23 助け(3)
ブクマ&いいね&評価&誤字報告ありがとうございます!
畑からの帰り。
運良くテッドさんに会えたので、畑に残っているジャガイモを拾い集めてもらうようお願いした。
多少の土は付いたままで構わない。
そのまま表面を乾燥させてから、冷暗所で保管しておいて欲しいともお願いした。
この辺りの、保管方法については栽培方法と同じように検索機能で調べた。
話を聞いたテッドさんは、この間植えたばかりのジャガイモがもう収穫できると聞いて、とても驚いていた。
そして、馬車で屋敷へと帰り、着替えた後に厨房へと向かった。
料理長にジャガイモを渡して、二つほど茹でてもらい、残りはフライドポテトにするよう伝える。
茹でただけのジャガイモを用意してもらったのは、ジャガイモ本来の味を確認するためだ。
もちろん、クローネのためのエールをお願いするのも忘れない。
少し待つと、まずは茹でたジャガイモが供された。
皮を剥き、食べやすいように一口大に切られたジャガイモを、火傷に気を付けながら頬張る。
そして、目を丸くした。
「美味しい……」
大きさ以外の見た目は種芋となった物と全く変わらなかったのだけど、味は全然違った。
ホリーの歌で育ったジャガイモはほんのりと甘く、前世で食べた高級ジャガイモを彷彿とさせた。
追熟させていないし、ましてや品種改良もされていないにもかかわらず、この味なの?
一体、何故?
魔法の気配はしたけど、微妙な差異を感じた通り、ホリーの歌は従来の魔法とは別物なのかもしれない。
それとも、一口に魔法と言っても、前世と現世では何か違いがあるのだろうか?
考え込んでいると、クローネが口を開いた。
「どないしたんや?」
「予想に反して美味しかったから、原因を考えていたのよ」
ホリーが歌っているときに魔法の気配がしたので、魔法で野菜が育ったのだと思ったことや、魔法で育てた野菜は美味しくないと思っていたことなど。
予想の根拠となる理由を説明すると、クローネは納得したように頷いた。
ただ、魔法の気配はしたものの、普段感じるのとは少し違うように感じたと言うと、クローネは感心したという風に相槌を打った。
「おー、ようわかったな」
「クローネ、何か知ってるの?」
どうやらクローネは理由を知っているようだ。
そういう風に態度に表したということは、聞けば教えてくれるということだ。
教えてくれないときは、微塵も態度に表さないからね。
何かを知っているのかと問いかけると、クローネは驚くべきことを教えてくれた。
「おぅ。嬢ちゃんの歌に浮かれて、精霊が張り切って働いとったわ」
「精霊!?」
「そや。ちっこい奴らばかりやったから、あんたらには見えんかったろうけどな」
「どういうこと?」
クローネの話では、あのときの畑にはホリーの歌に惹かれて沢山の精霊が集まってきていたらしい。
集まった精霊の種類は様々で、クローネと同じく光の精霊もいれば、風の精霊や土の精霊もいたそうだ。
そして、精霊たちは、ホリーが歌に込めた「植物を育てたい」という思いに反応した。
それぞれが得意なことを活かして、協力してジャガイモを成長させたんだとか。
「じゃあ、あのとき魔法の気配がしていたのは精霊たちが魔法を使っていたからってこと?」
「そういうことやな」
「なら、普段の魔法とは違う感じがしたのも、精霊が魔法を使っていたからってことなのね」
「せやな」
いくつか疑問に思っていたことを口にすれば、次々と答えが返ってくる。
まるで、答え合わせのように。
そうしてわかったことと言えば、精霊と人間とでは使う魔法に差異があるということだった。
この差異が、魔法で育てた野菜の味の明暗を分けるのかしら?
ちょっと気になる。
けれども、詳しいことまでは教えてもらえなかったので、後は自分で調べるしかない。
検索機能があるといえども、こういうのって調べ出すと結構時間がかかるのよね。
今は他にもやりたいことがあるから、究明については今後の課題としよう。
「今まで歌ってたときも、今日と同じように精霊が集まってたのかな?」
「あー、あり得そうよね。どうなの、クローネ?」
「そうなんじゃないか? おたくらには見えんかもしれんが精霊なんてそこらにぎょーさんおるからな」
自身の歌に関わることだからか、ホリーも気になるようだ。
間を取り持つようにクローネに問いかければ、ぼんやりとした回答が返ってきた。
ホリーが歌っているところをクローネが見たのは今回が初めてだから、はっきりとしない回答になるのも仕方がない。
しかし、クローネの口振りからいって、今までもホリーの歌に惹かれた精霊が集まっていた可能性は高そうだ。
こうなると、今までにあった、ホリーの歌を聴いたら疲れが取れるなんて噂も真実だったのかもしれないわね。
ホリーが歌に込めた思いに応えた精霊が、実際に何かをしていたのかもしれないもの。
「精霊をも魅了するなんて、流石【歌姫】ね。ホリーのお陰で、実験も早く進められそうだわ」
「えへへ~」
「ありがとね」
「どういたしまして!」
ホリーが今日育ててくれた分で、十分な種芋が確保できた。
考えなければいけないことはまだあるけど、ホリーのお陰で実験が早く進んだことは間違いない。
そのことについて、お礼を言うと、ホリーは満面の笑みで答えてくれた。
「よし! ほな、話は終わったな。んじゃ、今日の仕事は仕舞いや。飲むで!」
「もう、クローネったら……」
話の区切りがついたとみると、クローネは勢いよく宴の開始を宣言した。
側に控えていた侍女のマギーに視線を向けると、互いに仕方ないなぁという風に目を細め合った。
「お嬢様、後の料理は食堂に御用意いたしましょう」
「ありがとう。なら、移動しましょうか」
ナイス、アシスト!
マギーの一言で、今日一日の労を労う宴の会場は食堂に決まった。
このまま厨房で宴会が始まるかと心配したけど、そうはならなかったことに安堵する。
厨房で騒ぐのは料理人さんたちの邪魔になるし、ここで立ったまま料理を摘まむのは、お行儀が悪いからね。
一旦お預けとなってしまったクローネには苦情を言われたけど、それを何とか宥める。
そして、料理人さんたち以外のメンバーは食堂へと移動をしたのだった。