22 助け(2)
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衝撃の告白があった翌日。
ホリーと共に、実験場である村へと向かうことになった。
植物の栽培が得意とは一体どういうことなのか。
説明するよりも見た方が早いとホリーが言うので、実際に見せてもらうことにしたのだ。
朝食を取るために食堂へと現れたホリーの顔色はいい。
一夜明け、充分な休息が取れたようだ。
本人もゆっくり休めたと言い、これなら万全の調子で臨めると気合い充分だった。
朝食を取った後は一旦別れ、準備をしてから再度玄関へと集合する。
村へと向かうのは私とホリー、そしてお付きのマギーだ。
昨日も色々と話したけど、まだまだ話すことは尽きることなく、村までの道中もとても賑やかだった。
「わぁ、広いねー! ここに植えるの?」
「実はもう既に植えてあるのよ。まだ芽は出てないけどね」
「そうなんだ。じゃあ、丁度良かったね」
目の前に広がる畑には村の人たちの手によって既に種芋が植えられている。
しかし、芽が出ていないため茶色い地面が広がるばかりで、一見すると何も植えてないように見えた。
説明を聞いたホリーはうんうんと頷く。
そうしていると、不意に背後に人の気配が現れた。
驚き振り返ろうとしたところに、聞き覚えのある声がかかる。
「おー、いたいた」
「クローネ?」
振り返るとクローネがいた。
どうやら、転移魔法で現れたようだ。
「どうしたの?」
「屋敷に行ったら、何やら面白いことをしに行ったって聞いてな。追いかけてきた」
「そうなんだ」
「それで、今日は何をするんや?」
そこまで話すと、クローネはホリーへと視線を向けた。
クローネと初顔合わせとなるホリーは、急に現れた人物に驚いたのだろう。
未だに目を丸くしたままだった。
「クローネもホリーも初対面よね? クローネ、彼女は私の友人でホリーよ。ホリー、彼がクローネよ」
「初めまして、ホリー・ガーランドです」
「クローネや」
初対面ではあるけど、ホリーには領地にいる昔からの友人としてクローネのことを話したことがある。
そのため、ホリーに対しての説明は非常に簡潔なものだ。
ホリーも覚えていたようで、名前を聞いた瞬間に「あぁ、あの」といった風な表情を浮かべた。
その後、何か気になることがあったようで、ホリーは一瞬考え込む素振りをした。
背中に嫌な汗が流れた。
お願いだから、クローネの登場の仕方についてはツッコまないで欲しい。
転移魔法で移動してきたのかなんて聞かれても、肯定も否定もし難いからだ。
この国で転移魔法が使えるのは、私を除いては宮廷魔道師しかいない。
一般の認識としては、そうなっている。
他にも使える人はいるのかもしれないけど、そのような話は耳にしたことがないしね。
いたとしても、クローネのように公になっていない人ばかりなのだろう。
こういう状況でクローネが転移魔法で移動したことを肯定すれば、クローネは宮廷魔道師なのかって疑問が今度は出るだろう。
しかし、そうするとなんでここにいるのかって話になる。
説明が非常に難しい。
元々、ホリーには領地の友人としか話していないしね。
クローネの許可を貰っていないので、精霊であることも伝えていないし。
かといって、否定するのもホリーに嘘をつくことになるので心苦しい。
だから、何も聞かないでいてくれるのが、私にとっては最善だ。
私の祈りが天に届いたのかは謎だけど、ホリーが何かを口にすることはなかった。
これ幸いと、話題を元に戻す。
「そうそう、今日はホリーが特技を見せてくれるって言うので来たのよ」
「特技? 何やそれ?」
「植物を育てるのが得意らしいの」
態とらしい感じが満載だけど、誰にもツッコまれなかったことに胸を撫で下ろす。
ホリーの特技について説明すれば、先日話していたことを思い出したのだろうクローネの目が輝いた。
「ほー、植物のな……。どうやるんや?」
「歌を歌うんです」
「歌?」
クローネの期待の眼差しを受けて、ホリーがにっこりと微笑む。
ただ、その後の説明が植物の栽培と上手く結びつかなかったようで、クローネは怪訝な表情を浮かべた。
表情には出さなかったけど、私も同じ気持ちだ。
歌を歌えば植物が育つとでも言うのだろうか?
「説明を聞くより、見た方が早いわ。ホリー、お願いできるかしら?」
「わかった! じゃあ、始めるね!」
ホリーも見た方が早いと言っていたくらいだし、実際に歌ってもらった方がいいだろう。
そう思って、ホリーに先を促した。
ジャガイモ畑を目の前にして、ホリーは歌い出す。
曲目は古くからある歌の一つで、春の訪れを寿ぐものだ。
伸びやかで、春の陽だまりを感じさせる温かな歌声が、辺り一面に広がる。
流石、【歌姫】。
本当に周りの空気が春の気配を纏っているような感じさえする。
そうして歌に聞き惚れていると、ジャガイモ畑に異変が生じた。
其処彼処から緑色の芽が出てきたのだ。
え、何これ。
凄いわね……。
「ちょ、マジか! 草生えとる!!!!!」
言い方~~~~~!!!
って、なんでツッコんでしまったのかしら?
記憶にはないのだけど、何故だかツッコまなければいけない衝動に駆られた。
ツッコんだのは心の中だけだったので、誰にも聞き咎められなかったのは幸運だったかもしれない。
ともあれ、私が驚いて言葉をなくしている横で、クローネはお腹を抱えて笑っていた。
畑を指差して放った台詞がアレだ。
ある意味、クローネも驚いているのかもしれない。
人間、驚き過ぎて笑い出すこともあるらしいし。
クローネは精霊だけど……。
驚いて見つめている間にも芽はどんどん成長していった。
そうして一曲歌い終わる頃には、土色一色だった畑は緑色で埋め尽くされた。
「凄いわね……」
「うふふ~」
感嘆の声を漏らすと、ホリーは得意げに胸を張った。
その様子がちょっと可愛かったので、そっと頭を撫でる。
「もっと成長させることもできるけど、どうする?」
「そうね……。お願いしても良いかしら?」
今をときめく【歌姫】に二曲目のリクエストをするなんて、随分と贅沢な話だ。
王都にいる貴族たちが聞けば、羨ましがられることは間違いない。
でも、折角の申し出なので受けないという選択肢はなかった。
それに、気になることもある。
歌うことで植物が成長するなんて思いもしなかったから、つい呆気に取られて観察を怠ってしまったけど、ホリーが歌っている間に魔法の気配を感じたのだ。
だから、何かしらの魔法によって植物が成長した可能性は高い。
ただ、どういったものかはわからなかったけど、普通の魔道士たちが魔法を使ったときとは違った感じを受けた。
また、ホリーの歌で成長したジャガイモの味も気になった。
前世の世界では、魔法で成長させた野菜は美味しくなかった。
今までの経験上、前世の世界と同様に、普通に魔法で育てた場合は美味しくないんじゃないかと予想している。
しかし、この世界では魔法で植物を育てるという話を聞いたことがないこともあり、味に関しては定かではない。
故に、確かめてみたいと思ったのだ。
「いいよー! どれくらいまで育てる?」
「収穫できるくらいまで、お願いできる?」
「はーい」
お願いすると、ホリーはすぐに歌い始めた。
今度の曲目は豊かな実りに感謝するものだ。
先程と同じように温かな歌声が広がり、聞いているだけで心の奥底から喜びの感情が湧き出てきた。
うっとりと歌声に聞き惚れている間に、目の前では早送りでジャガイモが成長していく。
そして、葉が黄色く色付いたところで、成長が止まった。
どうやら、収穫に適したところまで成長しきったようだ。
ここから先は、私の出番だ。
魔法を駆使して、土の中にあるジャガイモを掘り起こしていく。
次々に出てくるジャガイモは、予想していたよりも大きい。
肥料も与えてないのに、こんな大きさになるのはホリーの歌のお陰かしら?
「おー、立派なのが採れたやんけ」
「そうね。本当は暫く置いて追熟させた方がいいのだけど、味を確認したいから少しだけ食べてみましょうか」
「ええな! エールも頼むで!」
「わかってるわ」
目を輝かせて声をかけてくるクローネに試食を提案すると、待っていましたと言わんばかりに弾んだ声が帰ってきた。
当然とばかりにお酒もリクエストしてくるのに頷きつつ、試食用のジャガイモを拾い集める。
残ったジャガイモについては、テッドさんにお願いして拾って保管しておいてもらおう。
頭の中でこの後の算段を付けつつ、拾ったジャガイモをマギーへと手渡した。