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燃えるような刻の中で、青竜の歌を詠む  作者: 夜さらば
物語の始まり
7/12

07.〈過去〉幼女の挑発

「カゼリーアは、魔人族です!」


 賢者ノーサ・スシイの思わぬ発言に、国王ルファーザを守る二人の近衛兵は、脊髄反射的(せきずいはんしゃてき)に身構えた。しかし、身構えてみたものの、どう対処すればいいのか分からず困惑していた。

 だいたい、賢者たちを除いて、この場にいる全員が――ルファーザを含め、魔人族と対面するのは初めての経験なのだ。

 もし、ノーサが幼い従者の正体を明かしていなければ、誰一人として、彼女が魔人族だとは(つゆ)にも思わなかっただろう。頭に生えた二本の角を目にしても、亜人族に属する辺境(へんきょう)の有角族くらいにしか思わなかったに違いない。


 貴族の一人が立ち上がると、ここぞとばかりにノーサに噛みついた。先刻、ノーサに反発し、国王にたしなめられた男だ。

「ノーサ様!幼い子供とは言え、王城に魔人族を連れてくるなど、(もっ)ての外ですぞ」

 ノーサが口を開く前に、カゼリーアが答えた。

「文句があるなら、お前のその微々たる魔法力で、わたしをここから追い出してみたらどうだ。できるものならな」

「何だと、このクソガキが!調子に乗ひひゃや……!?」

 突然、貴族は呂律(ろれつ)が廻らなくなり、両手で口を押さえて苦しみ出した。

「アハハハ……。人間の貴族は、舌を凍らせると面白さが倍増するのだな。興味深い発見をした」

 数名の貴族が激怒して立ち上がった。しかし、カゼリーアは負けていなかった。

「次は、どの貴族で試してみるかな。そうだ!舌ではなく、下についているものをカチンコチンに凍らせてやろう。まずは…………お前からだ!」

 貴族たちは震え上がった。慌てて席を離れ、我先に扉の方へ駆け込んだ。

「アハハハ…………」

 カゼリーアの無邪気な笑い声が響き渡った。


 賢者アーカインは、顔には出さないものの、この状況を大いに楽しんでいた。狼狽(ろうばい)する貴族たちの無様(ぶざま)な姿を見て、彼らに対する鬱憤(うっぷん)をようやく晴らすことができたのだ。

 だが、このまま放置するわけにはいかない。彼は腰を上げた。

「皆さん、落ち着いて下さい。カゼリーアさんも、お止めなさい」

「承知しました。アーカイン様」

 カゼリーアは意外なほど素直(すなお)に応じた。


 ノーサも立ち上がり、カゼリーアの非礼を謝罪した。

 カゼリーアは、賢者たちが深々と頭を下げているのを見ると、それを真似てペコリと頭を下げた。


「まぁ、良い。気に病む必要はないぞ」

 ルファーザは冷静だった。その表情から、怒りや苛立(いらだ)ちは感じられなかった。少なくとも、カゼリーアを罰する気など皆無(かいむ)であることが見て取れた。一国の主なら当然の判断である。国王の勅令(ちょくれい)で、魔人族の幼い子供を処罰するなんて、人類に攻め入る大義名分(たいぎめいぶん)を魔人族に与えるようなものだ。そんな選択は有り得ない。二人の近衛兵は、ルフィーザの言葉を聞いて胸を()で下ろした。


 結局、貴族の三分の二は、席に戻ることはなかった。

 それでも会議は継続され、ノーサによって、カゼリーアの魔法を攻撃の要とした戦略について語られた。その間、貴族たちの反発はなかった。午後九時半を回ったところで、ようやく会議は終了した。


 賢者たちは、王城の客室で一夜を過ごすことになった。カゼリーアは、豪華な食事と、ふかふかのベッドに大層ご満悦(まんえつ)だった。


 翌朝、王城を後にした賢者一行は、城下町でアーカインと別れ、帰途(きと)に就いた。一方、アーカインは、町外れにある『ギガスタイヴ』調査隊長ルグスンの自宅へと向かった。見舞いがてら、次の任務に参加可能か見極めるのが目的だった。彼の症状も気になるところだ。単なる腰痛とは到底(とうてい)思えない。


 前方の空には分厚い雨雲が広がっている。アーカインは、ポケットから手書きの地図を取り出し、改めて彼の家の場所を確認すると、早足で歩き出した。


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