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17 実験場(2)

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

「今日来たのは、今後の村の運営について話すためなのだが……」

「何か問題がありましたでしょうか?」



 叔父様が今日の議題を口にすると、トムさんは不安そうな表情を浮かべた。

 屋敷にあったここ数年の村の資料と、叔父様から聞いた話では、現在この村で問題は起きていない。

 トムさんも同じ認識だろう。

 だからこそ、代官である叔父様から運営について話があると言われても、心当たりがなく戸惑っているのだと思う。

 そんなトムさんの不安を払拭するかのように、叔父様は穏やかな笑みを浮かべた。



「いや、問題はないんだ。ただ、ちょっと村長にお願いしたいことがあってね」

「お願いしたいこと、でございますか?」

「あぁ、ここにいる姪、ソフィアに協力してもらいたいんだ」



 叔父様の言葉に、トムさん以下三人の視線が私へと集中する。

 そのことに少しだけ緊張しつつ、私も叔父様と同様に三人を安心させるように口角を上げた。

 もっとも、元の顔がきつめだからか、思ったほどの効果は得られなかったようだ。

 何故だか、三人の表情は益々困惑したものへと変わってしまった。


 そんな周りの困惑を気にした風もなく、叔父様は三人へと今後のことを説明する。

 協力の内容は多岐にわたるが、まずは新しい作物を育てて欲しいという話にトムさんの眉が更に下がる。



「新しい作物でございますか?」

「そうだ。先日、ソフィアが新しい料理を考えてくれたんだ。その料理に使う材料を栽培したい」



 そこまで話すと、叔父様が私へと視線を寄越した。

 叔父様からの意味深な視線に頷き返すと、壁際で控えていたマギーが一旦部屋の外に出て、暫くしてからフライドポテトが盛られた皿を持って、戻って来た。

 トムさんたちの目の前に皿が置かれると、彼らは食い入るように皿を見つめる。



「これが、新しい作物を使った料理よ。まずは試食してみてくれるかしら」



 トムさん以下三人の前に取り皿とフォークが置かれたのを待って、私は口を開いた。

 トムさんとテッドさんはフライドポテトをフォークで突き刺すと、繁々と眺めた後、意を決したように口に入れた。

 サイモンさんも二人の後に続いて、上品にフライドポテトを口に運ぶ。

 材料を明かしていないからか、恐る恐るといった体ではあったけど、食べてもらうというミッションは完了した。

 結果は上々。

 三人とも驚いたように目を見開いた後、口元を綻ばせた。

 気に入ってもらえたようで、三人のフォークは次々と進む。



「喜んでもらえたようね」

「あ、申し訳ありません。そうですね、とても美味しいです」



 声をかけると、トムさんが少し恥ずかしそうに感想を返してくれた。

 また、テッドさんとサイモンさんもトムさんの言葉に同意するように頷く。

 フライドポテトを食べるのに忙しく、言葉を発するつもりはないらしい。



「食べたことがあるような気がするのですが、こちらは何という野菜なのですか?」

「これはジャガイモよ。ご存知かしら?」

「ジャガイモというと、あの花のでございますか?」

「えぇ、そうよ」



 花に馴染みがなければ知らないかもしれない。

 そう思っていたのだが、トムさんは知っていたようだ。

 何故知っていたのかが気になったので聞いてみたところ、「なるほど」と納得する話が聞けた。

 庭師さんと同様に、トムさんも非常食としてジャガイモの存在を知っていたそうだ。


 ただ、トムさんから聞いた話によると、ジャガイモを常食する人は少ないそうだ。

 何でも、お腹を壊すことがあるというのが、非常食たる所以だった。

 そこで、芽や緑色になった部分を食べるとお腹を壊すこと、きちんと保存すれば問題なく食べられることを説明した。

 そして、トムさんたちが納得してくれたところで、ジャガイモだけでなく他にも色々な食材の栽培を行う予定であることを伝えた。



「しかし、そうなると新たに耕作地を増やす必要がありそうですな」

「そうだね。既に植えている小麦を抜いてまで、新しい野菜を作付けしようとはソフィアも思ってないだろう?」

「もちろんですわ。私も耕作地を増やして対応するつもりです」

「どうやって増やすかは考えているのかい?」

「はい。村の方に全てやってもらうのは時間もかかりますし、難しいと思うので、開墾については私が行いますわ」

「お嬢様が、ですか?」

「えぇ。こう、魔法でパパッとね」

「魔法で!?」



 耕作地を増やすことにトムさんが渋い顔をしているのは、人手の心配をしているからだろう。

 叔父様もそう受け取ったようで、トムさんに助け舟を出すように、耕作地を増やす方法について私に問いかけた。

 以前、叔父様に話したように、魔法で開墾するつもりだと伝えると、トムさんたちは目を丸くした。



「魔法でやった方が早いもの」

「はー。左様でございますか」

「種芋の植え付けや、その後の作業はそちらにお願いするわ。けど、私に手伝えることがあれば手伝うつもりよ」

「ありがとうございます。お嬢様に手伝っていただけるなら、非常に助かります」



 私の言葉に、トムさんは笑みを浮かべた。

 テッドさんとサイモンさんの顔も明るい。

 三人が思っていたよりも、こちらが協力する姿勢であることを理解してもらえたからか、その後の話し合いは円滑に進んだ。

 そして、一通り話が終わった後、私たちは笑顔で別れた。


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