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燃えるような刻の中で、青竜の歌を詠む  作者: 夜さらば
物語の始まり
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04.〈現在〉運命の出会い

 フィーナ・コハクは、街路樹の植え込みの上をひらひらと舞う(ちょう)を目で追いながら、並んで歩くサラ・キイスにそれとなく尋ねた。


「ねぇ、サラ……。ずっと気になっていたんだけどさ」

「どうしたのフィーナちゃん。改まっちゃって」

「べ……別に、大したことじゃないんだ。ええとね。サラの成績なら、火系呼舞科じゃなくても良かったんじゃない?氷系だって、余裕で合格できたでしょ」

「余裕ってほどじゃないよ。氷系の実技は苦手だったし」

「うちらの中学で、ミス高を志望した生徒は、わたしを除いてみんな氷系呼舞科を選択したじゃない。サラだって、本当は、みんなと同じ氷系呼舞科を受験したかったんじゃないのかなって……。わたしに気を遣って、火系呼舞科にしたってことはないよね?」

「えぇー!そんなこと気にしてたの?フィーナちゃんらしくないよ」

「だって、時代は今、氷系呼舞一色でしょ。呼舞士を目指すにしても、進学するにしても、氷系呼舞科を選んだ方が圧倒的に有利だよね。わたしと違って、サラには火系を選ぶ理由がないと思ったから」


「確かに、フィーナちゃんの影響がなかったと言ったら、嘘になるかもね」

 サラは空を見上げる。

「フィーナちゃんと初めて会った時から、ずっと『おじいちゃんの青い竜のお話』を聞かされているんだよ。もう何千回聞いたか分からないよ」

「いくら何でも、何千回は大げさだって」

「フィーナちゃん覚えてる?小学二年生の時からだよ。それだけ何度も聞かされたら、影響を受けない方がおかしいよ」

「つまり、わたしからの影響はあっても、気を遣ってはいないんだよね?」

「ないない。たとえ、フィーナちゃんがこの世界に存在していなかったとしても、わたしは氷系呼舞科を選んでなかったと思うな。だってわたし、冷え性なんだよね」

「なによそれ。サラ、変なの」


「そう言えばさぁ。フィーナちゃん、いつも楽しそうに話してたよね。腕を炎の竜に見立てて、ぶんぶんと振り回してさ。あははは……」

「あ~!笑ったなぁ。サラ、酷いよぉ~。もう少し気を遣え~!」

「ごめん。ごめん。思い出したら、おかしくなっちゃって」


(『おじいちゃんの青い竜のお話』か……)


 あの日の光景は、今も脳裏(のうり)に焼き付いている。

 父に連れられて行った、今は亡き祖父が出場した『呼舞大会』で目の当たりにした、あ+の奇跡のことを……。


 祖父が操る炎の竜が、力強く宙を舞う。

 やがて、燃え盛る炎の色は、突如、赤から青へと変化を()げる。

 まさに、奇跡の瞬間だった。

 青き竜は、天へと昇っていく。


 その神々しい姿に、会場の誰もが息をのんだ。

 祖父の約一分半の演舞は、すべての観客を魅了した。


 演舞の終了と共にまき起こる大歓声。

 鳴り止まぬ拍手。


 観客は総立ちとなる。

 自分も、いつの間にか立ち上がっていた。


 涙が溢れ、止まらなかった。

 そんな私の頭を、傍らにいた父は優しくなでてくれた。

 父の目にも、涙が浮かんでいた。


「お父さん。わたし、おじいちゃんみたいな呼舞士になりたい」


 いつか必ず、青い竜を操る火系呼舞士になると決意した瞬間だった。



「――――赤章いないよねぇ」


 フィーナは、回想に浸っていたせいで、サラの話を聞いていなかった。

「えっと……。ごめん。サラ、何の話?」

「周りを見てみて。氷系呼舞科の生徒ばかりだよね」

「しょうがないよねぇ。氷系は一学年四クラスなのに、火系はたった一クラスだもん。定員割れにならなかっただけでもマシじゃない?」


 突然、サラはフィーナに寄り添うと、耳元で(ささや)いた。

「フィーナちゃん、振り返ってみて!後ろに赤章の男子がいるよ。新入生かも?」


 フィーナは、素知らぬ顔で振り返ってみた。十分にさり気なさを装ったつもりだ。

 すると、フィーナたちから五、六メートル離れたところに、赤章をつけた男子生徒の姿があった。彼が新入生であることは、着慣れていない制服や、下ろし立てで光沢感を持った(かばん)から容易に想像が付いた。


 サラは嬉しそうだ。

「サラって、ああいう男子が好みのタイプだったんだ」

 サラは慌てた様子で否定する。

「ち……違うってば!赤章を発見できたのが嬉しかったの!」

「はいはい、そうですか。それはいいんだけとさ。彼って、何だか調子が悪そうじゃない?ふらふらしているよ」


 二人は、再度、恐る恐る振り返ってみる。やはり、彼は足元がふらついて、真っすぐ歩けない様子だ。


「眠そうな目をしてるね。睡眠不足かな?」

「実は、酔っ払っていたりして」

「入学初日に酔っ払って登校する高校生なんていないよ!フィーナちゃん、笑わせないでよ」


 その時である。赤章の男子生徒は、右の塀から張り出した太い木の枝に、右頬を打ちつけたのだ!


「痛てぇ……」


 突然の衝撃にすっかり目を覚ました彼は、手で右頬を押さえながら、木の枝を睨みつけた。

 一部始終を目撃していたフィーナとサラは、思わず立ち止まってしまった。彼は、目の前でこちらを見つめている二人の存在に気が付いた。


 二人は同時に思った。

(ま……まずい。何か言わなきゃ)


 サラが口を開く。

「だ……大丈夫……ですか?」


「えっ?ああ。これぐらい平気さ。全然平気。変なところを見られちゃったな」


 彼の後ろを歩いていた青章の女子生徒たちが、笑いをこらえながら彼を追い抜いていく。

 フィーナが尋ねる。

「具合が悪かったの?」

「いやぁ、春の陽気のせいですっかり眠くなっちゃってさぁ。半分寝ながら歩いていたら、この有り様ってわけ」


 フィーナは思わず拍子抜けしてしまった。

(おいおい。初登校なんだし、もうちょっと緊張感を持とうよ……)


「あなた、炎系呼舞科の新入生だよね?」

「おう。そうだよ」


 そこへ、サラが割って入る。

「それじゃ、わたしたちと同じクラスね。わたしはサラ・キイス。よろしくね。それとこちらは……」

「フィーナよ。フィーナ・コハク。よろしく」

「俺は、リョウ・アーキリムだ。二人ともよろしく」


 後に渦中(かちゅう)の人物となる、リョウ・アーキリムの第一印象は、フィーナにとって、決して良いものではなかった。

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