25 人材発掘(2)
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「こっちも中々やな」
「口にあったようで良かったわ。今日はパスタにかけたけど、肉を焼いた物にかけても美味しいわよ」
「パスタよりも肉の方が酒には合いそうやな」
ケチャップほどの感動はなかったようだけど、トマトソースも問題なく受け入れられたようだ。
忌避されなかったことに安堵する。
ただ、お酒に合うかどうかがクローネの好みの基準になっているようなので、肉を焼いた物――前世で言う鶏肉のグリルの方が受け入れられたかもしれない。
「けちゃっぷ、やったか? こっちも他の物にかけてもいけるんか?」
「もちろん。卵料理に、よく合うわよ」
「卵料理かぁ。食べてみたいけど、卵は手に入りにくいんだよねぇ」
「そういえばそうね」
ホリーの一言に、忘れていたことを思い出す。
今世で食用の卵というと、鳥型の魔物の卵が一般的だ。
魔物の卵であるが故に、手に入れるのが難しい。
同様に、卵を得るために大量に飼育するといったことも難しい。
そもそも、魔物は攻撃的な物が多いので、大量に飼育しようとする者もいない。
例の鳥型の魔物もそうだ。
そういったわけで、今世では養鶏なんてものは発展しておらず、卵の供給は不安定だ。
だから、卵は高級品だったりする。
「偶にしか手に入らないものね」
「そうそう。冒険者さんが偶然見つけてくれた物が出回ってるくらいだもんね」
「コッコが大量に飼えるといいんだけどね。そうすれば、卵のために飼うのに……」
コッコというは食用の卵を産む鳥型の魔物のことだ。
コッコは通称で、正式名称は別にあり、複数の種類が存在する。
地方によって生息する種類は異なり、単純にコッコと言うとその周辺で最も一般的な種類の物を指す。
この辺りではフォレストコッコがそれに当たる。
フォレストコッコは頭に茶色の鶏冠を持ち、緑色の羽毛に覆われた、体長が三歳児位の魔物だ。
草食であり、主に森に生息している。
羽を持つものの空を飛ぶことはできないので、彼らの移動はもっぱら徒歩だ。
けれども、意外に足は速く、三階建ての建物の高さくらいまで跳躍することができる。
だから、飼おうとすれば、まず三階建ての高さの柵が必要になる。
また、魔物の中では比較的温厚な性格をしているけど、襲い掛かられることもある。
フォレストコッコは縄張り意識が強いのだ。
そのため、強い魔物ならともかく、一般の成人男性が彼らの縄張りに迂闊に足を踏み入れた場合には、大抵容赦なく襲い掛かられる。
離れて見ているだけなら問題ないのだけど、飼うとなると襲われる機会が間違いなく出てくるだろう。
それらの問題を解決できる方法はある。
【称号】持ちの飼育員だ。
「馬と同じように【称号】持ちの人に任せればいいんじゃない?」
「そうね。でも、卵を安定して得ようとするなら、何十匹って飼わないといけないから……」
「そんなに必要かな?」
「コッコも毎日卵を産むわけじゃないから。それに卵があればもっと色々な料理が作れるようになるから、できるだけ沢山欲しいのよね」
「ソフィアちゃんの料理がもっと食べれるの? それなら沢山飼わないと!」
ホリーも同じことを考えたようで【称号】のことを口にした。
【称号】の中には、魔物を手懐けることができるものがある。
最も多いのは【魔物使い】の【称号】を持つ人だ。
【称号】持ちの中では【魔道師】や【神官】と同じくらいの割合で存在する。
ホリーが言った通り、馬の飼育員も【魔物使い】の【称号】を持つ人だ。
今世は全ての獣が魔物のため、馬も魔物なのである。
だから、魔物に言うことを聞かせることができる【称号】持ちの人間でないと飼育員になれないのだ。
もちろん、我が家の馬車の御者も、馬の飼育員も全て【魔物使い】の【称号】を持っている。
馬と同様に、コッコを飼育するためには【魔物使い】の【称号】を持つ人が必要になる。
しかし、ここに問題があった。
魔法関係の【称号】と同じように、魔物使い関係の【称号】にもランクがある。
一般的な【魔物使い】の【称号】を持つ人が飼い慣らせる魔物の数は数匹程度なのだ。
それもコッコや馬のように比較的大人しく、あまり強くない魔物に限っての話で。
この屋敷で使う量を賄うだけのコッコを飼おうとすると、上位の【称号】を持つ人が必要だ。
該当するのは【鳥使い】の【称号】だろうか?
【鳥使い】や【竜使い】など、対象となる魔物が限定されている【称号】は、その分、多くの魔物を手懐けられる。
また、普通の【魔物使い】よりも高ランクの魔物を手懐けることができるのだ。
故に、それらの【称号】は【魔物使い】の上位に当たるとされている。
鳥型の魔物に特化した【鳥使い】にお願いすれば、数十匹のコッコを飼うことが可能だろう。
ただ、【鳥使い】は【大魔道師】や【大神官】と同じくらい数が少ないのだ。
そして、ほどほどに使い勝手がいい【称号】のため、貴族や大きな商家に雇われていることが多い。
鳥型の魔物は偵察に使えるし、手紙や軽い荷物も運べるしね。
そのため、【鳥使い】は漏れなく高給取りだ。
コッコを飼育するための人材としては、ちょっと高級過ぎる。
「あっ、でも、沢山飼うとなると、やっぱり難しそうだね」
そういった諸々の事情にホリーも考えが及んだのだろう。
高かったテンションはすぐに下がり、前言を撤回した。
しょんぼりとしてしまったホリーの頭をそっと撫でる。
「何か良い方法がないか、叔父様にも聞いてみるわ」
「ありがとう、ソフィアちゃん。私もちょっと考えてみるよ」
「ありがとう、ホリー」
余りにも残念そうだったので、慰めるように思いついたことを口にすると、ホリーの方でも探してくれると言う。
ホリーがにっこりと微笑んでくれたことにホッとしつつ、一緒に悩んでくれると言ってくれたことが嬉しい。
思わず抱きしめれば、ホリーもギュっと抱きしめ返してくれた。





