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18 実験場(3)

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 村長のトムさんたちとの顔合わせが終わった翌日。

 朝から一時間ほど馬車に揺られて、専属侍女のマギーと一緒に、再び村へと向かった。


 昨日も訪れた村の広場で馬車を降り、くるりと周りを見回す。

 さて、何から始めようかしら?

 やっぱり、最初はアレから手を付けようかしら?


 魔物がいる現世では、村が魔物に襲われることもある。

 物的被害が出るだけならまだしも、人的被害が出たら堪らない。

 人的被害の方が回復させ難いしね。

 それに、顔見知り程度だとしても、知っている人が怪我をしたりするのは悲しい。

 折角の実験場が荒らされる前に、被害が出る可能性は潰せるだけ潰した方がいいだろう。


 ならば、まずは防衛力を高めるために、村を囲う塀の強化から手を付けるべきだ。

 よし、始めよう。

 そう気合いを入れたところで、後ろから声をかけられた。



「おはようございます、お嬢様」

「あ、おはよう」



 振り返ると、トムさんと息子さんのテッドさんが立っていた。

 考え事をしている間に、私が来たことが伝わったらしい。

 慌てて来たようで、テッドさんの額には汗が浮いていた。

 村人の朝は貴族よりも遥かに早いので、既に農作業に出ていたのかもしれない。



「突然来て、ごめんなさい」

「いいえ! こちらこそ、お出迎えができず申し訳ありません」



 トムさんの方は自宅にいたのか、テッドさんのように汗はかいていない。

 けれども、冷や汗をかいているかの如く、手に持っている布で、頻りに額の汗を拭っていた。

 先触れを出していなかったのだし、気にすることなんてないのにね。

 なんて、そういうわけにもいかないか。

 トムさんからすれば、私は見ず知らずと言ってもいいほどの仲だ。

 貴族相手なら、慎重に慎重を期した方が無難なのは、どこの世界でも同じだもの。



「突然来たのはこちらだもの。気にしないで」

「ありがとうございます。ところで、昨日のお話では、お嬢様が土地を開墾していただけるとお話でしたが、今日から作業をお始めになるのでしょうか?」

「えぇ。と言っても、今日は開墾ではなくて別のことをしようと思っているのだけど」



 昨日の顔合わせでは、畑を開墾することしか伝えていなかった。

 そのせいか、私の言葉にトムさんもテッドさんも怪訝な表情を浮かべる。

 そこで、開墾を始める前に村の環境を整えようと思っていることを二人に伝えた。



「環境を整える、でございますか?」

「まずは村を囲う塀を魔法で強化しようと思って」

「塀をでございますか? もしやっ! 何か不具合でもあったのでしょうか?」



 塀を強化すると伝えると、トムさんは途端に顔を青くした。

 どうやら、塀にかかっている魔物除けの魔法に不具合が発生していると勘違いさせてしまったようだ。



「違うのよ! 不具合はないの。ただ、もう少し色々と魔法をかけようと思って……」

「あぁ、良かった……」



 慌てて否定すると、トムさんたちはほっと胸を撫で下ろした。

 うーん、一応どういう魔法をかけるつもりか、少し説明しておいた方がいいかしら?

 お父様と叔父様から許可が下りたから、つい好き勝手してしまいそうになったけど、この村を取り纏めているのはトムさんたちだものね。

 やはり、トムさんたちからも了承を貰った方が後々問題になり難いだろう。



「塀……、はこのまま使うとして、木でできているから、まずは保存効果と、物理防御を上げるような魔法をかけようかしら。魔物除けの魔法も、もう少し強いものをかけてもいいし……」



 万全を期すなら、塀を木造から石造りの物に変えてしまいたい。

 けれども、一度にあれこれ変更してしまうのも、どうかと思うのよね。

 急激な変化は村の人たちも戸惑うかもしれないし、外部の人たちから変に目を付けられてしまうのも困る。

 取り敢えず、今日は見た目はそのまま変えずに、魔法での強化だけに留めておこう。

 木造の塀は石造りの塀よりも風雨による劣化が早いので、魔法で保存効果を与えて、劣化を遅らせることにした。


 物理防御を上げるのは必須だ。

 元々が木造のため、上げたところで大きな町にある石造りの塀ほどの耐久度とはならないんだけどね。

 それでも大分マシになるとは思う。

 更に魔物除けの魔法も強化すれば、そうそう村が魔物に襲われるなんてことにはならないだろう。



「既に魔物除けの魔法はかかっておりますが、追加できるものなのですか?」

「難しいけど、できなくはないわ」

「左様ですか。流石、【賢者】と名高いお嬢様ですなぁ」



 塀への魔法効果の追加は、できる人が非常に少ないこともあって、一般的にはできないと言われている。

 トムさんもできないと思っていたのかはわからないけど、無礼にならないように知らない風を装って疑問を口にしたようだ。

 質問に答えると、トムさんは感心したように頷いた。


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