08 領地(1)
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領地へ向かう日の朝。
朝食を取った後、マギーと共に玄関ホールに足を踏み入れると、領地へと運ぶ荷物が梱包され、山のように積まれていた。
作業は終わっていたが、ここまで荷物を運んでくれた者たちも何人か待機している。
手が空いている者が見送りのために残ってくれたようだ。
「おはよう」
「おはよう、ソフィア」
積まれている荷物を眺めていると、私に少し遅れて、家令と共に両親もやって来た。
後ろからやって来るのに気付いて振り向けば、二人とも笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはようございます」
「随分と多いな」
両親へと挨拶を返すと、お父様が私の隣で立ち止まり、周りを見回して呟いた。
呆れたような台詞だが、その表情は柔らかい。
「これを全部一緒に持っていくつもりか?」
「はい」
「相変わらず、私の娘は優秀らしい」
どことなく誇らしげに言うお父様に、思わず頬が緩む。
お父様が言うとおり、領地へと向かう際には玄関ホールに集められた荷物も一緒に魔法で転移させるつもりだ。
自分で言うのも何だけど、こんなことができるのは世界広しといえども、私くらいだろう。
そもそも、転移魔法は難しく、使える魔道師自体が少ない。
その上、転移魔法が使えると言っても、できることといえば自分一人か、または同じくらいのサイズの荷物を転移させるくらいだ。
宮廷魔道師団の師団長であるお父様ですら、一度に転移させられるのは自分以外に二人。
それでも、充分規格外である。
玄関ホールに集められた荷物を人数に換算すると、成人男性十五人分くらいになるだろうか。
それを一度に運べるのだから、【賢者】の【称号】を持つ者の規格外っぷりがよくわかる。
しかも、実際はもっと多くのものを運ぶこともできる。
ちなみに、私が十人以上の人員を転移魔法で運べるのは、我が家の機密情報だ。
知っているのは、我が家の人間だけで、王家すら知らない。
もちろん、情報統制は厳重に行われていて、使用人に至っては、王都にいる者も領地にいる者も、決して破ることのできない魔法契約で、機密保持契約が結ばれている。
破ることのできない契約といっても、情報を漏らそうとしたら体が動かなくなる程度のものだけど。
それに加えて、話そうとした記録がお父様の元へ飛んでいくくらいなので、割と穏当な契約だ。
「ソフィアがいなくなると、寂しくなるわね」
「偶には、こちらへも顔を出しますから」
寂しそうに言うお母様を宥めるが、それでもお母様は「色々片付けて、私も領地に帰ろうかしら」などと呟く。
神殿の方が大変なことになりそうなので、止めてあげて欲しい。
隣で聞いているお父様からも「転移魔法で通えば……」と、不穏な言葉が聞こえてくるが、それも止めてあげて欲しい。
とはいえ、いくらお父様でも、転移魔法で領地と王宮を毎日往復するのは難しいだろう。
転移魔法は魔力を大量に消費する。
しかも、運ぶものの大きさと、距離に比例して、消費される魔力も増える。
王都と領地の間の片道分だけで、お父様の保有魔力の大半が消費されるはずだ。
消費された魔力は時間を置けば回復するが、回復した分を今度は帰宅時の転移魔法で使わなければならない。
そうなると、お父様は転移魔法以外の魔法が使えなくなる。
流石に、それは国王陛下から待ったがかかるだろう。
両親がやらかした後の周りの苦労を思えば、ここは止めるべきだ。
どうやって二人を止めようかと悩んでいると、家令が咳払いをした。
家令を見ると、両親へと冷ややかな視線を向けた後、いつも無表情な彼にしては珍しく、私には優しげな笑顔を向けてくれた。
後は彼に任せてもいいようだ。
そんな家令に、「後はよろしく」と笑顔を返し、両親へと向き直る。
「お父様、お母様、そろそろ出発しようかと思います」
「あぁ。お前のことだから大丈夫だとは思うが、領地に着いたら連絡をするんだぞ」
「領地にいるダニエルにもよろしくね」
「わかりました」
ダニエルというのはお父様の弟の一人で、お父様の代わりに領地を治めてくれている人だ。
私にとっては叔父にあたる。
いつまでになるかはわからないが、暫くは領地でお世話になるのだ。
挨拶は必要だろう。
そのための付け届けも、領地へと送る荷物に含まれている。
別れを惜しむように、抱きしめてくれる両親から離れると、二人も私から距離を置いた。
それを合図に転移魔法を展開する。
転移の対象として自分と、一緒に領地へと行ってくれるマギー、そして積まれている荷物を指定し、領地にある領主の館の裏庭を行き先へと指定する。
そうして、「いってきます」という言葉と共に、魔法を発動した。
足元から眩い光が溢れ出し、私の視界は白一色となる。
次の瞬間には、目の前には、久しぶりに見る景色が広がっていた。
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お陰様で、週間と月間異世界転生/転移ランキングで1位となりました!
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