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36 職人(6)

ブクマ&いいね&評価&誤字報告ありがとうございます!

「では、指さえ動けば難しい魔道具も作れるってことですね?」

「材料と時間さえ貰えれば大抵の物は作れると思う。だが、この指は、それこそ王都にいる聖女様でもなきゃ治せねぇと思いますが」

「どうしても母がいいと言うのであれば、都合をつけないこともありませんが、この程度の傷でしたら私でも治せます」

「母だと? いや、待て。あんたでも治せるって、本当か?」



 問題は指だけかと再度確認すると、ドルフさんは頷いた。

 ただ、指を治すには大商人や高位貴族御用達の【大神官】の【称号】持ちでもなければ無理だろうと言外に告げてもきた。

 ドルフさんが言う通り、聖女と崇められている【大神官】の母でもなければ、治療は難しいだろう。

 けれども、私が持つ【賢者】の【称号】は【大神官】よりも上位の【称号】で、治療に使う神聖魔法の腕は母以上だ。

 全く問題はない。


 それでも、ドルフさんがどうしても母がいいと言うのであれば、母にお願いするのは吝かではない。

 私が治してもいいし、母が治してもいいと告げれば、言われたことが信じられなかったのか、ドルフさんは大きく目を見開いた。



「同じような傷を治したことがありますわ。我が家の使用人は無料で治療していますから、ドルフさんが我が家で働いてくださるなら、同じように治療しますけど」

「使用人……、治療……。最近、酒場で似たような話を聞いたな」



 私が魔法で治療するのは、我が家の福利厚生の一つだ。

 使用人であれば無料で治療していることを伝えれば、ドルフさんは顎に手をやり考え込んだ。

 似たような話を聞いたというドルフさんの呟きに、コッコの飼育員を募集していたときの話だろうと思い当たる。



「多分、我が家の話だと思います。この間まで、魔物の飼育員を募集していたので」

「あぁ、それか。思い出した。随分と景気のいい話だと騒ぎになっていたが、あれはお嬢様の家だったんだな」

「ソフィアの神聖魔法の腕は私も保証するよ。ここだけの話、聖女様よりもソフィアの方が腕はいいと思う」



 恐らく我が家の話だと話すと、ドルフさんも詳しいことを思い出したのか、納得したように頷いた。

 景気のいい話……。

 確かに、そうね。

【大神官】にではなくても、神聖魔法での治療なんて教会に渡さなければいけないお布施が高過ぎて、一般庶民が受けられることなんて、まずないもの。

 ちょっと、高価過ぎる福利厚生だろうか?

 いや、でも、父と叔父、それに母も特に反対しないし、問題は、ないわよね……?


 少しだけ不安になりながらドルフさんの言葉を聞いていたら、言葉が途切れたところで、すかさずお兄様が後押しをしてくれた。

 流石、お兄様。

 いいタイミングだ。

 信頼しているお兄様が私の魔法の腕に太鼓判を押してくれたからだろう。

 ドルフさんもこちらを信用してくれたようだ。



「わかりました。この指が動くようになるってんなら、こっちとしても願ってもねぇ話だ。お世話になります」

「ありがとうございます! では、早速」

「あっ! ソフィア!」



 いい笑顔を浮かべて頷いてくれたドルフさんに、私も満面の笑みを返し、すぐさま神聖魔法を発動させる。

 フワリとドルフさんの全身を金色の魔力光が覆う。


 発動させたのは身体を完全に回復させることができる『パーフェクトヒール』だ。

【大神官】でも修練を積まなければ使えない難しい魔法だけど、【賢者】である私には朝飯前。

 それを証拠に、詠唱する場合よりも格段に制御が難しくなる無詠唱で『パーフェクトヒール』を発動させることができた。


 無詠唱のいいところは、魔法の発動が一瞬ですむところだ。

 その代わりに、発動させようと思ったが最後、途中で止めることはできない。

 実際に、何故かお兄様が焦った顔で止めたけど、止めることはできなかった。


 ドルフさんの発光が終わるや否や、お兄様はしまったという風に額に手を当てて天を仰いだ。

 よくわからないけど、やらかしてしまったのは確かなようだ。

 お兄様には後で止めた理由を聞いて、謝っておこう。


 内心で反省している傍ら、ドルフさんは動かなくなっていた右手を見詰めてワナワナと震えていた。

 そして、動きを確かめるように、徐に右手の指を開いたり閉じたりした。

 見た感じ、動きはするようになったようだ。

 後は高度な魔法陣が描けるようになったかどうかだけど、そちらは追い追い確認してもらおう。



「ありがとうございます!!!」

「きゃっ!」



 取り敢えずは動くようになったことにホッとし、何となく嬉しくなって口角が上がる。

 うんうんと頷きながらドルフさんを見ていると、ドルフさんは突然ガバッと机にぶつける勢いで頭を下げた。

 あまりにも大きな声でお礼を言われてしまい、驚いて思わず声を上げた。



「この御恩は、今後の働きで返させていただきます」

「期待していますわ」



 ドルフさんは勢いよく顔を上げ、真剣な表情で私を見据えた。

 我が家で気持ち良く働いてもらえるなら、それでいい。

 その気持ちでお返しは特に期待してはいなかったのだけど、それで良い成果を上げてもらえるなら、こちらとしてもありがたい。

 誓いのように告げられた言葉に、ニッコリと微笑んで返した。


 我が家だけではなくお兄様の家も関わるため、雇用に関する詳しい条件については叔父からドルフさんへと改めて連絡をしてもらうことにした。

 お兄様も含めて、後日三人で話し合うことになるだろう。

 私の仕事は、ここで一旦終わりだ。

 後は、ドルフさんが実験場に来てからになる。


 そうして、無事に職人の確保ができて、ウキウキとしていたのだけど、帰りの馬車でお兄様からお小言をいただいてしまった。

 雇用契約を結ぶ前に治療をしたのは、良くなかったようだ。

 今回はお兄様も信頼しているドルフさんだったから良かったものの、今後は気をつけるようにと注意を受けた。


 ただ、お兄様もドルフさんの指が動くようになったことは嬉しかったようで、帰りの馬車の中は終始明るい雰囲気に包まれていた。

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