Mission-08 『甘さと仕組みとお説教』
「あー、もう!」
パッと意識が覚醒したと同時に頭をかきながら起き上がる。
そして、視線をそのままREBORN-METERに向けると案の定と言うか予想通りというか、そこに浮かぶ数は100から99へと減少していた。
つまりさっきのがループ。
「やあ、久しぶり…とはお世辞にも言えないな」
そして、すでにテレビはついておりそこには神様が相変わらずお面を被ったまま映っていた。
クソッ、こうなることがわかってたみたいな感じだな。
「おいっ、ちょっとき――」
「まあ、待て。貴様に聞いてほしいものがあるのだ」
「ん?」
そう俺の言葉を遮ると神様が何か機械のようなものを取り出した。
ボイスレコーダー? つーか、なんで神様が思いっきり現代の機械を使ってんだよ!?
そして神様がおそらく再生スイッチと思われるボタンを押す。すると、
「悪いが終わったときにこのメーターの数字が100から減ってないこともあり得るぜ」
「…」
そんな声が再生された。
俺の声だった。その言葉も当然、俺がループ前のこの部屋で言った言葉。
こっ、こいつ…!? 録音してやがったのか!? 神のくせになんてセコイ野郎だ…!!
「悪いが終わったときにこのメーターの数字が100から減ってないこともあり得るぜ」
「…おい」
「悪いが終わったときにこのメーターの数字が100から減ってないこともあり得るぜ」
「…おい、おいって!」
「悪いが終わったときにこのメーターの数字が100から減ってないこともあり得るぜ」
「だからそれ! それ止めろ!! どんな嫌がらせだ!?」
そして、無言で俺の言葉をひたすらに再生する神様。
さすがにそんなことをされてはこっちも恥ずかしくなってくる。あー、もう! なんか俺がメチャクチャ粋ってたみたいじゃねぇか!!
そんなおれの絶叫に満足したのか「ふむ」と頷くとようやく神様がレコーダーの再生を止める。
「ったく、性格の悪い野郎だな」
「何を言っている、むしろ性格が良いほうだろう。愚かな敗者にこうして自身の愚かさを直接教え込んでやっているんだ」
「…だれが敗者だっての。まだ負けてねぇよ」
「よくわかってるではないか。まだだ。いずれ敗者になる。断言してもいいがこのままだと貴様は生き返ることなどできない」
「んなこと、わかんねぇだろ! 今回はただ運が――」
「わるかっただけ、とでもいうつもりか? ではその運が悪い事態があと99回続いたらどうする? 今際の際にも「運が悪かった」と諦めるのか?」
「…それは」
その追求に思わず押し黙ってしまう。
…確かにこいつの言うとおり、あんだけ自信満々だったのに俺はいきなり失敗した。それに加え、反射的に言い訳のような言葉を並べてしまった。
あー、なにやってんだか…男らしくねぇなぁ。
そんな俺に向かい神様が「はぁー」とため息を吐く。
できの悪い子どもを相手にしているかのような少々呆れ困りの様な溜め息だった。
「そもそも貴様は甘すぎる。これは男の娘関係以外の何事に関してもな」
「?」
「何故初めにループに関して私に説明を求めない、そこからして甘いのだ。貴様はこのループの仕組みについて私に問うべきだった」
「仕組み…、あっ! 戻る時間か!」
「そうだ。もし最初に貴様の言った通りに一度のミスもなく最終日を迎えたとする。そしてその最終日に置いて初めて失敗した。そこで今の様にループで初日に戻されたとしても文句は言えんのだぞ。ルールを把握・確認していなかった貴様のミスになる。まったく貴様はあれだな、ゲームの説明書を読まない口だろう?」
「…おっしゃる通りで」
「まったく、いつか変な契約書とかにサインしそうだな貴様は。それで一応伝えておいてやるが、このミッションの男の娘だとバレた際のループ先は基本的には十分に失敗を挽回できそうな時間となっている。その他にも意識の暗転時に貴様が念じればその前後の任意の時間にループが可能だ」
「そりゃご丁寧にどうも」
「全くだ。本来ならば最初の説明の際に聞かれ答える内容だろうに。ループできると知った瞬間に浮かれてそれで終わりにしてしまうのだから驚いた」
「………」
うん、返す言葉が無いな。
確かにループできるとか楽勝だな、と思ってその仕組みのことがスッカリ頭から抜け落ちていた。反省だな。
…というか、こいつのお説教のタイプが神が人間にするというよりも親が子どもにするみたいな感じなのは何故なんだ。
「それともう一つ。馬鹿正直にそのまま受け入れたが、貴様はこの世界に私の介入がどこまで及ぶのかも確認すべきだった」
「? どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。今回貴様をループさせる原因となった人間の女。初対面ながらあんなに距離感を近く接してきただけではなく、いきなり胸を触ってくる。そんな女が現実にいると思うか?」
「なっ!? まさか、あれってお前の仕込みなのかよ!?」
「いや、違うぞ。普通の一般人だ」
「いや、違うんかい!? なんっなんだよ、お前!? 完全にそうの流れだったろうが! おちょくってんのか!?」
「まあ、落ち着け。今回はたまたま変わった同級生なだけだったが、もし私がこの世界に介入できるのだとしたら、そういう存在を生み出すこともできるのだ。そういう意味でここも確認すべき点だったと言っているのだ」
「…なら最初からそう言ってくれませんかね」
「最初からそう言ったら貴様のような阿呆の心には残らんからな。神の気遣いだ。ちなみに私から貴様の今いる世界には基本的に干渉はできない。できるのは、せいぜいこうテレビ越しに貴様と小話に興じるくらいだ」
「こっちは全然興じれてないんだけどな…」
まあ、なんにせよここは普通の世界となんら変わらんと言うことだな。確かにこれもちゃんと知っとかなきゃなことだよな。
…というか、そう考えるとやっぱ厄介だな、伏見緋音。確かにループの衝撃で頭から飛んでたけど初見でいきなり胸を触ってきたからな。これからも要注意だ。
「さて、これにてとりあえずのお説教は終わりだ」
「はいよ、ありがたい話をありがとな」
「うむ。――では、これより貴様がこれから男の娘として生きていくことについての私からの大変ありがたいアドバイスを始めようか」
「……えっ?」
この会話まだ続くのか?