27 人材発掘(4)
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朝起きて、準備のために部屋を訪れたマギーに叔父に会いたいという話をしたところ、トントン拍子に話が進んだ。
マギーからすぐにウォルターへと連絡が行き、叔父とは朝食の席で会うことになったのだ。
朝食の席でコッコの飼育と飼育に必要な人材、それから、その人材がもたらす副次的な効果について叔父に話をした。
検索機能のことを伏せるために、【ブリーダー】については、王都にいたときに読んだ本に書いてあったということにした。
巷では【ブリーダー】がどういうものを指すのか知られていないけど、王都の書店には諸外国の本を置いている所もある。
どこで知ったのかと問い詰められたら、それらのお店を挙げて、どこだったかは覚えてないけど読んだ記憶があると言い張ろうと考えていた。
けれども、叔父は問い詰めることもなく、私の言い分を信じてくれた。
それから、その【称号】を持つ人物が領地にいると小耳に挟んだので雇いたいと言うと、叔父はあっさりと許可をくれた。
やはり【ブリーダー】を雇うことによって、大量の馬を飼育できるようになるという話が効いたようだ。
馬について話が及ぶと、叔父は身を乗り出さんばかりの勢いで話を聞いてくれたもの。
領地の運営に関しては叔父が一任されているということで、父への報告まで請け負ってくれた。
ありがたい。
叔父が飼いたがっている馬は軍馬で、馬の中でも凶暴な種類だった。
恐らく、【ブリーダー】の【能力】で飼うことは可能だと思うので、コッコの飼育と並行して色々と試してみたいと思う。
私なりの、叔父への恩返しとして。
ともあれ、次に必要なのは人材の確保だ。
人材が確保できないことには話を始められない。
だから、朝食を食べた後にすぐさま【ブリーダー】の【称号】を持つノアがいる村へと向かった。
我が家で雇う人の勧誘ということで、村には私とマギー、そしてウォルターが向かった。
ウォルターは叔父の代理として付いて来てくれて、村長との交渉も全面的に引き受けてくれた。
私は側で見ているだけでいいらしい。
ウォルターは普段から屋敷の使用人達を管理しているし、私はその村の村長とは面識がないからだろう。
年若い女性だけだと舐められやすいからというのもあるのかもしれない。
一緒に来てくれた護衛も、いつもより人数が多く、体格のいい人が多いので、その可能性は高い。
ノアが住む村は屋敷がある領都から馬車で数日掛かる位置にあり、結構離れていた。
まともに移動しても良かったけど、ちょっと時間が惜しかった。
そこで、馬車に、護衛が乗る馬も含めて、一気に村の近くまで転移した。
村の中まで一気に移動しなかったのは、私が一度にこれだけの人数を転移魔法で移動できることは家中だけの秘密だからだ。
転移をしてから、私とマギーにウォルターは馬車に乗り込んだ。
馬車の周りを馬に乗った護衛が囲み、村へと進む。
同時に、護衛を一人、先触れとして村長の家へと走らせた。
あまり急いで行っては先触れの意味がなくなるため、のんびりと馬車を走らせる。
馬車の窓から外を見ると、長閑な田園風景が広がっていた。
こうして見ると、実験場として管理する村と大差はないように感じる。
しかし、事前に聞いた話では、実験場のある村よりも寂れているらしい。
それを実感したのは村に入ってからだった。
まず、建物の数が少ない。
集落として、ある程度纏まって家が建っているのだけど、家の数が実験場のある村よりも少ないような気がする。
それから、村の人たちが着ている服も、実験場のある村よりも草臥れているような印象を受けた。
実験場の村を見慣れていると、この村はとても寂れているように感じた。
世間では、うちの領地は可もなく不可もない所という評価で、領都から離れている田舎という位置にあるので、これが普通なのかもしれない。
考えてみると、領都近くにある村を実験場として提供してもらえたのは、かなり恵まれているわね。
好立地の村を提供してくれた父と叔父には感謝しないと。
そんな風に村の様子を観察していると、村では大きな馬車が珍しいのか、村の人たちが集まってきた。
こちらが貴族であることが見た目でわかるからか、近寄っては来ず、遠巻きに様子を窺っている。
余所者に対する田舎あるあるな感じだ。
少しして、馬車の周りを遠巻きに囲んでいた人垣が割れ、壮年の男性が慌てた様子でこちらへと向かってきた。
男性の後ろから先触れに立ってくれた護衛も歩いて来るのが見えたので、この人が村長なのだろう。
そして、私を守るかのように、私の前にウォルターが歩み出た。
「お、お待たせしてしまい、大変申し訳ありません」
荒い息を整えながら、切れ切れに男性が詫びてきた。
先触れを出したとはいえ、転移魔法で移動したこともあり、こちらが急に来たのだ。
特に気にしてはいないし、むしろ申し訳なく思う。
ただ、それを表に出すのは領主側の人間としてはまずいらしいので、私は黙って村長を見詰めた。
私の代わりに、受け答えをするのはウォルターだ。
「構いませんよ。こちらが急に来たのですから」
「恐れ入ります。そ、それで、本日はどのような御用件で?」
ウォルターがニコリともせずに慇懃に答えると、村長は恐る恐る用件を伺ってきた。
口元に笑みを浮かべてはいるものの、かなり引き攣っている。
こういう笑みを卑屈な感じの笑みと言うのだろうか?
ウォルターの話では、互いに面識があるようなので、ウォルターが屋敷の執事であることを村長は知っているのだろう。
屋敷の執事ともなれば、普段この村に来ている役人よりも立場が上だ。
滅多に会うこともない上役の急な登場に、村長の腰が引けるのも理解できる。
「この村に住むノアという青年に用があって来ました」
「ノアでございますか?」
「えぇ。彼を呼んでください」
怪訝な表情を浮かべた村長だったけど、質問は受け付けないという雰囲気を醸し出すウォルターから答えを聞くことは諦めたようだ。
猜疑心を隠さないまま、「こちらです」と言って、渋々と案内を始めた。