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燃えるような刻の中で、青竜の歌を詠む  作者: 夜さらば
物語の始まり
3/12

03.〈過去〉賢者の苦悩

 国王ルファーザの決断から二日後、賢者たちに再び召集(しょうしゅう)がかかる。

 賢者ノーサ・スシイは、先日の会議にも参加した二人の賢者の他に、今回は、黒のローブを身にまとった幼い子供を従えて、王城へと(おもむ)いた。


 賢者の一行は、第一応接間の両開きの扉の前で立ち止まる。時刻は、すでに午後六時を回っていた。季節は晩秋。日も短くなり、辺りはたいぶ薄暗くなっている。


 扉の両脇には、近衛兵が立っていた。ノーサの従者である子供は、近衛兵を警戒してか、顔を隠すように下を向いた。周囲の薄暗さも手伝って、近衛兵たちには、子供の表情を(うかが)うことはできなかった。


 ノーサは、小さな従者に目を向けると、腰を落としてから静かに命じた。

「カゼリーア。あなたは、少しの間、ここで大人しくしているんですよ」

「はい。かしこまりました。大賢者様」


 応接間の扉が、きしみ音を立てながら開いた。


 賢者たちは、室内に向けて軽く一礼した後に、その中へと足を踏み入れた。

 ちょうど、近衛隊長と貴族たちの議論が終わったところだ。近衛隊長は、賢者たちと入れ違いに、扉から出ていった。

 きっと、魔封じの道具を巡る騒動の件だろうと、ノーサは思った。


(亜人族にでも外注すれば、すぐにても供給不足は解消されるだろう。議論するまでもない)


 ノーサは、貴族席に目を向ける。

 先日の会議では、お目にかかれなかった顔がいくつかある。どの貴族も、身体のいたるところに、魔封じの装飾品を身につけていた。まるで、その数を競い合っているかのようだ。

 賢者ノーサは溜め息をついた。


 賢者アーカイン・ミスイールは、すぐにルグスンの姿がないことに気が付いた。アーカインは本日もまた、ルグスンをサポートするように、ノーサから(おおせ)せ付かっていた。


「……調査隊長か?彼は欠席だ。体調がすぐれないらしい」

 アーカインの様子を見て察したのか、ルファーザが言った。

「腰痛が悪化し、高熱を出したらしい。まだ若いのに、腰痛持ちとはのう」


「そうでしたか……」


 賢者ノーサが席に着く。

 テーブルの上には、『ギガスタイヴ』調査隊から上がった報告書が置かれている。早速、ノーサは報告書を手に取り、軽く目を通す。

 ふと、『ギガスタイヴ』の詳細なスケッチに目が留まる。

 細部までしっかりと描き込まれており、ノーサはいたく感心した。


(どうやら、調査隊の中に、絵心のある者がいたようだ〉


 ノーサは、報告書を再びテーブルの上に置くと、ルファーザにその感想を述べた。


「『ギガスタイヴ』調査隊の報告書から推測すると、大洞窟の内部に漂う変質したマナの濃度は、大気中のそれと、ほぼ変わらないと考えられます」


 ノーサは続ける。

「魔法力を有する者でも、魔封じの道具さえ所持していれば、とりあえず任務を遂行できるでしょう」


 それを聞いたルファーザは、身を乗り出してノーサに尋ねた。

「つまり、今回の『ギガスタイヴ』の破壊任務には、魔法力がない少数派に頼る必要はないと申すか?」


 ノーサは、慎重に答える。

「『ギガスタイヴ』を破壊する過程で、変質したマナが装置内部より流出する危険性があります。それによって、変質したマナの濃度が上昇すれば、いずれ、魔封じの道具の加護(かご)が得られなくなるでしょう。その事態に備える必要はあるかと」


 ルファーザは、左手で白い顎鬚(あごひげ)に触れながら、何やら考え込んでいる様子だ。

「……ならば、今回の任務にも、少数派には同行してもらう他あるまい」


「問題は、『ギガスタイヴ』の破壊です」

 と、ノーサ。


「これは、私の推測に過ぎませんが……、『ギガスタイヴ』は攻撃を受けたり、何らかの敵対行為に対して、防衛態勢に切り替わると考えております」


 国王の表情が(けわ)しくなる。

「つまり……反撃してくるのか?」


「ある古文書(こもんじょ)には、かつて、人類と魔人族の間で戦争が起きた際、人類は、魔人族専用のマナ供給装置『キキ』の破壊を画策(かくさく)したとの記述が残されています」

「ほう」

「ところが、計画は失敗に終わりました」


 ノーサは続ける。

古文書(こもんじょ)には、『キキ』自ら、天系魔法を発動して、人類を撃退したと記されています。もし、それが真実なら、『ギガスタイヴ』もまた、同等の機能を有していると考えるべきでしょう」


 貴族たちがざわめく。

 ルファーザの表情は、一層(けわ)しくなる。

「ノーサよ。天系魔法……そのようなものが、この世界に存在し得ると申すか?」


 伝説の天系魔法――術者の頭上に宇宙空間が広がり、流星群が降り注ぐ。ノーサは目を閉じて想像した。その恐るべき光景を……。果たして本当に、そのような魔法が存在するのだろうか?


「分かりません。もし、それが真実なら、我々が束になって掛かろうとも、『ギガスタイヴ』を破壊することは不可能でしょう」


 部屋の中は静まり返る。皆の表情が暗い。


 すると、貴族の一人が勢いよく立ち上がり、貴族としての品位を欠いた口調でノーサに尋ねた。

「こうなりゃ、天系魔法が真実じゃないことに、賭けるしかないんじゃないか?」


 確かにそうだ。ここでどんなに議論を重ねても、真実は明らかにならない。いたずらに不安を(あお)るだけだ。実際に、『ギガスタイヴ』に対峙(たいじ)してみないことには、結論は出ないのだから。


 ノーサは、気持ちを入れ替えるよう、自分自身に言い聞かせる。

「ここは、天系魔法が存在しない前提で、話を進めましょう」


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