……』

 危険だと思う。だが可能ではある。それは間違いなく選択できる問題だと思った。でも僕は馬鹿を演じて、かつての2人といた時のような判断をする。

 心の中にはその言葉だけが残っていた。それ以外のことはどうなっても良い。父の痕跡を探る。僕は僕のために部隊を危険にさらす。

「仕事は完遂させなければいけない。金のためにも、これからのためにも。とにかくデイヴィッド・ジェイを見つけなければ」

『分かってたがよ、随分な仕事だな』

「こんな少人数で、訓練も無しに送り込まれたんだ。理解していただろう。だがその分報酬も高い。皆そのために来たんだろう。作戦は継続する」

 デーモンに乗っていたので、皆の表情やニュアンスは分からない。僅かな吐息やニュアンスはプログラムが弾いて理想的な値にしてしまう。聞こえたのは今も鳴り響くブザーと足元のデーモンのうめきだけだった。 


 僕が思っていたよりも不満の声は挙がらなかった。思っていたよりも皆のっぴきならない理由があったらしい。今もそれへ立ち入る権利は無いように思えるが、それで上手くいかなかったので喉を突かれたような気分になる。

 エレベーターは使えなくなっていたので、地道に階段を登っていった。索敵能力はこちらの方が上で、途中で敵と不意に遭遇することは無かった。幾つか使われていない階層を過ぎると下からラインが繋がってる階に入った。

「ここはラインが繋がってるようだ。何か手がかりがあるかもしれない」

『隊長のAIは使えないんですか?』

「独立した内部回線なので、私の本体からのクラッキングが不可能なのです。デーモンが搭乗者を蒸し料理にしても良いなら可能です」

『や、やめてくださいよ。やらせて頂きますから……』

「冗談ですよ。録画の解析程度ならできますので、途中でデータを解析しつつ追跡しましょう」

 やや低くなった天井の下に機械が並んでいた。ぎちぎちに詰まったおもちゃ箱のように、地下空間はそれによって圧迫されている。工場はこれ以上ないほどに詰め込まれた効率性で満ちている。正確に言うのなら誰かが考えたそれだ。だから不自然で不完全なのだろう。

 それらはおおよそ製薬のための機械だった。主にタンパク質から化学物質を精製するためのもの、らしい。僕には何も分からないが、ジルとジョージがそう言ったのでそうだ。

 白黒になったそれの中を、スーツ姿の男が駆けていく。少し前の洒落た格好が乱れていくのも気にせずデイヴィッド・ジェイが走る。裾が機械の角につかまって止まると、躊躇いなくジャケットを脱ぎ捨てて画面から消えていった。どうやらこちらの情報も届いているようだ。

『けどよ、何か変じゃねえか?』

「何がだ、アゲナ」

『工場ってのはもっと……直線じゃねえの。ここはなんか入り組みすぎてる』

『あいつのせいだ。あいつが逃げ隠れる為にそうしてるんだ。ここは城で、秘密基地だからな』

 地球同盟軍の侵攻が来た時のリスクヘッジの方が合っているのではないかとも思ったが、僕たちが追いかけても生身の彼の姿が全く見えないことを鑑みれば正解のように感じてしまう。さすがに違法だと思うが、もうその程度の犯罪で裁いていいような会社だろうか。

 屈み、時には大股になってその中を進んでいく。デーモンが通るような大きさではないので、頻繁に何かが何かに当たって音が漏れた。地面、申し訳程度に敷かれたマットの上に汚れがある。人でも苦労するであろう狭さだが、明らかに通った形跡が存在した。

 狭苦しい通路を進んでいると角からやってきた兵士がいた。アウターシールドに窪みができると同時にそいつの腹を裂いた。単純な膂力でさえアップグレードされているのか。まだ動いていたので頭に2発入れて、警戒の声を出した。

「敵だ。ただの歩兵、デーモンじゃない」

『う、うわ』

『何だよ、こいつら……!』

「アゲナ、そっちは頼むぞ」

 ライフルを振り回すほどのスペースがない、ハンドルを引いたままにしてラックへ。ナイフを抜く。グリア粒子によって強化された刀身がぬらぬら光る。そんな細やかな心遣いも構わずに的はシーライトを手にしてやってくる。

 短い銃身からばら撒かれた銃弾がアウターシールドを削る。小口径では効果が薄れるが、それも全く効果がないという訳でもない。グリア粒子がコーティングされた防弾チョッキを想定していても、何十発か喰らい続ければ割れるだろう。

 狂戦士は精神病か、向精神薬のような効用を持つ植物を使っていたと聞いたことがある。エビデンスを示すべきだ、と言ったが今日まで僕も調べずにいた。ただ現代においてはデーモンとスマートドラッグを吸えばそうなれる。

 飛び散った歯が装甲に当たった。武器を失った敵がアウターシールドに噛み付いた。痛みが消えているのか。拳を素早く何度か叩きつけてようやく止まる。銃弾が空中で止まる。跳躍して撃ってきたやつを撥ねた。それなりに銃器を扱えるということは使い捨てでないように思えるが、どうしてだろう。

 当然僕たちを死に至らしめることはなく歩兵たちは全滅した。いや、彼らの服装を見るには従業員たち、の方が正しいように思えた。タンクトップやTシャツで、軽装備と呼べるほどのものでも無かったから。

「こいつたちは一体どうしたんだ」

『スマートドラッグをやってただろ。それのせいでこうなる。自分で考える暇もないのに、逃げるって選択肢が無くなるんだ。反応ってやつだよ……』

「闘争/逃走反応ですね。おそらく過剰な脳内精製物質の濫用により異常な適応をしてしまったのでしょう。しかし相当量が必要な筈ですが」

『傭兵を捕まえりゃ、いくらでもやってくれるさ』

『……今度からドラッグはやらねえ』

『わ、私もああなっちゃうんですか!?』

『いや、ここの奴らは特別なのを吸ってたからな』

『特別じゃないのをたくさん吸っていたらなるんですか?!』

『さあ……』

 ジョージが心無さげに言ったのを肯定と受け取ったのか、彼女はひどく怯えた。抑制されているのに顔を隠そうとした腕には血がついていた。それもべっとりと中手骨あたりに。

 きっとセキスイもそれなりにやってきたのだろうと思う。ネリーだとか、あんな人間がたくさんいる会社なのだから。ストレスを解消する方法を自己責任にしてきた社会のせいだ。何かだけのせいにするのは愚かだと思うが、それはそうでもある。

 僕は未だ迷っていた。もはやここが彼と関係のある場所であることは明白だった。スマートドラッグの隠された効用なんてここの社員以外は知らない筈だ。それとなく、詳しいのなら訊ねる形で聞けなくもない。

 それを行うことに意味もない。僕が満足するだけだ。いやきっと、失望して終わるのかもしれない。もうよく分からない。父を殺した日から、何もかもは漂う霧の中に居るような気がしている。今はそこに見えた影を追いかけているだけなのだ。なら、やるべきじゃないのか。

「……ジョージ、ここには詳しいのか。良ければ説明してくれ。アルブムは随分乱暴な事ばかりしている。なぜこんなことが出来るんだ」

『俺も気になってた。何なんだよここは。地下のマフィアがいる所とも違え』

『……言うことなんてねえよ。ここはただのありふれた企業さ。どこでもやっていることを、ここもやっているだけだ』

「傭兵を集めてゾンビにするのが?」

『そうさ。どこに行っても、傭兵の扱い方はこんなもんだ。エンジェルがやってきてから、俺たちは使い捨てのゴミ袋だ』

 ゴミ袋は無いと困るものであるからその例えは間違っている。もっと簡単に捨てられて、代替可能なものが例えとして合っているように思った。流石に言うとまずい事になるから訂正はしなかったけど。

 しかしながら、その認識で間違いは無い。傭兵の地位は完全に零落してしまった。エンジェルのおかげで戦場のパイが小さくなったせいだ。僕は幸運にも職業を移していたので煽りは喰らわなかったが、PMCの過剰供給によって倒産する企業も増えた。A&Aも残念ながら、残念ながら消えてしまった。

「確かにあぶれた傭兵たちを使っているのは分かった。だけどそれにしてはやけに遠回りだ。もっと使い捨てればいいじゃないか。生かしておくことはリソースを無駄に食うだけだ」

『生かしてない。そんなわけねえだろ。あんた、あっち側にでもなれそうな頭してんな』

 彼の言葉はそれが最後だった。ジョージが何を言っているのか、僕には理解できなかった。しかしながら、それが示唆しているものを知れるのはそう遠い未来のことでもなかった。


 ベルトコンベアのラインの終着点は冷凍室だった。デーモンから時折排出される空気が白く濁った。その光景は河岸に近いだろう。暗く広い部屋の中に凍らされた手足と死体が直線に並べられていた。セキスイがヒューと息を吸い込んだ。僕はいつか海賊たちを凍らして売ろうとしていたことを思い出した。

 凍らされた人間たちを見た。死体はどれも男ばかりで、頭がない。それも20~30代の比較的栄養状態の良いもので、首から上以外に傷はない。無造作な殺人を犯したなら性別や年齢、体型や損傷部位もばらばらになる。これは明らかに違っていた。畑から収穫したように均一に失われている。

『こいつらは頭以外に価値がなかったんだな』

『胸糞悪いな。何でこんなことすんだよ……』

『一番上手くいくのが丸ごと作る方法だからだ。鶏みたいに捨てるところが無かったら良いんだけどな』

 ジョージは自嘲するようにして言った。やけになっているのではないかと思った。僕も珍しくそういう経験があった。むしろ自分から傷口を広げた方がマシだと思えるぐらいに痛むことが。

「クローンか。技術的には大昔から可能だったけど……」

「おそらく、アルブム製薬会社の技術でしょう。人体から効率的に有用な部位を取り出す方法を開発し、そのために他の企業よりも支配的な位置を確保した」

『違うな。それしか方法が無いからさ』

 ジルは不満げにうめいた。他の3人はそれどころではなかったので彼女の人間を真似たコミュニケーションに反応しなかった。

『そしていくらでも傭兵はいる。そいつを殺して遺伝子を奪い、そしてクローンを作ってドラッグを抽出する。大抵は一回だけだが、たくさん抽出出来る奴は何度も作る。筋肉と同じさ。違うのは命だけだ』

「最初に殺す理由がない。足がつくだけだ」

『逆さ。スマートドラッグから口を離さない奴を生かしておいても邪魔なだけだ。戦えなきゃ、そうされるだけさ。ここは最初に出来た街だぜ。中毒者は掃いて捨てるほど居たんだ』

 露悪的な話のようにも思えてしまうが、いちおう筋は通っている。スマートドラッグが一般に流通してきたのは最近のことだが、兵士の精神衛生を保つために生産はされてきた。コロニーを建設する地球同盟なら持っていてもおかしくはない。

 それか、アルブムがここへ持ち込んだのか。生産を始めたのはこの会社だ。それを行うために廃人をたくさん作って材料を集める。これもまあ、理由は分からないが可能だろう。

 全てはなるべくしてなった。人体を使うのは効率が悪い。だが溢れかえる薬漬けの人間を利用する方法にしては有効だった。脳みそから有機化合物を取り出して、その他の部分はたまに利用すればいい。試行回数を重ねて成功したらクローンで量産する。ここにはそういう土壌があった。

 精製されたスマートドラッグでハッピーにした人間を作り、そしてまた造る。そうして出来た街がここなのだろう。僕はここに入ってきた時のことを思い出した。鉄条網は内側から逃げ出す人間を止めるためだ。

「だからか。アルブムがこの街を支配しているのは……」

『どっちが先かは知らねえがな。それともまた戦争がやりてえのか』

 たぎり狂うような感情を無理矢理に悪魔が切り揃えて、ジョージはぐちゃぐちゃになった声を出していた。彼がどこの位置に居るのかは分からないが、何処でも大変そうな境遇だ。

 どうやら地球同盟軍もそれなりに働いている。冷淡なイメージしかないが、流石に倫理的に看過出来なかったか。もし僕たちがここの秘密を公開すればまた戦争が起きるのだろうか。いや、結局はラウンケル社の合議に掛かっているのだろうけど。

『……うえ、も、もうスマートはやりません』

『絶対吐くなよ。俺だってまずいんだよ』

「ありがとう。ここのことも少し理解できた」

『……そいつらをどうにかしてやれよ』

 僕は彼らをどうにかしようと思ったが、デーモンを脱いだらさらにまずいことになる。結局はそっとしておくしかなかった。ジョージは結果としてまるで自分のことを話さなかったが、情報は集まったので最低限問題はない。

 僕はさして何も思わなかった。強調して言うのならジョージを多少利用するふうになってしまったことに後悔しているが、それもデーモンの中だと分からない。人工筋肉の中の古い遺伝子は結局謎のままだ。このプロセスだと遺伝子情報の多様性は既に確保されているのでそうする意味がない。デイヴィッドを捕まえなければ。

 彼の様子を見た。そして意味が無かった事に気づいた。デーモンを着ているので表情なんて分かりようがない。最後の声の調子はむしろ落ち着いてきて、感情抑制が効いていた。

 脳神経からしか抽出できないスマートドラッグと脳神経を遮断するデーモン。頭を少し麻痺させてようやく正常になれる僕たち。だけど、きっとこれ以上狂っている暇もないから仕方ないことでしかない。


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