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賢者は探し物が得意です  作者: 橘由華


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16 実験場(1)

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 叔父様から土地と人手の用意ができたと告げられた翌日。

 早速、叔父様と共に現地へと向かった。

 もちろん、専属侍女のマギーも一緒だ。


 用意してくれた土地は屋敷からは離れているため、馬車に乗って移動する。

 代わり映えしない風景を眺めながら揺られること一時間。

 馬車が停車した。


 御者がドアを開けると、まずマギーが降り、次いで叔父様が降りる。

 最後に叔父様にエスコートしてもらいながら私も降りた。

 辺りの様子を窺うために、周りを見回していると、叔父様が口を開いた。



「ここが昨日話した集落だよ」

「本当にここを全て借りてしまっても、よろしいのですか?」

「構わないよ。兄とも話した上で決めたことだ。遠慮はいらない」



 お父様と叔父様が用意してくれた土地は、屋敷のある町の隣にある小さな村だった。

 当初は町の畑を少し借りるつもりだったので、予想よりも広い土地を用意してもらえたことになる。

 昨日叔父様から聞いた話によると、この村の全てを実験場として使っていいそうだ。

 もちろん、使っていいのは土地だけではなく、人手も含まれている。


 丸ごと村一つを実験場とするなんて、叔父様とお父様はかなり期待してくれているようだ。

 非常に驚いたが、この規模の土地と人手があるのなら、かなり色々なことができそうなので、とてもワクワクしている。


 村の様子はというと、この世界ではどこにでもありそうな、普通の村だった。

 村の中心には広場と教会があり、その周りを住戸が囲み、更に外側を塀が囲んでいた。

 建物や建物の間を区切る塀は黄色っぽい石が積み上げられて作られている物が多いが、外周を囲む塀は木の板で作られている。

 中と外で塀の素材が違うのは、木の板の方が壊れた際に修理しやすいからかもしれない。

 そして、塀の外には畑が広がっていた。

 塀の中にも畑はあるが、こちらは家庭菜園と言ってもいいくらいの大きさだ。


 前世の感覚で見ると、小さな村の割に防衛が厳重だ。

 しかし、現世ではこれが普通だった。

 何故なら、現世の獣は凶暴なものが多いからだ。


 現世の獣、いわゆる一般的な動物は、須く体内に魔石を持っており、魔物と呼ばれている。

 魔石を持っているからか、魔物には魔法を使うものもいる。

 大人しい魔物もいるが、その種類は少なく、ほとんどの魔物は人を見ると襲いかかってくる。


 そのため、この世界の村や町は魔物の襲撃を防ぐために木や石の塀で囲まれているのが普通だ。

 そして、合わせて塀に魔物除けの魔法がかけられていることが多い。

 強力な魔物には効かないが、そのような魔物は通常は森の奥深く等に籠もり、村や町の近くまで出てくることは稀だ。

 故に、問題にはなっていない。

 この村の塀も、一見するとただの木の板が並んでいるだけに見えるが、ちゃんと魔法はかかっていた。


 けれども、かかっているのは魔物除けだけのようだ。

 他人が一度構築した魔法の上に、更に効果を重ねがけするのは簡単なことではない。

 しかし、【賢者】の【称号】を持つ私にとっては容易いことだ。

 後で色々と追加しておこう。



「ようこそお越しくださいました」

「やぁ、村長」



 馬車が停車したのは、広場に面して建てられている教会の前だった。

 先触れが来ていたのか、教会の前では神官服を着た人と白髪の男性、そして叔父様と同じくらいの年齢の男性が待っていた。

 叔父様と私が話し終わるのを見てから、白髪の男性が口を開いた。

 神官さんはサイモンさんで、白髪の男性の方が村長のトムさん、もう一人の男性は村長の息子さんで、テッドさんという方だった。

 三人の紹介の後、叔父様が三人へと私を紹介したので私も簡単に名乗った。


 貴族令嬢の嗜みとして、僅かな笑みを浮かべると、テッドさんは呆けたように口を開け、頬がほんのりと色付いた。

 それに気付いたトムさんがテッドさんの脇腹を肘で突く。

 テッドさんが慌てて頭を掻いて誤魔化しているのを、呆れたように見遣った後、トムさんは私に訝しげな視線を向けた。


 まぁ、仕方がないわよね。

 領地の視察といえど、特産品を作るでもない小さな村に高位貴族の令嬢が訪れることが非常に稀だ。

 しかも、今日は村の運営についての話し合いをするということで叔父様は来ている。

 そのような場に、令嬢が同席するのも珍しいことだった。


 短い挨拶を終えると、早速教会の中へと案内された。

 小さい村で落ち着いて話せる場所となると、教会の応接室が一般的だ。

 この村も例外ではないようで、向かった先は応接室だった。


 王都にある神殿とは違い、ここの応接室は非常に簡素な物だった。

 部屋の中にあるのは、木でできた机と、椅子が八脚、それにキャビネットが一つだけ。

 後は壁にタペストリーが掛けられているくらいだ。


 叔父様は慣れているのか、気にした風もなく上座の椅子へと座ったので、私もその隣に座る。

 私たちが座った後に、トムさんとテッドさん、サイモンさんも席に着いた。

 叔父様の正面がトムさんで、私の正面がテッドさん、テッドさんの隣にサイモンさんといった具合だ。


 マギー以外の全員が席に着くと、早速叔父様が口を開いた。


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