13 領地(6)
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最初に生活魔法でジャガイモの汚れを取り除く。
部屋の清掃や、体の汚れを取り除く生活魔法は、食材の汚れも落としてくれる万能魔法の一つだ。
次に風属性魔法で、持ってきたジャガイモをくし切りにしようとして、手を止めた。
そういえば、フライドポテトと同じような工程で作れる料理があったわね。
ついでだから、それも作ろう。
そこで、半分をくし切りに、半分を薄くスライスにした。
「今、ジャガイモを切ったのは風属性の魔法を使われたのでしょうか?」
「そうよ。包丁でも同じように切れると思うけど、私の場合は魔法でやる方が早いから」
「なるほど。包丁に慣れていない者でしたら、薄切りにするのは魔法を使う方が早くて、綺麗に切れそうですね」
私がジャガイモを切る様子を見ながら、ジェフリーが作業内容を確認してくる。
ジェフリーが言う通り、包丁に慣れていない人でも風属性魔法を駆使すれば、簡単に野菜を切ることができるだろう。
それだけではない。
切らなければいけない野菜の量が多いほど、包丁を使うよりも魔法を使った方が遥かに早く切ることができる。
まぁ、野菜の量に比例して、必要な魔力も増えるけどね。
「ただ、我々が使えるのは生活魔法くらいで、お嬢様のように属性魔法は使えませんので、包丁で切るしかありませんな」
「野菜を切るくらいの魔法なら、貴方たちでも練習すればすぐに使えるようになるわよ」
「そうなのですか?」
多くの人が使える生活魔法と違い、属性魔法を習得するには、それなりの訓練が必要で、現世では使える人が限られている。
そのため、ジェフリーも私の言葉に懐疑的だ。
しかし、現世よりも遥かに魔法が発達していた世界の記憶がある私が教えるとなれば、話は別だ。
現世よりも効率的な練習方法なんてものも、しっかりと覚えているしね。
料理に使う程度の属性魔法であれば、少し練習をすればすぐに使えるようになるだろう。
「もし良かったら、今度教えましょうか? もちろん、報酬は必要ないわよ」
「よろしいのですか!?」
「えぇ。これくらいの簡単な魔法なら構わないわ」
私の提案に、ジェフリーは大きな声を上げて驚いた。
一般的に、魔法の教えを受けるためには、高額な報酬を支払う必要がある。
それを無償で教えようと申し出たのだから、ジェフリーが驚くのも無理はない。
ただ、それは戦闘などの実践で使える魔法を覚えるときの話だ。
ジェフリーに言った通り、料理に使う程度の属性魔法を教えるのであれば、それほどの手間は必要ないのも事実だ。
だから、無報酬でも何の問題もない。
むしろ、ジェフリーたちが魔法を覚えてくれたら、屋敷で出される料理の幅が広がりそうなので、率先して覚えていただきたい。
話が一段落したところで、次の工程へと移った。
くし切りにしたジャガイモと、薄切りにした物、それぞれをボウルの中に入れて、水に晒し、ちょいと時属性魔法を使って時間を進める。
魔法を使ったのは、時間短縮のためだ。
そして、ボウルからジャガイモを取り出し、水気をふき取った。
くし切りにしたジャガイモに小麦粉をまぶせば、下拵えは完了。
下拵えの済んだジャガイモをボウルに入れて、竈の前へと移動する。
さて、油は温まっただろうか?
火にかけられた鍋に鑑定魔法を使い、油の温度を確認すると、丁度良い温度になっていた。
薄切りにした方のジャガイモから鍋に投入する。
時属性魔法で時間を少し進め、火属性魔法で火力を調整し、再び時属性魔法で時間を進める。
そうすれば、あっという間に揚げ終わる。
同じように、くし切りにした方のジャガイモも揚げていく。
こちらは二度揚げした。
その方が美味しいからね。
そうして、余分な油を落としてから皿に盛り、塩をかければ完成だ。
やっぱり、魔法を使うと早いわね。
味見として、それぞれ一つずつ口に運ぶ。
もちろん、少し冷ましてから。
揚げたてをそのまま口にすれば火傷するからね。
うん、塩加減も問題ないようだ。
「できたんか?」
「えぇ。完成よ」
返事をした途端に横から手が伸びてくるが、ぺしりと叩き落とした。
お楽しみは、全てが揃ってからの方がいい。
「完成したんじゃないんか?」
「味見させてあげたいけど、もう少し待った方がいいわ」
「なんでや」
「エールと一緒の方がいいでしょ?」
「エール」という単語に、クローネの目が嬉しそうに弧を描く。
それに笑顔を返しながら、できあがった料理を皿に盛り、エールと共に食堂へと持っていくよう、側にいた者にお願いした。