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15 領地(8)

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!

 翌日。

 お昼を少し過ぎた頃に、叔父様がそろそろ帰宅するという報せを受けた。

 玄関ホールで待っていると、ホールへと入ってきた叔父様は私を見るなり破顔した。



「ソフィア! 久しぶりだね」

「ご無沙汰しております」



 叔父のダニエルは、お父様のすぐ下の弟で、お父様に代わって領地の管理をしてくれている。

 髪や瞳の色はお父様と同じだが、顔立ちはお祖母様に似たのか、お父様よりも柔らかい。


 カーテシーと共に挨拶を返せば、「すっかり淑女になって」という叔父様の呟きが聞こえた。

 床へと落としていた視線を上げると、優しくこちらを見つめる目と視線が合う。


 お父様と同様、叔父様は昔から姪である私に甘い。

 娘を溺愛している父親と同じくらい甘いのだから、相当だと思う。

 ここまで可愛がってもらえるのは、叔父様に子供がいないからかもしれない。

 理由は知らないが、お父様と二歳しか違わないのにもかかわらず、未だに独身なのだ。



「話は聞いたよ。今までよく頑張ったね」

「ありがとうございます」

「暫くと言わず、好きなだけ領地(ここ)にいるといい。迷惑だなんて考えなくていいからね」



 私がどうして領地に来たのか、詳しい話は既にお父様から聞き及んでいたらしい。

 恐らく、婚約解消に向けて動き始めたのと同時に、お父様が手を回してくれていたのだろう。


 労いと同時に、小さかった頃と同じように、叔父様は頭を撫でてくれた。

 同時にかけてくれた温かい言葉に、心が温かくなる。



「王都から色々と持って来てくれたようだけど、もし不足があれば遠慮なく言っていいからね」

「何から何まで、ありがとうございます。お言葉に甘えて、お願いをしてもいいでしょうか?」

「もちろんだよ」

「それでは、後でお時間を取っていただけますか?」

「わかった。着替えてくるから、居間で寛いでいて」

「はい」



 続けられた言葉に、渡りに船と、お願いしたいことがあることを伝える。

 叔父様は笑顔のまま、快く引き受けてくれた。


 そこで叔父様とは一旦別れ、居間へと向かう。

 居間のソファーに腰を下ろすと、マギーが紅茶を淹れてくれた。

 紅茶を飲みながら、叔父様へと話す内容を頭の中でまとめる。

 そして、一杯飲み終わる頃、着替え終わった叔父様がやってきた。



「待たせたね」

「いえ。お時間を取っていただき、ありがとうございます」

「可愛い姪の頼みだ。構わないよ。それで、お願いというのは何かな?」

「実は、土地と人手を少々貸していただきたいのです」

「土地と人手? 一体何をするつもりなんだい?」



 一般的な貴族令嬢がお願いする内容とはかけ離れたものに、叔父様が怪訝な表情を浮かべる。

 もっとも、言い出した人物が貴族令嬢ではなかったとしても、誰でも用途が気になるものだろう。

 そこで、叔父様に何故そんなものが欲しいのか、一から説明した。



「食材を作るため、ね」

「はい。新しい料理を作りたいのですが、手に入り難い材料が多くて。それらを領地で栽培できないかと」

「そうか……」



 話を聞いた叔父様は、顎に手を当てて考え込んだ。

 叔父様の様子を窺いつつ、説明で渇いた喉を潤すために紅茶に口を付ける。

 ゆっくりと一口飲み込んだ後、再び口を開いた。



「もし、新たに開墾が必要であれば、私もお手伝いいたします」

「ソフィアが?」



 普通の貴族令嬢であれば、労働に精を出すなんてことはありえない。

 それ故に、開墾を手伝うと口にすると驚かれた。



「はい。魔法を使えば、普通に作業するよりも早く済みますから」

「あぁ、そうか。だが、いいのか?」

「えぇ、構いませんわ。もう人目を気にする必要もありませんし」



 あぁ、いけない。

 王族の婚約者ではなくなったのだから、少しくらい羽目を外してもいいだろう。

 そう、意図せず示してしまったようで、叔父様の視線が気遣わしげなものに変わる。

 うっかりと零してしまったことを内心反省しつつ、気にするなという意味を込めて笑顔を返せば、叔父様の表情が緩んだ。



「領地で栽培するとして、規模はどのくらいを考えているんだ?」

「最初はこの屋敷の者が食べられる程度の量を賄えればいいかと考えています」

「最初は、ということは、ゆくゆくは拡大するつもりなのか」

「はい。新しく作った料理が領地に広まれば、必要になる材料も増えるでしょうし」

「言うまでもないことだな」



 新しい食材の栽培に領民を巻き込むことで、領地の発展を促す。

 それには規模も重要だ。

 屋敷で使う量を賄うだけでは、領地の発展には程遠い。

 もっと多くの量を栽培することで、雇用の創出を促したい。


 そこで考えたのは、領民にも食材を使ってもらうことによって、食材の使用量を上げることだった。

 そのために、昨日作ったフライドポテトのように簡単に作れる料理のレシピは、領民にも伝えることにした。


 私の言を受けて、頭の中で計算をしていたのだろうか?

 視線をテーブルへと落とし、再び考え込んでいた叔父様が、徐にこちらを向いた。



「話はわかった。土地と人手を用意しよう」

「ありがとうございます!」



 叔父様の快諾に、笑みが浮かぶ。

 ただ、用意には少し時間がかかるため、待って欲しいとお願いされた。

 どうも、お父様からの許可を貰ってから動くらしい。

 長年、領主代理として領地に関わる全てのことは叔父様が管理していたのだから、後からの許可でも良さそうなものだけど、何やら理由があるようだ。


 何にせよ、多少時間がかかっても用意してもらえるのなら問題ない。

 取り敢えず、今できることはここまでだろう。

 後は準備ができるまで、のんびりと待つことにした。


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