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燃えるような刻の中で、青竜の歌を詠む  作者: 夜さらば
物語の始まり
1/12

01.〈過去〉国王の決断

 今から約六百年前。ソダルーム統一国家の国王ルファーザは、苦慮(くりょ)の末に、人類の未来を揺るがす大きな決断を下した。数か月もの間、人類を苦しめてきたマナ供給装置『ギガスタイヴ』の破壊を、ついに宣言したのである。


 この世界には、三体のマナ供給装置が存在する。それが、いつの時代に、何によって造り出されたのかは不明だ。賢者の間では、『観測人』と同じ時期に、偉大なる創造主によって造られたという説が有力視されているが、真相を知る(よし)もない。

 ただ一つ言えることは、はるか遠い昔、とても親切な誰かがマナ供給装置を造ってくれたお陰で、この世界の住人たち――人類や魔人族、亜人族が、魔法の恩恵に(あずか)れるのである。

 どの種族も、大気中に漂う天然のマナを、そのまま体内に取り込むことはできない。マナ供給装置は、天然のマナを蓄積して、三種族それぞれの体質に合うように化学変化を起こした上で、再び放出する役割を担っている。


 ところが、この世界に存在する三体のマナ供給装置のうちの一体――人類専用の『ギガスタイヴ』が、突如暴走した。その原因は誰にも分からない。他種族による陰謀なのか?それとも、単純に装置の経年劣化(けいねんれっか)による故障なのかもしれない。とにかく、異変は突然起こった。世界中の人類の多くが、連日連夜、高熱に浮かされて、日常生活さえままならない状況に立たされた。

 強い魔法を操れる者ほど、症状は深刻であった。逆に、魔法を扱えない少数派には、症状は現れなかった。

 賢者たちは、その症状から、人類の体に取り込まれるマナが変質していることを突き止めた。そして、彼らは王城に(おもむ)き、魔封じの道具や装飾品を国民に身につけさせることと、早急に『ギガスタイヴ』の調査を実施するよう、国王ルファーザに進言した。


 ルファーザによる国民に向けての声明により、一時的ではあるが、魔封じの道具を求めて騒動が各地で起こった。やがて、騒動も沈静化し、その頃には、変質したマナによる大混乱も、だいぶ落ち着きをみせた。

 無論、それは応急処置に過ぎない。人類が危機的状況にあることは、何一つ変わっていなかった。


 『ギガスタイヴ』の調査隊は、変質したマナの影響を受けなかった者、つまり、魔法を扱えない少数派の中から、八名選出された。調査隊は、ただちに、『ギガスタイヴ』の心臓部が眠る大陸北部の大洞窟へと向かった。


 二週間後、『ギガスタイヴ』調査隊は無事に帰還した。

 その日のうちに、王城の第一応接間にて、調査報告会が開かれることになった。その場に、国王ルファーザとその側近二名、貴族数名、賢者二名、そして調査隊からは、隊長である長い髭を蓄えた筋肉質の男ルグスンが出席した。

 賢者の一人、アーカイン・ミスイールは、このような場に不慣れなルグスンをサポートするために、彼のすぐ左隣の椅子に腰を下ろした。


「ええと。洞窟の最深部で、『ギガスタイヴ』は稼働していました。しかし、こちらからの呼びかけには応答がありませんでした。それと、装置の周囲には、黒い粘液がひざ下くらいまで堆積していました」


 ルグスンは、テーブルの上に無造作に置かれたショルダーバッグに手を伸ばす。

 黒い粘液が入った小瓶を取り出すと、サポート役のアーカインに、それを手渡した。

「鼻をつく強烈な臭いがするので、ここでは蓋を開けないで下さい」


 ルグスンは、さらに続ける。

「『ギガスタイヴ』の傍らには、『観測人』の姿がありました」

「『観測人』がいただと!」

 貴族の一人が立ち上がると、ルグスンの話を遮った。

 ルグスンが目を向けると、貴族は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべた。

 ルグスンは、思わず目を逸らしてしまった。


「オーガに匹敵する長身、銀色で腰まである頭髪、燃えるように紅い瞳、白く輝くローブを身にまとった姿から、一目で『ナンバースリー』だと確信しました」

 ルグスンは、その時の情景を思い浮かべながら語った。

「それで……、『ナンバースリー』は、我々に、『破壊の選択をしても、罪に問われることはない』とだけ告げました」


 すかさず、先ほどとは別の貴族の一人が、ルグスンを指差しながら、口を挟んできた。

「なんと!貴様らは、よりによって『観測人』と話したというのか?」

 貴族席がざわめき出す。

「も……もちろん、我々から話しかけておりません!」

 ルグスンは、慌てて付け加えた。

 この世界では、対価さえ支払えば、どんな望みも叶えてくれる『観測人』に干渉することは最大の禁忌(きんき)とされる。『観測人』に話しかけただけでも、重い罪に問われかねないのだ。


「相手は『観測人』の中でも、例外的に、この世界の住人に過干渉な『ナンバースリー』だ。今回は仕方あるまい」

 賢者アーカインが、溜息交じりに答えた。


 ルグスンは、貴族たちの冷たい視線に、いささか面喰っていた。こんな会議の場でも、貴族たちは、魔法を使えない者に対して見下した態度をとるのかと、驚きを禁じ得なかった。

 とにかく、挙げ足を取られるわけにはいかない。手に汗が(にじ)む。

(それにしても、どうして貴族たちは、『観測人』に過剰反応するんだ?これでは話が進まない……)


 貴族の一人が不満げな様子で、ルグスンに疑念をぶつけてきた。

「調査隊は、『観測人』に騙されたんじゃないのかね?奴が本当に、そのような発言をしたのかも疑わしいぞ」


 見るに見かねた賢者の一人、恐らく賢者の中で最年長のノーサ・スシイが、ルグスンに助け舟を出してくれた。

「今回の騒動が、『観測人』の仕業であるという噂が、まことしやかに(ささや)かれているらしい。何の根拠もない、実に愚かしい話だ」

 ノーサの苦言に、貴族たちは、ばつの悪そうな表情を浮かべる。

 ノーサは容赦なく口調を強めて言い放った。 

「『観測人』に、たとえ自身の生命、いや、魂を対価として差し出したとしても、人類に対して、一斉にこれほど甚大なダメージを与えることなどできるものか。『観測人』が関与していないことは明白なのだよ」


 しばし沈黙が続く……。


 部屋全体に気まずい雰囲気が漂う。

(はぁ……。もうこの場から逃げ出したい。これじゃ、洞窟の中の方がよっぽどマシだよ)


 そんな時、国王ルファーザがゆっくりと腰を上げて、沈黙を破った。

「貴族の中には、高い魔法力を有する者が多い。今回の事態で、最も多くの犠牲者を出したのは、他ならぬ貴族であった。命を取り留めたものの、高熱が続いた影響で失明した者や、未だ意識が戻らない者もいる。感情的になるのも多少は理解してやって欲しい」


 ルファーザは一息つくと、威厳(いげん)に満ちた口調で続けた。

「今回の『ギガスタイヴ』の調査は、我々人類の歴史において、重要な転換点であったのだろう。『観測人』が調査隊を待ち受けていたことがその証左だ。……三日後だ。三日後に、わしは決断を下すとしよう。調査隊長ルグスンよ。ご苦労であった」

 そう述べると、ルファーザはゆっくりとその場を後にした。


 それから三日後、国王ルファーザは、国民を前にして決断を下した。ルファーザの宣言によって、人類にとってのマナ供給装置『ギガスタイヴ』の破壊が決定したのである。

2020年2月16日追記 :

会議に参加した賢者の数を、三名から二名に変更しました。賢者の一人は、名前や言動の記述が一切なく、存在感が無さすぎます。そこで、最初から会議の場に存在しないことにしました。

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