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燃えるような刻の中で、青竜の歌を詠む  作者: 夜さらば
物語の始まり
2/12

02.〈現在〉入学式の朝

 四月。快晴。

 ここは、ソダルーム中西部に広がる大都市デュラレ。

 その北部、ミスリルリバー区にある中流階層の住宅地の一角に、ナザユ・コハクとその娘フィーナが暮らす、二階建ての小さな家がある。


 ナザユは、四年前に夫と離婚後、この街に越してきた。それ以来、娘と二人暮らしだ。生活は決して楽ではない。先の不安だってある。それでもナザユは、今の暮らしを大層気に入っていた。何より、フィーナが立派に育ってくれた!ナザユの母校であり名門のミスリルリバー呼舞高等学園にも、優秀な成績で合格してくれた。そして今日は、待ちに待ったフィーナの入学式だ。


 しかし、コハク家は、朝から大騒動だった。


「こら!フィーナ。早くしなさい。いつまでサラちゃんを待たせてるの!」

 二階の自室でソックスに足を通そうとしているフィーナの耳に、階下で待つ母ナザユの声が飛び込んでくる。

「ちょっと!急いでるんだから邪魔しないでよ」

「困った子ねぇ。入学初日から遅刻だけは止めてよ。恥ずかしい」

 それを聞いたフィーナの友人サラは、少しだけ動揺した様子で、

「だ……大丈夫です、フィーナちゃんのお母さん。まだまだ時間に余裕がありますから」

 と、フィーナのフォローに入る。

「サラちゃん、ごめんねぇ」

 フィーナの部屋にも、玄関で待つサラとナザユのやりとりが、(かすか)かに聞えてくる。


(準備完了っと!)


 フィーナは机の上から、ピカピカの(かばん)を手に取ると、鏡の前に立った。そこに、フィーナ自身の初々(ういうい)しい制服姿が映し出された。今日だけで何度、鏡の前に立ったことだろう。でも、今度こそ、部屋を出る前の最終チェックになるはず。


 フィーナは、自身の顔に目を配る。何となく前髪が気に入らない。そこで、前髪を手櫛(てぐし)で軽く整えようと試みるが、大して変わり映えしない。


(……しょうがない。これでいいかな)


 こうして最終チェックは完了した。

 背後に映る逆向きの時計は、午前八時五分を指していた。


「フィーナちゃんのお母さんも、ミス高の火系呼舞科卒ですよね?」

「そうよ。フィーナやサラちゃんの先輩にあたるわね。五年前が懐かしいわ」

 ナザユは二コリと微笑むと、サラの制服に取り付けられた、赤色の校章を見つめた。


 赤章――誇り高き、火系呼舞科の証。


(今はもう、すっかり失墜(しっつい)してしまったわね……)


「お待たせぇー」

 フィーナが早足で、階段を下りてきた。

「お母さん止めてよ。いくら何でも五年前はないでしょ。聞いているこっちが恥ずかしくなるよ」

 ナザユは、娘の制服姿を目にして、思わずグッときてしまった。しかし、顔には出さないよう努めた。何とか、娘には悟られずに済んだようだ。


「フィーナちゃんおはよう」

「サラ、おはよう。髪バッサリ切ったんだ。カワイイ!」

「ありがとう!特に理由は無かったんだけどね。思い切って、短くしちゃった」

「サラのショート初めて見たかも。すごく似会ってる。イメチェン大成功だよ!」


 ナザユは二人の会話に割って入る。

「フィーナ、忘れ物ない?いつまでも浮かれてちゃ駄目よ。しっかりしなさい」

「はいはい。それじゃ、行ってきまぁす」

「行ってらっしゃい。担任の先生には、きちんとご挨拶するのよ」


 庭で餌を探していた(すずめ)たちが、玄関から出てきた二人の姿を見るな否や、澄み渡る大空へと一斉に飛び立っていった。


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