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06 婚約破棄(5)

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

「シリルにまで話が届くなんて、もう色々な人に婚約の話が知られているのかしら?」

「いや、まだ知っている奴はほとんどいないだろう。今のところ詳しく知っているのは王宮と神殿の上層部くらいじゃないか。一応、箝口令が敷かれていたはずだ」



 ヘンリー殿下に呼び出された日のことを思い返しながら、気になったことをシリルに問いかける。

 それに対して、シリルはなんてことない風に、まだ一部しか知らない話だと返してきた。



「なら、何故、貴方が知っているのかしら?」

「なんでだろうな?」



 思わずツッコんだ私は悪くないと思う。

 王宮も神殿も、上層部で箝口令が敷かれるような話というのは、一般に漏れることはまずないはずのものだ。

 それなのに、どうして知っているのか。


 半目で睨んでも、シリルはニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、飄々と疑問に疑問で返してくるのみだった。

 これは答える気はないわね。

 早々に諦めた私は、少しだけイラッとした気持ちを落ち着かせるために、溜め息をついた後、紅茶を一口飲んだ。



「王宮の方は陛下たちが戻られるまで、あの男のヘマを秘しておきたかったようだが難しいだろうな」

「それだけ、両親が派手に動いているってことなのかしら?」

「あぁ、お前の両親は隠すつもりは全然ないようだ」



 なるほど。

 箝口令は敷かれているものの、両親の方に隠す気がないから、周りから見ていれば何となく察せられるという話のようだ。



「お前も婚約破棄には前向きなようだし、俺も御両親に助力するとしようか」

「シリル?」

「何、婚約破棄に持っていきやすいように、社交界でちょっとした噂を流すだけだ。悪いようにはしないから、心配するな」



 それって、情報操作って言わない?

 にっこりと微笑むシリルを半目で見ると、シリルは肩を竦めた。

 とはいえ、両親の後押しをしてくれると言うのなら、止める必要はないだろう。

 止められるとも思えないから、どうしようもないとも言えるんだけど。


 まぁ、今までもずっと私の味方をしてくれていたシリルだ。

 彼が悪いようにしないと言うのであれば、きっと上手くやってくれるんだと思う。

 私の方の心配はいらないだろう。

 ヘンリー殿下の方はどうなるかわからないけど。

 そこは少し心配だ。

 でももう、心配する必要はないのかな?

 婚約者じゃなくなるんだし。



「さて、元気な姿も見られたから、そろそろお暇させてもらおう」

「心配してくれてありがとう」

「気にするな。俺がしたくてしていることだからな」



 話は終わったと、シリルは暇乞いをした。

 お礼を伝えると、笑顔が返ってくる。

 その笑顔は、彼にしては珍しく、とても優しいものだった。






 それから、また数日後。

 王宮に呼び出されてからは、一週間後と言った方がいいだろうか。

 予定よりも早く、国王陛下と王妃殿下が王都へと戻られた。

 ヘンリー殿下の所業を報せる急ぎの報せが、隣国にいた陛下たちの下へと届けられたようだ。


 陛下たちは何とか婚約がなくなることを回避したいようだったが、時すでに遅し。

 ヘンリー殿下に呼び出された翌日からの両親の精力的な働きと、シリルの暗躍により、お二人が戻ってこられたときには婚約の解消は避けられないものとなっていた。


 そう、解消。

 ヘンリー殿下は破棄したいとおっしゃっていたが、それでは私の評判にも傷が付くということで、婚約は白紙となることになったのだ。

 これは、陛下から提案されたことらしい。

 やらかしたのはヘンリー殿下の方なので、当然だとお父様は言っていた。


 もちろん、解消によって恩恵を受けるのは私だけではない。

 本来であれば、不貞によりこちらから破棄することも可能だったのだ。

 それが解消で済むのならば、ヘンリー殿下の評判にもダメージが少ない。

 侯爵家からの破棄ともなると、王家全体の評判にも関わるので、解消というのが無難な落とし所だったのだろう。


 もっとも、婚約解消以前にゴードン男爵令嬢とのあれこれは社交界で相当な噂になっていたので、本当にダメージがないかは謎だ。

 正直なところ、ないってことはないと思う。

 表立って口にすることはないだろうけど、裏では婚約解消に至った理由があれこれと噂されるに違いない。

 貴族には、こういうゴシップが好きな人が多いしね。



「というわけで、殿下とお前との婚約はきちんと解消された」

「ありがとうございます。これで領地に行っても問題はなさそうですね」

「あぁ。慰謝料については、まだ少し調整が必要だが、そちらは私たちが調整しよう」

「えぇ。私たちもソフィアと一緒に領地に行ければ良かったのだけど……」

「それは今後の王家の対応次第だな」



 王宮から戻ってきた両親に呼ばれて居間へ行くと、陛下との話し合いの内容を説明してくれた。

 無事に婚約は解消されたらしい。

 そのことに、ほっと息を吐く。

 会談が行われたその日に、婚約解消の手続きまで終わってしまうのは異例の速さだ。


 婚姻に関する契約は、神殿が取り仕切っている。

 本来であれば、陛下との話し合いが終わって、そこから神殿に対して婚約解消の申請をしなければいけないので、もっと時間がかかるはずだった。

 早くても一週間、遅ければ一ヶ月はかかると見込んでいた。

 ところが、即日である。


お陰様で、総合日間ランキングで1位となりました!!!

お読みいただき、ありがとうございます!

引き続き、楽しんでいただければ幸いです。

今後とも、よろしくお願いいたします。


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