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燃えるような刻の中で、青竜の歌を詠む  作者: 夜さらば
物語の始まり
5/12

05.〈過去〉賢者の切り札

 会議は、十分間の休憩(きゅうけい)を挟んで再開された。

 再開後の会議では、賢者ノーサ・スシイによって、『ギガスタイヴ』破壊任務のメンバー編成に関する、より具体的な提案がなされた。


「今回の任務で、大洞窟の最深部に向かうメンバーは、総勢十六名とします。その中には、前回の調査隊員八名も含まれます」


(つまり、メンバーの半数は、魔法力の無い少数派が占めることになる)


 賢者アーカイン・ミスイールは、ノーサの第一声に対する貴族席の反応を(うかが)う。案の定、不満の色を隠し切れない者が、数名ほど見て取れた。


(やれやれだ……)


 今回の任務において、魔法力を有することは、ハンディキャップにしかなり得ない。どうして、この者たちは、それが理解できないのだろうか。高度な魔法を操ってきたプライドがそうさせるのか?

 魔封じの道具の影響で、どの道、魔法は使えない。そればかりか、変質したマナの濃度が上がれば、たちまち身動きさえ取れなくなる。

 そのような者たちを、メンバーに選出するわけがないだろう。


 ノーサもまた、一部の貴族が抱いている反発心を感じ取ってはいた。だが、ノーサにとって、それは想定済みだった。貴族たちの、魔法力を持たない少数派に対する差別意識の根強さや、強い魔法を扱える選民意識の強さは、前回の会議で目の当たりにしていたからだ。


 ノーサは貴族のことなど気に留める様子もなく、粛々(しゅくしゅく)と話を続ける。


「――ただし、調査隊長のルグスン氏が、病により訓練に参加できない場合、その代わりとして一名、魔法力の無い少数派から補充することとします」


 貴族の一人が反論した。

「賢者様。それで、どうやって装置を破壊すると言うのです?少数派の連中に、戦槌(せんつい)でも持たせるおつもりですか?強力な攻撃魔法を使わずに、装置を破壊できるとは到底思えません」


 ノーサは冷静に答える。

「基本的に、少数派の八名には、『ギガスタイヴ』の攻撃に加わってもらうつもりはありません。ある者の護衛に(てっ)してもらいます」


 ノーサは一息つくと、テーブルの上の調査報告書を見つめながら、話を続けた。

「『ギガスタイヴ』を中心に、半径約十メートルは、黒い液状物質が堆積(たいせき)しています。その中では、足を取られ、敏捷(しゅんびん)さは(そこ)なわれます。そのような状況下では、近接攻撃は避けるべきでしょう」


 今一つ(まと)を得ないノーサの返答に、貴族の口調は荒々しさを増した。

「賢者様。いいですか。魔法は使えない。近接攻撃も駄目。それじゃ、一体誰が装置を攻撃すると言うんですか?いっそ、爆弾でも仕掛けて、大洞窟ごと破壊した方がいいんじゃないですか?」


 国王ルファーザが割って入る。

「それで『ギガスタイヴ』が停止してくれればいいんだがな。だが、恐らくはそうならんだろうし、そうならなかった時が最悪だ。大洞窟を崩してしまったら、『ギガスタイヴ』に近づく手段を失ってしまうんだぞ」

 貴族はぐうの音も出ない様子で、頭を下げた。


 ノーサは、ゆっくりと立ち上がった。

「『ギガスタイヴ』は、魔法で攻撃します」

 

 貴族席がどよめいた。

 貴族の一人は、すぐに疑問を投げかけた。

「魔法でって……。人類は皆、魔法が使えないんじゃなかったんですか?賢者様、一体どういうことですか?」


「まず、残りのメンバー八名のうち七名は、亜人街で暮らすハーフエルフたちの中から選出したいと考えております」


「ハーフエルフだと!」

 貴族たちのどよめきは、より一層高まった。


「ハーフエルフたちは、二体のマナ供給装置から魔法力を得ています。『ギガスタイヴ』と、亜人専用のマナ供給装置『ブーバ』です。もちろん、ハーフエルフたちも、『ギガスタイヴ』の変質したマナの影響を受けており、魔封じの道具は必要不可欠です。しかし、変質したマナの影響さえ受けなければ、『ブーバ』から得られるマナによって、魔法の使用が可能です」


 アーカインが付け加える。

「現在、ハーフエルフ用に、『ギガスタイヴ』の影響だけを阻害(そがい)する魔封じの道具を製作しています」


 ルファーザはノーサに尋ねた。

「それでノーサよ。残りの一名は誰だ」


「……アーカインさん。呼んできて下さい」



 応接間の扉の前で、ノーサの従者カゼリーアは、あれから微動だにせず、その名が呼ばれるのを待ち続けている。扉の両脇に立つ二人の近衛兵は、この小さな従者に違和感を覚えていた。


(この子、まだ幼いのに、この落ち着きようは一体何なんだ?)


 近衛兵の一人は、もう一方の近衛兵に囁いた。

「女の子だな」

「やはりそうだよな……」

「俺にも、同じ年頃の娘がいるが、腕白盛(わんぱくざか)りでな。いつも母親に(しか)られてるよ」

「それなら、娘さんを賢者たちに預けてみたらどうだ」

「それにしても、どうして賢者たちは、こんな幼女をここに連れてきたんだ」

「俺に聞くなよ。とにかく、トラブルだけはごめんだぞ」


 沈黙が続く…………。


 居心地の悪さに堪りかねた近衛兵の一人が、カゼリーアにそっと話しかけた。


「お嬢ちゃん。緊張しているのかい。もう少しリラックスしてもいいんだよ」


「……」

 しかし、反応は無かった。

 それでも近衛兵は、諦めずに会話を試みる。


「何なら、椅子(いす)を持ってこようか?」


「…………」

 やはり、反応は無かった。


 再び沈黙が続く。ますます気まずい空気が流れる。


 近衛兵の一人が、意を決してカゼリーアに近づく。そして、腰を落として、フードの下に隠された顔を覗き込もうとした、その時である。


「下がれ。愚か者!」

 カゼリーアの威厳に満ちた声が、近衛兵の脳裏に響き渡った。


「ひっ!」


 底知れぬ恐怖が、近衛兵の全身を駆け巡った。彼は思わず尻もちをついてしまった。もう一人の近衛兵が慌てて駆け寄る。


「な……何やってるんだよ!トラブルはごめんだと言っただろう」

「あ……ああ。すまない」


 彼は、もう一人の近衛兵の手を貸りて立ち上がると、すぐに視線をカゼリーアに向けた。彼女は微動だにしていなかった。


 その時である。応接間の扉が開き、そこに、賢者アーカインの姿が現れた。

 扉から漏れ出た光が、薄暗い通路で佇むカゼリーアを照らし出した。


「カゼリーアさん。お待たせしました。出番ですよ」

「承知しました。アーカイン様」


 カゼリーアは、まるで何事も無かったかのように、二人の近衛兵の間を素通りし、応接間の中に消えていった。

 扉が閉まると、近衛兵は、もう一人の近衛兵に向かって、顔を強張らせながら呟いた。


「あれは、人間じゃなかった……」



 アーカインに連れられて、カゼリーアが応接間に現れた。カゼリーアは、ルファーザに一礼すると、ノーサのところへ歩み寄った。


 ルファーザは少々驚いた様子だった。

「ノーサよ。このような幼い子供を、今回の危険な任務に就かせると申すか?」


「その通りでございます。この者こそ、残りのメンバーの一人、私の弟子カゼリーアです」


 カゼリーアはローブを脱ぎ捨て、顔を上げる。

 褐色(かっしょく)の肌に深紅の瞳。美しい金髪。そして、その頭部には、二本の小さな角があった。


「カゼリーアは、魔人族です!」


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