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11 領地(4)

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


 酒の肴になる物で、現世では見たことない料理……。

 あっ、アレがあったわね。


 思い付いたのは、前世の友人の一人が飲み会のときには毎回頼んでいた料理。

 友人が頼んだ料理にもかかわらず、その場にいる皆もつい摘まんでしまったアレ。

 フライドポテトだ。


 このフライドポテトという料理は、必要な材料の種類も少なく、今から作るには丁度いい。

 問題はこの屋敷に必要な材料があるかだ。


 特にジャガイモは、色々な理由があって、この国では口にする人が非常に少ない。

 貴族の間では、食料ではなく観賞用の花として栽培されていたりする。

 だから、恐らく厨房にはない。


 取り敢えず、屋敷にあるかどうか探そう。

 そう思った私は【称号】に紐づく、検索機能を使うことにした。



 (この屋敷にあるジャガイモの場所)



 頭に検索用のキーワードを思い浮かべれば、目の前に半透明のウィンドウが現れる。

 ウィンドウには、この屋敷の地図が丁度良い縮尺で表示され、その真ん中に逆様になった涙型のマークが表示される。

 マークが示す場所こそ、ジャガイモがある場所だ。

 見た目が前世で使っていた地図アプリケーションとそっくりなのは、前世の記憶が影響しているのかもしれない。


 さて、ここはどこだろう?

 マークが指しているのは、今いる建物の外にある、小さな建物のようだ。

 庭用の道具が置いてある倉庫か何かだろうか?

 このウィンドウを他の人にも見せることができれば、ウォーレンに場所を聞けるのだけど、残念ながら見せることはできない。

 仕方がない。

 行ってみよう。


 そう思い立つと、ウィンドウの表示が自動で変更され、今いる場所からマークまで地図に青と灰色の太い点線が引かれた。

 この点線は目的地までの経路で、経路が複数ある場合は複数の灰色の点線と一本の青色の点線で表示される。

 青色の点線が最も移動時間が少ない経路だ。



「新しい料理を思い付いたわ」

「早いな」

「それほど難しい物ではないから。今から作ろうと思うのだけど」

「ええな」

「じゃあ、まずは材料の入手からね」

「厨房にあるんやないんか?」

「厨房にはないみたい。あるのは庭かしら? ちょっと行ってみるわ」

「ほな、俺も付いてくわ」



 ウィンドウを表示させたまま立ち上がると、クローネも一緒に立ち上がる。

 それを合図に、勝手知ったる何とやらで、私の側へとマギーも近寄る。

 二人が十分な距離にいることを確認した後、転移魔法を起動した。

 そして、対象と行き先を指定すると、魔法を発動したのだった。


 ウィンドウに表示されている経路の意味は、って?

 あれは、そこへ行こうと思うと勝手に表示されるものだ。

 もちろん、徒歩で移動する際には利用するけど、転移魔法を使う際には必要ない。


 ただ、検索機能の地図と転移魔法を組み合わせると、行ったことがない場所でも移動できるので非常に便利なのだ。

 転移魔法は行ったことがある場所にしか転移できないからね。



「ここは?」



 ジャガイモがある建物の前に転移すると、目の前には木で作られた一軒家があった。

 平民であれば、三、四人くらいの家族が住んでいそうな大きさだ。

 もっと小さな倉庫を予想していたので、それよりも大きかったことに驚いた。

 地図で見た際に、私が過ごす予定の屋敷と比較してしまったのが悪かったのかもしれない。



「庭師の倉庫兼、休憩所でしょう」

「中に入っても大丈夫かしら?」

「問題はないかと」



 開いたままのウィンドウを見ると、ジャガイモは建物の中にあるようだった。

 ただの倉庫であれば無断で入っても問題ないだろうけど、誰かが住んでいるのであれば問題だ。

 建物の大きさから人が住んでいる可能性も含めて、マギーに問いかければ、期待していた答えが返ってくる。

 流石、マギー。

 色々と省略された質問だったにもかかわらず、正確に質問の意図を汲み取ってくれたようだ。


 マギーは問題ないと言ってくれたが、休憩所も兼ねているので、誰かが中にいるかもしれない。

 一応、ノックをしてから入ろうかしら?

 そう思い、ドアを叩こうとすると後ろから声をかけられた。



「お嬢様? 何か御用でしょうか?」



 振り向くと、シャツにベスト、それにズボンといった格好の男性が帽子を手に持ち佇んでいた。

 確か、庭師の一人だと思う。

 見覚えのある顔だった。



「えぇ。ちょっと、欲しい物があって」

「何でしょうか?」

「ジャガイモと言えば、わかるかしら?」

「え? はい……、ございますが。花を御所望でしょうか? 花でしたら、まだ……」

「いいえ。欲しいのは種芋の方なの」

「芋、の方ですか? ……、それでしたら中にありますので少々お待ちください」



 そう言うと、庭師さんは建物の中に入っていった。

 欲しい量を伝え忘れたけど、大丈夫かしら?

 一緒に中に入った方が早かった気もするが、待っていろと言われた以上、中には入らない方がいいだろう。

 普段は来ないような人間が現れたからか、ちょっと困った顔をしていたし。


 暫くすると、庭師さんがジャガイモを持って現れた。

 手に持っているのは、中サイズの物が三つ。

 これだと少し足りないわね。



「もう少し欲しいのだけど」

「もう少し、でございますか?」

「えぇ。そうね……、このサイズで十個ほど」

「十個でございますか!?」



 数を伝えると、庭師さんは更に眉を下げた。



「十個も数がない?」

「は……、いえ、ございますが……」



 いやに歯切れが悪い。

 何かあるのかしら?

 不思議に思っていると、マギーが後ろから、そっと囁いた。



「あちらの種芋、恐らく庭師の非常食かと」

「え? そうなの?」



 マギーの発言に驚いて、振り向いて問いかければ、マギーが軽く頷く。

 庭師さんの方に向き直ると、マギーの発言が聞こえたのか、居心地悪そうに身を竦ませていた。


 平民でも口にする人は少ないのだけど、確かにマギーの言う通り非常食であれば食べるだろう。

 ましてや、庭師という植物に精通している者なら、おやつとして食べていても不思議ではない。

 平民がジャガイモを口にしないのは、その見目が不気味に映るからっていう理由だけだしね。



「そう。非常食……。なら、無償で貰うのも悪いわね。……、同量の小麦と交換ならいいかしら?」

「は、はい! ありがとうございます」



 非常食というのであれば、同量または少し多い小麦と交換であればいいだろうか?

 小麦も挽いてなければ、少しの間、保存できたわよね?

 そう思って提案すると、問題なく取引は成立した。

 お礼を言われるようなことではないと思うのだけど、庭師さんは恐縮したように頭を下げた。



「それじゃあ、マギー。悪いけど、小麦を持って来てくれる?」

「俺が行ってくるわ」

「そう? ありがとう」



 マギーに交換用の小麦を取りに行ってもらおうとすると、クローネが進み出てくれた。

 お礼が聞こえたか聞こえないかくらいのタイミングで、すぐにクローネの姿が消える。

 転移魔法だ。

 精霊は自分の属性の魔法しか使えないと思っていたのだけど、力のある精霊は違うようで、クローネも転移魔法が使える。

 彼が取って来てくれるのなら、マギーよりも早く戻って来られるだろう。


 クローネを待っている間に、庭師さんにお願いして、こちらが受け取るジャガイモを選別させてもらうことにした。

 ジャガイモはきちんと保管していないと、芽が出たり、緑色になってしまったりし、食べられる物ではなくなる。

 だから、選別させてもらおうとしたのだけど、庭師さんに食用で使うと伝えれば、すぐに用意してくれた。


 念のために、鑑定魔法で確認すると、庭師さんが用意してくれた芋の全てが食用可能だった。

 庭師さんが植物に通じているからなのか、はたまた、普段からジャガイモを食べているから知っていた知識なのか、その辺りは謎だ。



「うおっ!」

「おかえりなさい」

「おぅ。これでええか?」

「えぇ。これでいいかしら?」

「は、はい!」



 少しして、クローネが戻ってきた。

 転移魔法で戻ってきたため、突然現れたクローネの姿に庭師さんが思わず声を上げる。

 差し出されたクローネの手にはジャガイモの1.5倍の量の小麦が詰まった麻袋が握られていた。


 庭師さんがジャガイモの入った袋と、クローネが差し出した麻袋を恐る恐る交換して、取引は終了。

 次は厨房に行こう。

 庭師さんにお礼を言った後、私たちは再び転移魔法で移動した。


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