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驟雨のように砂塵がばらばらと降り落ちてくる。改造されたサーモピレーを乗せたシャフトが上にあがるたび、基地を揺らすためだ。嫌になるほど晴れやかな空がそれを照らしていて、視界の中できらめいている。今までとさして変わらないはずの朝が眩しかった。
翅をもがれて柱状になったサーモピレーの先端部には装置が取り付けられている。円状に取り付けられたマクスウェル機関たちだ。傍目から見ても寄せ集めの色が違う鋼材で作られている。さらに形状も完璧な円ではなく、所々こぶのように盛りあがっている部分がある。
未熟児たちのゆりかごだ。リキベントと栄養剤を混ぜた簡易的な生育環境を作って、その中に計測装置を組み込んだ赤ん坊を入れておく。装甲は厚く設計されていた。あとはマクスウェル機関を近くに置いておく。これが巨大なデーモンの腹部の秘密で、今僕たちを宇宙に戻そうとしているものだ。
赤ん坊の頭に注目すれば小さなチップが埋め込まれていることに気付くだろう。生体端末を改造したもので、神経データを計測して飛ばす役割を担っている。その程度の機能しかないものというよりかはそれ以外の機能は必要でなかったのだろう。
子供は僕が見たように幹細胞培養技術(もしくはそれよりも前のものかもしれないが、僕には判別はつかない)で生産できる。生体端末も既存のものを改造すればいい。倫理を抜きにすれば費用対効果としてこれほど最大のものがあるのだろうか。
要するに使い捨ての強力なバッテリーのようなものを、大した工場もなしに生産できるということだ。材料であってもこれまであったものの流用で済んでしまう。医療用の幹細胞培養ができて、あとは補給が絶えなければいい。
丁寧に巨大なデーモンからも取り外しできるような機構があって、船体への取り付けは上手くいった。もしかしたらあちら側も同じようなことを考えていたのか。しかしながら今までアルクビエレ・ドライブを使った奇襲を聞いたことがない。
いや、推定ではなくて計画していたと断定した方がいい。実行されなかったのは攻勢に出れる体力がなかったからだろう。ここまでのことをやる組織が、たかが倫理の問題で止めるとは思わない。彼らにとってはたった1人2人死ぬだけで多くの人間を救えるのだ。
いくら頑丈に装甲を作り、慎重に守っても戦闘に未熟児が耐えれるわけがない。彼らは単純に精神の発露、その純粋なものを求められている弾丸に過ぎない。どうあっても死ぬ運命にあると分かっていて彼らはそれを使っていた。
それを今、僕たちは使っている。嫌になるけれど火星軍の気持ちが分かってしまった。生き残るためには、ひいては勝つためにはどんな手段も使わなければいけない。そうでないと死ぬ。学校とか本に書いてあること、もっと大きな何かが守っていること。そういうものは今いる僕たちには無意味だ。
それはより良い環境を築くためのものなのだろう。核爆弾を使うということはそれ自体による報復を意味することだったように、残虐な行為を行ったものは必ず裁定を受ける。血は血を呼ぶから、誰かを殺すと殺されるから。ルールに従うことはより多数の人間を生かすことに繋がる。
それでも僕たちは生き残ろうとする。誰かを殺して自らを救う。きっと多数が生き残ることと同じように、僕たちにも生き残ろうとする権利がある。そう理解はしても納得はできない。人を殺すのは悪でしかない。
地球同盟からするとこの基地は切り捨てるべき枝葉であり、僕たちからすると子供と敵はトロッコが向かう方向だ。そしてそれらにも生き残るべき権利が存在している。一体誰が誰をガス室の中に入れているのだろう?僕がこんなにくだらないことを考えているのは、心を酷く乱されているからだろうか。
いつかは分からないけど、これにも決着が付いたら考えなくなるのだろう。答えが既に出ている問題を考える意味はない。僕は少数を殺して大勢を助ける。いつだってそうしてきたじゃないか。つまるところ気の迷いでしかないのだ。
重力が曲がり、反復して折り重なっていく。見窄らしい宇宙船が目に見える力無しに宙に浮かぶ。大気中のゴミや塵が弾かれて降り掛かってくるのが鬱陶しい。このままマクスウェル機関の出力を上げて、アルクビエレ・ドライブを実行できれば僕たちは帰れる。
カタパルトのハッチは壊されたため、地上からこの船は丸見えだ。あいにくの晴天も相まってどこからでも確認出来るだろう。まあ、そうでなくとも情報を持ち帰られているので戦闘は避けられない。火星軍はきっと砂嵐を連れてくるだろう。
『デーモン部隊全機出撃』
厳粛な声が基地の中に響く。僅かな余暇が終わる。機体の状態をモニタリングしている職員たちが緩慢な動きでデーモンから離れていく。目の下にクマが出来ていた。贅沢な頼みかもしれないが寝てほしい。
前腕の半分程度の長さの弾倉を持ち上げてSARに挿し込む。レバーを引いて薬室に弾薬を送り込む。オバゾアも同じようにしておく。装甲を軽くなぞるように触る。人工筋肉との間に隙間が無いか確認する。異常は感じないが、かなり突貫で作業したようで所々凹凸を感じる。手早くその作業を終わらせて後ろ向きになる。
デーモンに背を預けるようにしながら、外皮の凹みに指を合わせる。ああ、きっと僕は殺すのだろう。今までやって来たように、それを正しいと考えているから。人生は車輪だ。定まった形のままに、ただ転がることしかできない。そして僕の形はもう決まっている。
僕を止めてくれるものも、もう無い。あとはただ転がり続けるだけしかない。どうにでもなってしまえ。父との決着をつける。複雑で巨大な何かに飲み込まれている僕が行うべきことは、行えるのはそれだけだ。
ピンク色の筋肉が僕に触り、舐め、味を確かめる。そして一息に食べてしまう。羊水に包まれて思考の霧が少しだけ晴れる。
「おはようございます。マスター、よく眠れましたか?」
「君のラポールの真似事を許せるぐらいには」
「……バイタル値は明らかに低いですが、貴方の機知を信じることにします。気をつけて」
「心配しているのか?そんな必要は無い。むしろモチベーションは十分ある」
「そうかもしれませんね。語の先頭に”犯行の”がつきますが」
ずいぶんと辛辣じゃないか、と思いつつも何も返さなかった。それについてあまり意義を感じなかったし、そもそも言い訳する気もなかった。死んでもいい、差し違えてもいい、なんてことは考えていない。けれどそうしないという反証も無い。
取り出された重力が体を浮かす。充分に温まったエンジンが吸気を始める。仄暗い基地内はなぜか神秘的だ。醜く改修された宇宙船が浮いている姿は、痛めつけられたキリストの姿に似ているように思った。何もかもが彼との思い出の中にあるもので出来ている様に思えて、嫌になってくる。
緩やかに上昇して基地を出る。スピードを上げて上空へ。Gが掛かるとやや引っ掛かるような感覚がある。マルファスの調整による部分もあるが、身体の状態が最も影響しているのだろう。少し前まで子供に遊ばれた昆虫のような状態だった。しかし今は動ける。それで十分だ。
「何度だって言うよ。決着を付けさえすればいい」
「私にはそれが、死ぬための方便としか解釈できないのです。どうか死なないでください」
「どうして?」
もし死んだとして、何か不都合があるのだろうか。分からない。その”何か”を人間生活の中にあるものと捉えたなら、きっと何も残らない。想像出来るのはばらばらになった僕の体だけだ。
「貴方が居ない時が来るのが怖いです。いつも、来るべきでない時が来るのを想像しています。そしてそれが、間近に来ているように感じるのです」
「茶化すような事は言えないか。でもそれは間違いだ。きっと僕はいつも通り、みっともなく生にしがみつくだろう」
「そうかもしれません。しかしながら、同時に貴方は他人の為にならと犠牲になれる人間です」
褒められているのか貶されているのか分からなかった。僕はそうは思わないが。もしそうだったなら、もっと良い人間になれていただろう。
晴天の下にデーモンが数十機、編隊を組んで緩やかに飛行していた。僕は事前に決められた位置につく。ダイヤモンドの先頭に。両翼が風に揺られた。鮮烈な光にさらされると味方たちの境遇が見て取れる。塗装は所々剥げていて、装甲の表面に光が当たるときらきら光る。僕ほどでは無いにせよすぐに視認されるだろう。
レーダーに目を凝らして周辺の索敵を行う。こんなことをしているのは航空優勢をとり防衛を楽にするためだ。一応は先に場所を取っていた方が楽なので、現代の死ににくくなった航空機たちがいる環境でも有効になる。もっとも、さらに死ににくくなった奴らにはどうだか分からないけど。
何分経ったのか分からないけど、少ししたあと。ディスプレイに多数の影が映った。その箇所は重力レーダーでは無くFCS。対空ミサイル。
「敵の攻撃を確認、対応する」
『了解。各員戦闘に備えよ』
オープンチャンネルに繋いでそれを伝える。周りの機体たちが一斉に銃器を構える。僕も同じようにSARの引き金に指を添えておく。あと少しの運動は必要でない。
FCSの中、やや小さな円周の中にミサイルが入ると視界の端にイエスとノーが浮かぶ。腰部にある物理ボタンを押して確定。確実な操作手段は物理的なものに限る。すると人工筋肉が規則的な緊張をはじめ、銃口を雲を越えた先にあるものに向ける。
標的はおそらくSAM。もしかするとデーモンに載せるスティンガーなどをそのまま撃ってきている可能性もあるが、この距離になるとあまり分からない。僕よりも、僕たちが撃つ銃弾よりもずっと速いそれを無効化できるのはデーモンの数多い多い利点の一つだ。
FCSが捉えたミサイルの情報に合わせて筋肉が緊張と弛緩を繰り返す。引き金が繰り返し下されて散発的に銃弾が放たれる。重くて大きい12.7×99mmNATO弾は比較的そういう用途に向いている。兵士としてではなく兵器としてデーモンが使われている理由はこれだろうか。標的として選ぶにはやけに小さいし、対空もやや出来る。
指に張り巡らされた人工筋肉は包帯によく似ている。どうやってそれを作ったか知っている。誰かの遺伝子を使った筋肉を、幹細胞培養技術によって引き伸ばして構成したシートを作る。それの見た目は赤い部分と白い部分が混在していて、店頭に並ぶ高い肉に似ている。
あとはそれを切って用途ごとの薬品で調整すれば完成だ。考えてみれば、何もかもは誰かの犠牲の上に成り立つ。デーモンも、僕も、あとの全ても。全部が巨大で複雑な流れの中にいて身動き出来ない。
どうしようもないことなんだ。自分以外のことについて考えることは時間の無駄でしかなかったのではないか。自己矛盾だ。まさか僕が何か変えられるとでも……
遠方で爆風が散り舞う。管理された銃弾によって、そして誰かのアウターシールドに当たって。どうやら味方のひとりがうまくやれなかったようだった。やはり手作業では何処までも限界があるのだ。徐々に僕たちの方へとFCSの影が迫ってくるのが分かる。
「各員散会。ミサイルから身を守れ」
ディスペンサーからフレアを散布する。ミサイルの動きがやや乱れた所をひとりでにライフルが狙う。いくつか爆発が起きても、平面状の動点は一向に減る気配はない。SAMを使った飽和攻撃。彼らも随分本気で、かつ切羽詰まっているようだ。
こんな基地を逃したところで大勢にまるで関係しない。それはこちら側だから冷笑していられるのかもしれないが、その実知るチャンスはいくらでもあった。裏切りものがたくさん出ているのだから、その情報を伝達していればこんなことをする理由は無いと判断できただろう。
攻撃を避けていると考えが巡る。デーモンの運動性能が高いおかげで直撃はほとんど免れ、近接信管による爆風もアウターシールドには効果が薄い。まあ、それでも上手い食らい方をしなければ撃墜されるのだが。バレルロールで平行に移動してスプリットで急激に方向を変える。
マニューバをデーモンが行えば、本当の飛行機のそれよりもずっと簡単で鋭い。ジェットエンジンだけでなく重力も使えるし、何より軽いのだ。物理学的には重いものを強い力で押すよりも軽いものを弱く押す方が良いらしい。
ミサイルの奔流が幾らか弱まり、僕も運動を弱める。耳にさわるリキベントのあぶく。おそらく火星軍も混乱している。やはり過剰にリソースを注ぎ込んででいないか。何の橋頭堡にもならなく、重要人物や人道的な問題が存在しているわけでもない。やはり相当に参っているのか。それとも気に入らないか、か。
確かに僕たちは火星の中でうろちょろしていて、目障りなことこの上無い。そして敵対企業(つまり殆ど全ての企業)の戦力に比べて叩きやすい位置にいた。まあ、もっと人間らしくくだらないことでもあるのかもしれない。
ただそれでいい。大義や損得を抜きにした、もう理由なんて誰にも分からなくなった戦闘。倫理も感情も捨てていい。何もかもが無くなって銃だけを握り、勝者と敗者に分かれる。
何も考えないでいたい。本当にロボットになってしまい、僕を締め付ける何もかもを感じずにいたい。
ミサイルの弾幕が終わる。ドットの細かなダイヤモンドから何人か溢れたが、それでも部隊壊滅には程遠い。重力反応を確認。デーモンが来る。
遠くの空に嵐が浮かぶ。描写はそれ以外のしようがない。まるで完成した絵に間違った絵の具を垂らしたように、さっきまで晴天だった場所に突然として赤錆色の嵐ができた。僕が見た嵐のうち、幾つがあれだったのだろうか?
巨大なデーモン。なぜか悪という言葉を使いたくなるくらいに倫理を無視している機体。それが空の向こうから何機も迫って来る。ただ、何故かなにも思わなかった。恐れによる思考停止ではない。感情抑制がやけに効いている。ああやっと完璧な兵士に戻れたのだと僕は思う。
「S方面部隊、僕に続け」
いつもならこんなこと実行するだろうか?必要ならやっただろうな。だから今そうしているのだろう。
銀色の翼が大気を裂く。旋風に身を揉まれながら加速を始める。どこかでぶちぶちとした音を鳴らしながら、音を超えてこの空に満ちた気体の中を進む。
マルファスは人を数回殺せる機体から、人を殺す機体になった。ここで指しているのは搭乗者のことだ。そして戦闘中はリキベントシステムと痛覚を無くしているおかげで死ぬ事はない。後のことは分からない。
銃弾の雨が降る。もはやそれを発射している銃器を特定するのも億劫になるほどのさなかを最大戦速で切り抜けていく。あまり複雑な軌道を描いている暇はない。しかし基礎的なマニューバを繰り返しているだけでも銃弾はアウターシールドを掠めていくだけだ。オフュークスは得意げだったが、やはり機体の性能が全てではないのか。
それでも時間を掛ければ掛けるだけ不利になる。後列の友軍反応がいくつか消滅する。銃弾によってすりつぶされてしまったのだろう。僕たちが唯一勝っているものといえば運動性。巨大なデーモンの出力は常軌を逸しているが、巨体と重量ゆえに重力下では格闘戦で不利になる。彼らと僕たちは戦車とベスパのようなものだ。
だからこのやり方しかない。僕は下げていた銃口を戻しながら簡易信号を打つ。今僕を支えている晴天に突き動かされ、引き金を下ろす。銃口から放たれた弾丸はアウターシールドに到達してグリア粒子の繋がりを切り裂く。巨大なデーモンのひとつ、そのアウターシールドが減衰する。速度は緩めずにそのまま通り過ぎる。
簡易信号に従った友軍たちは銃撃を行う。それと同時に移動。そんなことが出来るのか、とは一瞬感じる。だが事実として生き残っている人間が殆どだった。僕の後ろに着いていれば空気抵抗を減らして、普段よりかはよく動けるようになる。それ以外のものは死んでいくと、それだけだ。
くるりと空中でまわる。アウターシールドの間隙に銃口を向けて弾丸をひたすらに放つ。後ろからも同じようにしてくれる。ただ戦っていただけの人間を好ましく思うのはよく分からないが、そこはそれ。僕だって同じようにしただろう。
数人の一斉攻撃を受けて巨大なデーモンの防壁が破られる。人一人がようやく通れるかもしれない、ぐらいの隙間だ。数十秒ものあいだ集中砲火を受けてしてもそれだけだ。僕たちはもう両手の指で数えられる程度に数を減らした。たかがそれだけだ。僕は彼我の軌道が重なる瞬間を本能的に感じる。
複雑に描いていた線を止める。気に入らない絵を壊すように無軌道な直線を描く。マガジンを落として新たなものを素早く挿し入れる。思考が反映する前に行動だけが実行される。引き金を下ろす。アウターシールドに空いた穴を弾丸が押しとどめる。
ナイフを片手で引き抜く。銃口を下げて体当たりするように刃先を向ける。巨大なデーモンが速度を上げる。身体の制御に向けていた重力を進行方向に集中させる。引き裂かれるような感覚を痛み無く知覚して、それでもだ。マルファスの速度がさらに上がる。
片手での乱雑な銃撃をやめた。もうそんな距離では無かったからだ。一瞬ではあるが、僕の速度が相手を上回った。グリア粒子を突き抜けて、ヒドラジンの燃焼に似たアフターバーナーの中へ。爆炎の中でひたすらに手元の刃物を刺し入れる。きっさきが金属に触れる感触を情報として受け取る。
鯨を殺すのはこんな感じだろうか。跳ね回り捻り狂う、命かどうかも分からないものに刃を突き立てる。
SARに残った弾丸を余さず吐き出す。どこに何があるのかは分からないけど多分当たっただろう。燃料タンクに引火する前にそれから離れる。そいつの体を蹴って離脱すると、赤ん坊の鳴き声に似た断末魔が響いた。何も感じない。彼らはそうではないみたいだが。
周りにいた巨大なデーモンたちの動きが乱れる。あの時は分からなかったけど、今になれば理解できる。赤子のひとりが泣けばそれが伝染していく。それと同じなのだろう。今際の際の精神が、重力か空間か僕の知らない何かかの上に乗って伝播してしまう高出力を担保する副作用として不安定さを手に入れなければならないのか。船に影響が出ていないと良いが。
腕にべっとりとついたオイルを振って落とす。あいつらの決定的な弱点はこれだ。戦いを終わらせるためにはこれしかない。マガジンを変えて再装填。振り返って見た味方の動きには迷いはない。そう、これ以外は無い。僕たちが粉々になるか奴らをそうさせるか。
頭の中がすっきりしている。この場所は明瞭だ。頭の中を削られるようなストレスもない。
あとはあなたさえこの場所から居なくなれば完璧だ。
重力反応がひとつ増える。簡易信号を出して指揮は他の者がするように伝える。やり方は教えた。今の状態なら、後は数珠繋ぎに殺せる筈だ。僕は僕の決着を付ける。僕を作っていた全てに、その遺伝子に。
砂嵐が切れて晴天が現れる。巨大なデーモンの一時的な気絶がそうさせたのだろうか。切れ間から除く空はひどく青く、太陽はほとんど中天に登っていた。赤黒い色をしたビフロンス。腕の中にSAR-70。腰部ラックにスマートランチャー。
飛行中の僅かな動作、所作からその悪魔が彼であることが分かる。トリガーとグリップに沿わせた指、空の中にある重力で支えられた足。その角度や開き具合は記憶の中の光と同じだ。
「トリチェリ……」
赤いあなたと僕だけが光を受けている。合図は無い。僕たちのぎこちなさとは裏腹に、訓練はいつだって滑らかだった。それと同じようにどちらとも知れずにスピードを上げていった。




