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Mission-78 『準備と起動と乙女の悩み』


 撃退作戦ハイテク化から一日経過した次の日の放課後。


「うい~っす、来たぞ」


 言われた通りに俺はその足で再びPC教室までやってきた。

 そんな挨拶と共にガラリと扉を開けると、昨日と同様に室内から部員たちの注目を浴びる。そして俺の目的の人物も昨日と同様に「来たか」と愛想なく俺を迎え入れた。


「どうよ、進歩状況は?」


「当然キッチリできあがってる。――さて、じゃあ頼む」


 そしてすぐさま、俺とは違う別の方を見てそう声をかける。

 「はい」とキリッとした返事と共に一人の女子部員が立ち上がる。昨日見た夕湖という女子だ。

 …ん? 待てよ。


「頼んだってどういうこと?」


「いまから本番前の予行演習をしてもらう。話は移動しながら夕湖に聞け」


 俺の疑問にそう素っ気なく達也が答える。

 なるほど、要は実際に機械やらが作動するか見る感じかね。


「……では行きましょうか。葦山先輩」


「おっ、おう」


 そして俺はすでにPC教室から出ようとしている夕湖の後に続いてすぐにその場からとんぼ返りすることになったのだった。



「目的地は昇降口の下駄箱か?」


「…そうです」


「そこで明日の計画が上手くいくかの検証をすると」


「…そうですね」


「ま、そりゃそうだよな。そういや夕湖は何年なんだ?」


「…二年です」


「…ふ~ん」


 そこから昇降口へと向かう途中、必然的に俺は夕湖と二人きりになってしまったわけだが…中々に会話が盛り上がらない。

 転校初日に委員長と二人で廊下を歩いた時ともまた違う感じだ。なんというか、俺の勘違いかもしれないが意図的に夕湖の方から距離をとられている様なそんな気がする。

 俺なんかしたかな…? いや、いきなり部外者の先輩転校生が自分らの部室に入って来てなんかごちゃごちゃやってたら何もしなくても警戒しちまうか。いやいや、そもそも例の噂が夕湖の耳に入っているって可能性もある。あれ? 意外と思い当たる節が多いな。


「着きました。葦山先輩の下駄箱はどこですか?」


 そんなことを考えるうちに昇降口に着いてしまったらしい。夕湖の声でその事実に気づく。

 よし、一先ず考えてもしゃーねーし後にすっか。そしてそう楽観的に決めると、


「ん。こっちだ」


 今度は俺が夕湖を先導するように歩き出す。

 えーっと、俺の下駄箱はこの列の――、


「あった。ここだ」


 前に立ち、指を指す様にして夕湖に伝える。

 それを見て夕湖は「開けてください」とだけ言うと、手に持っていた小さめのバックから何かを取り出した。指示通り下駄箱を開けた後に、夕湖の手に視線を移すとそこには手の中に握れるくらいのサイズの長方形の機械の様なものがあった。

 …なんか物々しいな。


「これは部長が改良した小型録音機となります」


 俺の視線を察してか、夕湖がその機械の正体を説明してくれる。


「おおっ…!」


「仕組みは…見せた方が早いですね」


 そう言うと夕湖が俺の下駄箱の中へとその小型録音機とやらを入れる。

 そして今度はバックからスマートフォンを取り出して、どこかへと電話をかけ始める。


「――はい。準備は完了です。…はい、わかりました」


 すぐにスマホは通話状態になり、その後やり取りを数度して夕湖が俺にスマホを手渡してくる。

 相手は恐らくというかほぼ間違いなく達也だろう。俺はそのまま差し出されたスマホを受け取り、耳にあてた。


「今からしっかりと起動できているかの確認を行う。下駄箱を開けてその前で何か適当な独り言でも言ってみろ」


 無駄話無しでいきなりメッチャ事務的な指示が飛んできた。

 まぁ、予想通りだ。俺も「りょーかい」と甘んじてその指示に従うことにする。


「達也君。キミあれだね、友達にはもうほんのちょっと愛想良くしても罰は当たらんと俺は思うよ」


「余計なお世話だ」

 

「ははっ、これは独り言だよ独りご――」


「この作戦、今からでも降りてもいいんだぞ」


「ごめんなさい、調子乗りました!!」


「ったく…」


 俺のちょっとした悪戯心の悪ノリからの変わり身全力謝罪ににスマホの向こうで呆れたような声が返ってくる。

 が少しして、今度はスマホ越しにカタカタとキーボードを叩くような音が聞こえてきた。

 そして、


「ん、正常に作動しているな。お前のムカつく声が明瞭にとれてる」


「…そりゃどうも。って、ん? 録音した音そっちで聞けるのか?」


「ああ、というかこっちに自動的に音声データを送る仕組みだ。これを明日の朝までつけっぱにしてカメラ映像で捉えた目標が現れたの時間の音声データを調べるてな流れだ。あ、録音機はバレない様にしっかり上履きで隠しとけよ」


「ん、りょうかい。まぁ細かいことは解らんけどお前が言うんならそれで大丈夫だろ」


「いつそんな信頼を得たのかはなはだ疑問だが…まぁお前がいいならそれでいい。じゃ、そういうことだ。明日を楽しみにな」


 と、それだけ言ってプツンと通話はきれた。

 う~ん、ドライだね。ホントもうちょ~っと愛想良くてもいいのになぁ。そんなことを思いながら「サンキュ」と夕湖にスマホを返す。


「とりあえずこれで終わりかな」


「…そうですね」


「じゃあまたPC教室戻っても何か言われそうだし、俺はこのまま直帰するな」


「…はい」


 夕湖の了承の返事を受けて、上履きと靴を入れ替える。もちろん、さっき言われた通りに小型録音機を上履きで隠すようにするのも忘れない。

 そして、「じゃあな」と別れを告げて靴を履こうとした俺だったのだが、


「――あの、葦山先輩…!」


「ん? どした?」


 そこで何故か夕湖に背後から呼び止められた。

 予想外のその展開に不思議に思いながら振り返る。すると、夕湖は何か逡巡するように両手をグッと握りしめながら、 


「なんであんなに部長とは仲がよろしいんですか?」


 小さな声でそう聞いてきた。

 えっ?


「仲良さそうに見える? メッチャ素っ気ない対応されてるぞ」


「あれでも普段の部長に比べたらだいぶ話していますし、距離感も近いです。他の部員のみんなも驚いてました」


「へぇ、そうなんだな…」


 あれでだいぶ話してるのか…。

 っていうか、なんで夕湖がそんなこと――はっ!!


 そこで俺の脳が珍しく冴えを見せた。

 話す夕湖の顔がいつの間にかどこか朱を帯びている。そしてさっきまでの俺に対する態度。

 それが夕湖が達也に特別な感情を帯びていると考えれば辻褄は合う。


 なるほど、なるほど。

 すみに置けないじゃないか、達也くん。…まぁ絶対アイツの方は気付いてないんだろうけど。

 なら気付いた俺の役目は一つだけだ。


「まぁ、俺の方は一応友達だと思ってるから。教室の席も隣でたまに話すから自然と距離感も近づいてたのかもな、それで仲良く見えたんじゃねえの。いやぁ~、あっちにも友達と思ってほしいもんだぜ」


 『友達』というワードを強調して、『俺らの関係はそういうんじゃないし、そうなることもないよ~』と婉曲に伝える。

 それを聞いて、夕湖は心なしか安心した様に「そっ、そっか…。友達ですか」と小さな声で呟いた。


 ――よし、最後にもう一押し。


「唐突だが夕湖。とんかつは好きか?」


 そのホントに唐突過ぎる問いに「えっ?」と目を白黒させる夕湖だったがやはりまじめな性格なのだろう、


「うーん、どちらかといえば好き…ですかね。これでも一応女子なので、あんまり脂っこいものは食べない様にはしてますが」


 そう少し考えて真面目に答えてくれた。

 よし、嫌いじゃないならまぁ脈ありだろ。あのとんかつ愛からして、あいつ多分とんかつ嫌いな女子とか嫌いそうだしな。


「あいつともっと仲良くなりたいんなら今度時間が空いた時にでも晩飯にでもとんかつ食べに行きましょうとか誘ってみたらどうだ?」


「ええっ!?」


「多分乗ってくると思うぞ。ま、何となくだけどな」


 そうカラリと笑い、意外と実用性のありそうなアドバイスを置き土産にして、


「じゃあな。色々と助かった」


 困惑する夕湖を背に俺は学校を後にしたのだった。


気付けば少し前になんと初投稿から一年が経過していました、いや~早いものですね。

ここまでお付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございます!

そして、かなり物語の進行ペースがゆったり気味な本作ではありますが、二年目も何卒よろしくお願いいたします!!

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