14 領地(7)
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「カーーーーーッ!」
思わず出たというような声の後に、タンッとジョッキが机の上に叩き付けられる音がした。
「うまいなこれ!!」
「そう、口にあったようで良かったわ。良かったら、そっちも食べてみて」
エール片手にフライドポテトを摘まみながら、クローネは上機嫌だ。
止めなければ、フライドポテトだけ食べてしまいそうな勢いだ。
フライドポテトは私も食べたい。
だから、もう片方の料理も食べるよう勧めると、クローネは素直にもう片方の料理――ポテトチップスにも手を伸ばした。
当初はフライドポテトだけ作る予定だった。
しかし、庭師さんの元から厨房へと飛んだ後、ほぼ同じ材料と手順でポテトチップスも作れることに気付いた。
折角なので、両方作ろう。
そう思ったものの、折しも、厨房では昼食の準備中。
あまり長居をすると料理人たちの邪魔になる。
そこで、調理は手早く進めることにした。
自重なく魔法を駆使すれば、あっという間に完成だ。
「こっちも、うまいな! それに食感が面白い」
「そうね。思った通りにできあがって良かったわ」
クローネは摘まんだポテトチップスを一度翳してみた後、大きな口を開けて一口で食べた。
私もクローネの向かい側に座り、フライドポテトに手を伸ばす。
それと同時に、エールのジョッキが目の前に置かれた。
流石、マギー。
いいタイミングだ。
お礼の意味を込めてマギーに微笑んだ後、エールでフライドポテトを流し込む。
うん、美味しい。
このジャンクな感じが堪らない。
久しぶりのジャンクフードににんまりしていると、クローネの前に二杯目のエールが置かれた。
「しっかし、こんな食いもん、よう考えたな。ジャガイモなんて、普段食わんやろ」
「外国の料理を参考にしてみたの」
「相変わらず、よう思い付くもんや。まっ、ええけどな。俺はうまいもんが食えりゃ」
話しながらもクローネの手が止まることはない。
あれよあれよという間に料理が減っていく。
幼い頃に作った卵焼きに続き、フライドポテトとポテトチップスも気に入ってもらえたようだ。
「あー、うまかった。おかわりと言いたいところやけど……」
「残念ながら、材料がないわね」
正直に言うと、私もまだ食べ足りない。
けれども、既にジャガイモは使い切ってしまったため、追加で作ることもできなかった。
「まだ倉庫にあるんとちゃうんか?」
「探せばあるかもしれないけど、花のために置いてある種芋だろうから、食べられる状態の物が残っているか怪しいわね」
余程、気に入ったらしい。
クローネは未練がましく、ジャガイモを探すことを提案してきた。
魅力的な提案だが、残っているジャガイモはそれほどないだろう。
食べられる状態の物となると、猶更だ。
前世の記憶にある料理を再現しようとすれば、今回に限らず、こういったことはこれからも起こるだろう。
必要な材料の中には、現世ではジャガイモのように食材とみなされていない物もある。
それに、この近辺で育てられている野菜の種類もそう多くはない。
ならば、どうするか?
他の領地にある物であれば、取り寄せも可能だ。
しかし、今現在食材とみなされていない物については、他の領地にもない可能性が高い。
しかも、取り寄せるとなると必然的にお金がかかる。
侯爵家の資金は潤沢だが、後々のことを考えると、自領で育てた方がいいような気がする。
「どうした? 考え込んで」
「材料をどうしようかと思って……。これから新しい料理を作るなら、今回みたいに手に入れ難い物もあると思うの。それを、どう手に入れようかと考えていたのよ」
「あー、そうやな。少しなら、俺が持ってきてやってもいいんだが、大量となると難しいな」
「手伝ってくれるの?」
「うまいもんのためやったらな」
クローネからの思わぬ申し出に、目を見開く。
基本的に怠惰な、この精霊が、自ら動くというのは非常に珍しい。
それほど、新しい料理への期待が高いということだろうか。
何にせよ、非常にありがたい申し出だ。
高位の精霊であるクローネのことだ。
お願いすれば、ほぼ確実に手に入れてくれるだろう。
最初の種やら何やらの入手の手間が省けるのは、時間と労力の節約になる。
それに、自領で育てる際に問題が発生しても、精霊の知恵を借りることもできるかもしれない。
検索機能を使えば、問題の解決方法を見つけることも可能だろう。
とはいえ、それを使うのは私。
とても便利な機能ではあるけど、一人で十全に使いこなせるかと言われると、自信はない。
検索キーワードの選定にも、それなりの知識とセンスが必要だ。
少し間違えるだけで、欲しい情報が手に入らないこともある。
それを考えると、クローネが知識を補ってくれるのは助かる。
情報入手の確率が上がるのは間違いないからね。
「それはありがたいわ。なら、叔父様に相談が必要ね」
「相談?」
「えぇ、クローネが手伝ってくれるなら、必要な材料をここで育てようかと思って。その方ができることの幅が広がりそうだし」
「料理の種類が増えるってことか?」
「そうとも言うわね」
「それは、ええな」
満足げにエールを呷るクローネを見ながら、これからやるべきことに考えを巡らせる。
材料を自足するならば、栽培するための土地も人手も必要だ。
魔法を駆使すれば一人でもできる。
けれども、一人より二人、二人より大勢の人間でやる方が、一度にできることが増える。
それに、領民を巻き込むことで、ついでに領地の発展にも寄与できるのではないだろうか?
うん、中々いい考えだ。
そうと決まれば、まずは領地の管理をしている叔父様からの許可が必要だ。
もちろん、領主であるお父様の許可も。
叔父様とは挨拶で会う必要もあるので、その際に話をすればいいだろう。
お父様には、叔父様と話した後に連絡をすればいいだろうか。
そんな風に、頭の中で今後の予定を立てた。