07 婚約破棄(6)
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どうやって、即日解消に至ったのか。
両親揃って、詳しくは教えてくれなかったので、こっそりと検索機能で調べた。
犯人はお母様だった。
お母様が神殿のお偉いさんと膝を詰めてお話し合いをし、後は陛下のサインを貰えばいいだけの書類を用意してもらっていた。
過去の事例であれば何でも検索できるなんて、検索機能、便利過ぎる。
しかも、検索結果には参加者の様子と話していた内容が文字と画像で表示されるので、お話し合いの様子は全て知ることができた。
あれがお話し合いと言っていいものかは微妙だ。
お話し合いの最中に、婚約解消が一段落つくまで娘の側にいたいから神殿には来ないとか言っていたしね。
しおらしいことを言っていても、お母様がそんな人ではないことは、付き合いの長い神殿の人たちには丸わかりだっただろう。
検索結果に表示された神殿の人たちの顔、真っ青になっていたもの。
どう見ても恫喝です、ありがとうございました。
ちなみに、お父様は王宮の方で動いてくれていた。
こちらは事前に宰相様とお話し合いをしてくれたらしい。
宰相様も国王陛下と同様に、ヘンリー殿下と私との婚約を続けたがっていたのだけど、最終的には折れた。
進展しないお話し合いに焦れたお父様が、伝家の宝刀を抜いたのだ。
婚約が破棄されないなら、アシュリー侯爵家当主と宮廷魔道師団の師団長の座を親戚に譲って、家族皆で領地に帰ると宰相様を脅し……、言っていた。
私一人がいなくなるのと、一家でいなくなるのとでは、周囲への影響度合いがまるで違う。
それ故に、宰相様はお父様の説得を諦めたようだ。
宰相様が折れるまでは少し時間がかかったけど、折れてからは話が早かった。
婚約解消の書類を神殿に作ってもらうために、色々なことを考えてくれたのは宰相様だ。
陛下が婚約の破棄ではなく解消を選ぶだろうとか、慰謝料の取り決めは別途行うようにした方が神殿も書類を作りやすいだろうとか、両親に教えてくれたのだ。
婚約解消のための書類の試案は、ほとんど宰相様が作ってくださった。
試案の内容については両親も確認して、問題がなかったので、そのまま神殿へと送られた。
それもあって、神殿が書類を作り終わるのも早かったというわけだ。
色々と御迷惑をおかけした宰相様には、いつか何らかの形で恩返ししよう。
「それにしても、思っていた以上に片が付くのが早かったです」
「お父様も私も頑張ったもの」
「ありがとうございます」
お父様とお母様、両方にお礼を言うと、二人とも嬉しそうに微笑んでくれた。
けれども、お母様はすぐに眉を下げた寂しそうな表情をした。
「それで、ソフィアは領地にはいつ行くつもりなのかしら?」
「そうですね、なるべく早く移動したいと思っているのですが……」
陛下たちが帰ってくるまでの間、今後の私の身の振り方についても両親と話し合った。
取り敢えず、婚約解消の手続きが済んだら、私は領地へと行くことになった。
両親とシリルが婚約解消に向けて動いた結果、今回の話が既に社交界で広まり始めているからだ。
シリルは私に瑕疵がないことを広めてくれているらしいのだけど、こういう話は片方に問題がなかったとしても、好き勝手に噂されるものだ。
恐らく、私も好奇の目に曝されるだろう。
それを不憫に思った両親から、噂が落ち着くまで王都を離れ、領地へと行くことを提案されたのだ。
何というか、婚約者の不貞に傷付いたので領地で療養するということらしい。
実際には傷付いていないけど、多少の心労はあったので、田舎でゆっくりと癒やしたい気持ちはあった。
シリルがいるから、当事者がいなくても、ヘンリー殿下に都合のいいような噂が出回る心配もないしね。
そういうわけで、最終的に両親の勧めに従って、領地へと行くことにした。
後のことは全て両親とシリルにお任せだ。
問題は、領地へ行くための準備だ。
ここ数年、王族が婚約者だったため、ほとんど王都で過ごしていた。
領地へは、極偶に行くくらい。
そのため、領地には着替えなどの私物がほとんどなく、王都から持っていく必要があった。
両親が動き出してから少しずつ準備はしていたけど、完了したという話はまだ聞いていない。
だから、準備が出来次第、領地へ行こうと思うと両親に伝えたところ、横から思わぬ言葉が降ってきた。
「恐れながら申し上げます。準備でございますが、後はソフィア様が普段使われている物を詰めるのみとなっております」
「あら、そうなの?」
壁の側に控えていた家令が、準備はほぼできていると口にしたのだ。
お母様が問いかけると、家令は現在の状況を教えてくれた。
領地で着る衣装や装飾品や、王都でなければ手に入らない日用品などは荷造りが終わっているそうだ。
残るは、文房具や刺繍道具などの愛用品だけで、それらの準備は今日中に終えられるとの話だった。
そういうことであれば、明日にでも出立できる。
「では、明日出発したいと思います」
「もう少しゆっくりしてもいいのよ?」
「そうだぞ」
「いえ、あまりゆっくりしていると、別れが惜しくなりますから。それに、王都には来ようと思えばすぐに来られます」
両親には惜しまれたが、明日出立することに決めた。
両親に言った通り、王都には思い立ったら、すぐに来られる。
何故ならば、私も転移魔法が使えるからだ。
使える者が少ない転移魔法を使えるのも【賢者】の【称号】のお陰。
【称号】を持っているからか、どんな難しい魔法も思いのままに操れるのだ。
両親も私が転移魔法を使えることを知っているので、すぐに来られるという言葉に頷いてくれた。
こうして、私は翌日、領地へと向かうことになった。