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Mission-80 『音と動画と満足感』


「あー、なるほどな。そんで後はこれを押すだけと。おしおし、オールオッケー。サンキューな」


「ああ。んじゃ、さっさと片付ける様に」


 そんな愛想のない達也らしい言葉だけを最後に、プツリと一方的に通話は切れた。

 奴らしいっちゃ奴らしい。何やかんやで、わかんなかったところ…といっても全部なんだが、それは丁寧に一つ一つ教えてくれたしな。

 まぁ、何はともあれこれで問題は万事解決。

 後は――、


「はっはっは、待たせたなお前ら!!」


 決着をつけるだけだ!

 そう勢いよくパソコンの画面を見た状態から後ろを振り返った俺だったが、


「おい…!」


「なに? あ~、茶番は終わったの?」


 目線の先では日下部達は三人ともダルそうにしながらスマホをいじっていた。

 最初に呼び出した時とは打って変わった様な余裕の態度。恐らく先程の俺の醜態を見てどうせ証拠など大してことが無いものだと高をくくっているのだろう。

 ふっ、馬鹿め。だからお前らはダメなのだ。


「ああ、終わったとも」


 そんな彼女らに真っ直ぐと視線を向けて俺は同じく余裕を持ってそう告げた。

 だが、先程まで俺が醜態をさらしていたのは事実なため、ここから長々と大物ぶって講釈をたれてもあんまりよくない気がする。もう結構いい時間だしな。

 という訳で、


「はい、ポチッとな」


「え…?」


 もう再生される直前の画面になっていたパソコンのキーボードを俺はそのまま勢いよく押した。

 カチッ、と音が鳴る。

 そして――それは始まった。


 ――ジジジジジ。

 

 まず始めに聞こえてきたのは、ほんの僅かな電子音。

 だがそれはすぐに消え、


『はぁ~、しかしあの転校生ホントムカつくっ! 何回こんなことさせる訳よ、いい加減わかってくれないかしら!』


『でも、これ以上続けるなら流石にそろそろ趣向を変えた方がいいかもね。あの人、いまいち…というか全く堪えてないように見えるし』


『あ~、それさんせ~い! もっとこうエグイ感じの方がいいんじゃない? ドラマとか少女漫画である感じのさ』


「「「――――!?」」」


「あれれ~、どっかで聞いた事がある声だなぁ~」


 続いて、今まさに俺の眼の前にいる三人の声が教室内に響いた。

 すぐに三人もそれが自分たちの会話だと気付いたのだろう。数秒前の余裕はどこへやら、一気にその顔色は青く染まった。

 

『いや、エグさで言ったらあの噂を流すのも中々にエグかったと思うけどね』


『あ~、あれね! というかマジにあれでまったく気にしてないって感じはヤバいよねぇ~、うちだったら学校行くのもやんなるわ~』


『っ! 思い出せば出すほどに忌々しい女!」


 そしてそうしている間にも、音声は再生され続ける。

 

「っ!? なにっ、これで私たちが貴女に嫌がらせをずっとしてたって言いたいわけ!? こんな音声だけでその完全な証明になるとでも言いたいの!?」


「――――」


 普通に証明にはなると思うけどなぁ。日下部達の一連の行動を示唆するような致命的な発言がいくつか混じってるし。

 だが、せっかく用意したのだ。言い逃れるんなら、更に決定的な証拠を見せてあげようじゃないか。


「じゃあ、これはどうだ?」


 ――カチッ、カチカチッ。


 再びキーボードを何度か押す。

 すると今度は背後に設置していたプロジェクター(これも達也に事前にセッティングしてもらったもの)から映像が俺の横の黒板に向けて射出された。

 そしてそこに映っていたのは、


「…………うそっ」

「「――――っ!?」」


 その音声と同時刻の昇降口の監視カメラ映像。

 そこには三人で下駄箱前で話す彼女たちの姿がハッキリと映っていた。そして映像の中の彼女たちはそのまま一つの下駄箱に手を伸ばし、そこに紙の様な何かを入れた。


「おいおい、日下部さん。そこは俺の下駄箱だよ」


「………待って」


「そして、驚きだ。今日登校してみれば、こんな脅迫状紛いの手紙が俺の下駄箱に入ってるじゃあ~りませんか」


「……ちょっと待って」


「いやぁ~、これは流石にねぇ。俺も信じたくはないけど、これは決定的な証拠だと言わざるを――」


「待ちなさいって言ってるでしょ!!」


「――――」


 日下部の怒号により、シーンとした重い沈黙が教室を満たす。

 そのいきなりの怒鳴り声に取り巻き二人も若干ビビッている。


「そっ、そもそもこんな映像どこから持ってきたのよ!? これ、監視カメラでしょ! 学園の監視カメラ映像なんて生徒が見れるはずないじゃない!? もし変な方法で入手したんなら、これは大問題よ!!」


 そして日下部は論点をズラす様にそう矢継ぎ早に捲し立てた。

 痛いところを突かれた。――だが、突かれて痛いところになんのカバーもしていない程に俺はアホじゃないんだな、これが。


「これはある先生に頼み込んで拝借したのさ」


 冷静な声音でそう答える。

 もちろん嘘だ。だが、


「嘘よ。そんなことできる訳が――」

 

「普通ならな。だが、お前たちのおかげでそれが可能になった」


「…何を言っているの?」


あの噂・・・はちょいとやり過ぎだったな、って話だよ。あれは先生方の耳にも結構入っていたらしくてな。何人かの先生から心配して声をかけてもらったんだ。それを利用させて頂いた。最近変な手紙やら他の嫌がらせもあって、昇降口のカメラに犯人が映ってるかもしれないから確認させて欲しいってな」


「~~~っ」


 その嘘を補強する材料は向こうが用意してくれたって訳だ。

 

 ――カチッ。


 そして、完全に諦めモードの三人を前に俺は音声と動画を停止させる。


 あ~~~、スッキリした~~~!

 やっぱりやられたらやり返さねぇとな! やられっぱなしは体に毒だぜ!

 ようやく溜まりに溜まったフラストレーションを発散させることができたぜ。よかったよかった。


 ………………さて。

 

 俺の胸は確かな満足感に溢れていた。溢れていたのだが…そこですぐに俺は新たに一つの問題に直面することになった。

 『これからどうしよっ?』という問題である。


 意図せずにではあるが、日下部にループさせられて怒りの我慢が限界を迎えたが故に始まった今回の正面切っての逆襲作戦。だが、この時点で正直もう十分に俺は満足していた。

 だが、展開的にはここからがむしろ本番。これからこの三人に何か罰を与える展開な気がする。でもなぁ、そういうのは柄じゃねぇしなぁ。今の『嫌がらせがバレてこれからそれが白日の下に晒されるかもしれない』という絶望の心境を味わう時間を過ごすだけで相応の罰は与えた気もするしな。


 ――どうやって纏めますかねぇ…。ま、なるようになるか。


「じゃあ決定的な証拠を見せつけられたところで――これ、どうしよっか? 日下部さん」


 とりあえず、俺はそう見切り発車で追求から断罪へと移行したのだった。


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